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2019年01月20日09:53

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八大龍王伝説 【571 知将対決(一) 〜東方防衛圏〜】


 八大龍王伝説


【571 知将対決(一) 〜東方防衛圏〜】


〔本編〕
「何?! クムルヲー殿が亡くなったと……?! 馬鹿な! 何かの間違いではないのか?!」
 クムルヲー戦死の一報を聞いた時の、シェーレの一声がこれであった。
 普段、何事にも冷静沈着なシェーレが、素で驚き、発した言葉であった。

 同年五月二八日。
 カルガス國、クルックス共和国、フルーメス王国にゴンク帝國を加えたいわゆる八カ国連合の東方四カ国連合の本陣は、カルガス國の王城であったナゾレク・エクサーズに置かれていた。
 ナゾレク地方の地方領主であり、東方四カ国連合の調整役でもあるシェーレは、ナゾレク・エクサーズにいた。
 今、ナゾレク・エクサーズには、三月三一日に復興を果たしたゴンク帝國の新帝王スーコルプアーサーを除いた三カ国の要人が一堂に集結している。
 スーコルプアーサー帝王だけが、ジュリス王国の王の叔父にあたるイデアーレ将軍と共に、聖皇国の宰相ザッドの籠るゴンク帝國の帝都であったヘルテン・シュロスを包囲中で、ナゾレク・エクサーズにはいなかったのであった。
 各國の王の遺児などの要人は、皆、ナゾレク・エクサーズの本陣にいたが、各國の将軍といった指揮官たちは、ヴェルト大陸東方に広く軍を展開しており、そこから聖皇国の王城であるマルシャース・グールに向けて、着々と拠点を確保している最中であった。

 さて、聖皇国の王城マルシャース・グールの東方は、北方ほど防衛圏が整備されていない。
 聖皇国にとって、聖王国時代から警戒すべき敵國は、北方の強国バルナート帝國であって、正直、それ以外の國はそれほどの脅威ではなかった。
 そのため、王城の東方については、北方の防衛圏に比して脆弱であった。
 それでも南方や西方のように、他国が全く無いわけではないので、防衛圏がないわけではない。
 今、南方や西方に他国が無いといったが、厳密にいうと、南方にはフルーメス王国があった。
 しかし、フルーメス王国は弱小国である上、ヴェルトの地から海を隔てる島国であったため、ソルトルムンク側にとって攻めてくる敵国という認識は皆無であった。
 フルーメス王国からすれば、大変失礼な話である。
 いずれにせよ、中堅國のカルガス國を始め、クルックス共和国、ゴンク帝國の三国がヴェルトの東海岸部に実際に存在しており、当然、それらの國々のソルトルムンクへの侵攻の可能性はあるため、これも当然ではあるが、王城東側にも防衛圏は存在していた。
 しかし、バルナート帝國のある北方のように『マルシャース聖土』と呼ばれるような聖皇直轄地で、かつ十の城と二十の砦で形成されている王城防衛圏に比べて、非常に簡素な防衛圏となっている。
 防衛圏の城は三つで、さらに東方王城防衛圏にあたる三つの地方――スキンムル地方、アグロクティマ地方、タウィーア地方の三地方は、王の直轄領ではなく、それぞれに地方領主が治める領土であった。
 地方領主が治める領土であれば、基本的な為政は地方領主が行う。
 東方王城防衛圏という位置づけにある三地方であるため、その地方の軍備や防衛について、中央政府がある程度口出しすることは可能であるが、直轄領のように直接中央政府が政策を遂行することは基本ない。
 従って、それぞれの地方領主の判断で防衛圏が構築されているため、北方のように十の城と二十の砦が一体となった防衛圏を構築しているのとは事情がかなり異なる。
 質量ともに北方に比べて防衛圏としてのレベルは低く、さらに王城が実際に東方から脅かされたのは、龍王暦二〇〇年代の六将大戦役時代のみであるため、ますます放っておかれて当然の状態であった。
 そのような位置づけである東方王城防衛圏であった故に、東方四カ国連合軍は、特段大きな障害もなく、その防衛圏の城や砦を一つ一つ着々と切り崩していっていたのであった。
 実際に防衛圏の一つであるスキンムル地方の領主は、グラフ将軍の親友であるミラーグスであったため、シェーレが亡国の残党軍と呼応して聖皇国から離反したわずか五日後の同年三月二日には、聖皇国からシェーレと同じく離反している。
 地方領主として民からも広く愛されていたミラーグスの離反に、スキンムル地方の九割方の領民が聖皇国から離反し、その時点で既に東方王城防衛圏の防衛能力は半減したといっても過言ではなかった。
 それでも、まだ二地方の主力の城が健在であったため、その二城を攻略しない限り、王城を直接狙うことはできない。
 しかし、同年五月二四日、聖皇国の東方王城防衛圏の一番北側に位置するアグロクティマ地方のアグロクティマ城が陥落した。

