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2016年09月24日23:14

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ユベール・スダーン 東京交響楽団 ベルリオーズ≪ファウストの劫罰≫

(9月24日、サントリーホール)
 ユベール・スダーンの公演に賭ける気持ちがひしひしと伝わってくる公演だった。演奏者もスダーンの気持ちに応えるように、ベストのパフォーマンスを繰り広げた。こういうコンサートに立ち会うと、本当に幸せな気持ちになる。

 今日のコンサートの立役者は大勢いるが、まずは歌手陣をあげなければならない。筆頭はミハイル・ペトレンコ[メフィストフェレス(バス)]。圧倒的に素晴らしい。身体の中に拡声器が入っているのではないか、とばかりに響き渡る声は、柔らかく格調があり、狡猾で鋭いメフィストフェレスとして、これ以上の歌手はいないのでは、と思わせる。
 次は、マイケル・スパイアーズ[ファウスト(テノール)]。ほれぼれとする美しく豊かな声量の声。彼もまたファウストらしい悩める若者の雰囲気が良く出ていた。
 ソフィー・コッシュ[マルグリート(メゾ・ソプラノ]も素晴らしい美声と伸びやかな声、声量もたっぷりあるが、ヴィブラートが強いのか、音程なのか、どこか不安定なところがあった。
 これら三人と比較されてしまうのは厳しいが、北川辰彦[ブレンデル(バス・バリトン]は、スケールが小さく感じられる。

 スダーンの指揮は、ベルリオーズの色彩的な音色を徹底的に追及していたと思う。東京交響楽団の弦が、これほどカラフルに聞こえたのは初めてだ。ヴィオラ、チェロ、コントラバスの音からいろいろな色を感じる。ピチカートのソフトでよく響く音も絶品。ヴァイオリンは透明感があり、ベルリオーズの音楽に最適な響き。木管がまたいい。フルート、ピッコロ、オーボエ、クラリネットそして「ファウストの劫罰」に欠かせない4本のファゴットも色彩感たっぷり。金管も軽やかさを持ち、フランス音楽にふさわしい。

 色彩感、透明感とともに、東京交響楽団から、緻密でずっしりとした重量感も引き出したスダーンが最大の功績者であることは確かだが、合唱もまた重要な役割を果たす。東響コーラスは150名前後の威容。重量級であり、正確でクリアなハーモニーだった。全員暗譜で歌うところも、いつもながらすごいと思う。ただ、立派すぎて、酔っ払いの場面はまじめすぎ、最後のマルグリートが天国に昇っていくところは、力が入りすぎ重くなっていたように思った。東京少年少女合唱隊の中の三人が、天からの声として、最後に「マルグリート!」と高みから呼びかけたのは、スダーンの指示とのことだが、清らかでよかった。

 先日の高関健、東京シティ・フィルの「ファウストの劫罰」もよかったが、ユベール・スダーン、東京交響楽団の演奏は、強力なソリストと合唱、オーケストラの色彩感と緻密さで、一歩抜きんでたと言えるかもしれない。しかし、こうした比較は正直したくない。2つの「ファウストの劫罰」が聴けたことのほうの喜びがはるかに大きい。


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