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2015年05月20日22:04

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アンスネス マーラー・チェンバー・オーケストラ ベートーヴェン:ピアノ協奏曲全曲演奏会 初日

(5月15日 東京 オペラシティ・コンサートホール)
 レイフ・オヴェ・アンスネスとマーラー・チェンバー・オーケストラ(MCO)によるベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲演奏会初日は第2、3、4番が演奏された。MCOはプレトークで楽員が話した通り、メンバー同士がお互いに聴き合う室内楽のような演奏を展開し、アンスネスとの一体感はこれ以上ないまで深められていた。

3曲の中では第3番がとびぬけて感銘度の深い名演だった。ベートーヴェンが一大飛躍を遂げた作品の質もあるが、それ以上にアンスネスとMCOが成し遂げた演奏が素晴らしく、今後これほどの第3番を聴くことができるだろうかと思わせるものがあった。

序奏から惹きこまれるが、それは第2番と違いバロック・ティンパニとナチュラル・トランペットが加わったことで緊張度が増したためでもある。MCOの弦はヴィブラートをわずかにかけるだけで音色は澄んでおり、それでいて充分な厚みもある。アンスネスは強さを持った打鍵で入る。展開部のピアノの風格のある凛とした響きが忘れられない。

 第2楽章が絶美の世界だった。アンスネスのピアノはまさに祈り。久しく忘れていた精神的な深さがそこには感じられた。ピアノの響きは薄いグラスに精巧で芸術的な彫刻を施していくようであり、硬質なダイヤのような透明感と強さを持った響きが会場の空気を一変させ、場内に一種の神聖な雰囲気さえ漂う。主題が戻ってくると祈りはさらに深くなり、短いカデンツァでそれは頂点に立ちそして消えていった。

第3楽章ではオーボエとティンパニとトランペットが音楽に勢いを与えた。オーボエの吉井瑞穂が素晴らしいソロを聴かせ、ティンパニの芯のある固い響きが弾みをつけ、トランペットの炸裂が輝きを添える。副主題を吹くクラリネットもうまい。ピアノは珠をころがすように流麗な響きを続ける。
鮮やかなカデンツァからコーダに一気に駆け抜けるがここでもティンパニが存在感を見せる。プレストでMCOが爆発力を見せて曲は終わった。
これでコンサートが終わったようなブラヴォと拍手が巻き起こる。MCOの楽員も自分たちが成し遂げた演奏に対する感動が湧き起こっているように見えた。アンスネスに対する称賛は聴衆以上のものがあった。
正直な気持ちとして、この第3番を聴いてしまうと、後半の第4番は聴かないで帰ったほうがいいかもしれないという考えが浮かんだほどの演奏だった。
事実後半の第4番も完成された演奏ではあったものの、第3番の衝撃が大きすぎて、集中できなかったのが本音だ。第2楽章でのピアノとオーケストラの対話が素晴らしかったことは頭の中ではわかるのだが、心がいっぱいでしっかりと味わうことができなかったのはもったいなかった。
 
第2番は個人的にベートーヴェンの5曲の中では最も好きな曲で、アンスネスとMCOは室内楽のような親密な対話を続け清冽な演奏だったが、第2楽章最後のピアニシモのオーケストラとピアノの対話が最も心に残った。
 
最後にアンスネスの言葉を紹介したい。今夜のような演奏を聴くと、アンスネスの言うことは素直に信じることができる。
「ベートーヴェンの音楽は、私にとって最も人間的な、深い精神性を感じる音楽です。彼の革新的で斬新な音楽は、今なお私たちの心を揺さぶり、そこには不可欠で重要なメッセージがあります。ベートーヴェンは、ほとんど純真と言っていいほどに、音楽が人間に対して持つ価値に、無邪気な信頼を置いていました。彼は世界を変えることは可能だと、そして音楽は真実だと信じていたのです。このことに、私は深い感動を覚えます。そしてこれこそが、このプロジェクトの動機となっているのです」
(c)Oezguer Albayrak

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