 陥落させたのは、カルガス國の英雄、故ヲーサイトルの十将のうちの生き残った三将が率いたカルガス國軍の精鋭部隊であった。
 アグロクティマ城に籠っていたのは、アグロクティマの地方領主アーホルンであった。
 城主としても兵たちを束ね、粘り強くカルガス國軍に当たっていたが、衆寡敵せずの理(ことわり)から、ついに落城の憂き目を見ることとなった。
 城主のアーホルンが、落城前に城から脱出に成功したことが、唯一の救いである。
 アグロクティマ城の重要性は、聖皇国側も十分に認識しており、ロンドブルー将軍率いる千の兵を援軍に向かわせた。
 ロンドブルー将軍は、アグロクティマ城守兵と合流するために、十度(じゅったび)カルガス國軍に戦いを仕掛けたが、結局、カルガス國の知将クムルヲーの戦術の前に、ただの一度も勝利できず、一方的に兵を減らす結果となってしまった。
 そして、アグロクティマ城陥落に際して、ロンドブルー将軍の援軍部隊は、脱出してきたアーホルンを救出するのが精一杯の状態であり、アーホルンと共に王城へ向かって撤退を始めたのであった。
 その時、ロンドブルー将軍の兵は千から五百へと減っており、その敗残の五百の兵を、二千のカルガス國兵が追撃したのである。
 その追撃部隊の指揮官は、ヲーサイトル十将の一人である猛将ガガヲー。
 むろん、知将クムルヲーの命に従っての理にかなった追撃戦であった。
 アグロクティマ城陥落の翌日である五月二五日に、ナゾレク・エクサーズにいるシェーレが受けた報告が以上であった。
 それから三日後の同月二八日にシェーレが受け取った緊急の報が、前述した知将クムルヲー戦死の一報であったのである。



〔参考 用語集〕
(神名・人名等)
 アーホルン(アグロクティマ地方領主)
 イデアーレ(ジュリス王国の将軍。ユンルグッホ王の叔父)
 クムルヲー(ヲーサイトル十将の一人)
 ガガヲー(ヲーサイトル十将の一人)
 グラフ(正統ソルトルムンク聖王国の六将の一人)
 ザッド(ソルトルムンク聖皇国の宰相)
 シェーレ(元ナゾレク地方領主。ヴェルト八か国連合東方戦線の指揮官の一人)
 スーコルプアーサー帝王(ゴンク帝國の帝王)
 ミラーグス(スキンムル地方領主)
 ロンドブルー(ダードムスの腹心の部下。将軍)
 ヲーサイトル(カルガス國の老将。『生きる武神』の異名をもつ。故人)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖皇国(龍王暦一〇五七年にソルトルムンク聖王国から改名した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃)
 ゴンク帝國(南東の小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。ドラゴンの産地。『城塞帝國』の異名を持つ)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)

(地名)
 アグロクティマ城(アグロクティマ地方の主力の城)
 アグロクティマ地方(聖皇国東方の地方。東方王城防衛圏の一つ)
 スキンムル地方(聖皇国東方の地方。東方王城防衛圏の一つ)
 タウイーア地方(聖皇国東方の地方。東方王城防衛圏の一つ)
 ナゾレク・エクサーズ(元カルガス國の首都であり王城)
 ヘルテン・シュロス(元ゴンク帝國の帝都であり王城)
 マルシャース・グール(ソルトルムンク聖皇国の首都であり王城)
 マルシャース聖土(ソルトルムンク聖皇国の北方王城防衛圏の直轄領の通称)

(その他)
 八カ国連合(ミケルクスド國のラムシェル王の提唱によって実現した八大龍王によって建国された八か国による連合軍のこと)
 六将大戦役(龍王暦二百年代の大戦争。ソルトルムンク聖王国の六大将軍が活躍した戦いであったため、その名がつけられた)
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