(5月18日 東京オペラシティ・コンサートホール)
教育プログラム「ピノキオコンサート」の支援チャリティとして、東京で1回だけ開かれた「別府アルゲリッチ音楽祭」は完売、満席。
アルゲリッチが弾いたのは伊藤京子とのデュオで、モーツァルトの2台のピアノのためのソナタK.448と、ショスタコーヴィチの2台のピアノのためのコンチェルティーノ、そして清水高師(第1ヴァイオリン)、大宮臨太郎(第2ヴァイオリン)、小峰航一(ヴィオラ)、ユンソン(チェロ)とのシューマンのピアノ五重奏曲変ホ長調。
モーツァルトでは第2ピアノにまわり目立たなかったが、ショスタコーヴィチでは第1ピアノを弾き、その圧倒的な技量と迫力のある全く濁りのない強音を聴かせる。
シューマンは予想通りアルゲリッチの強烈なリードのもと、弦の男性陣をぐいぐいと引っ張って行く。清水高師やユンソンも真正面からぶつかっていくが、アルゲリッチは余裕で応える。
第1楽章展開部のピアノの推進力、第2楽章アジタートになりピアノが煽るように奏でる副主題のスケールの大きいこと。スケルツォの上昇する音階の湧き立つような生命力にあふれた勢いの良さ。そして第4楽章コーダで第1楽章の主題が回帰して二重フーガになるクライマックスでの高揚感と全員を巻き込む台風のような力強さ。室内楽ではなくシンフォニーを聴いたような気持になる。やはりアルゲリッチは特別なアーティストだ。
しかし聴き手としては、せめて協奏曲でもいいからソロを聴きたい。5年前の2010年11月28日すみだトリフォニーホールで聴いたアルミンク指揮新日本フィルとのショパンの1番とラヴェルの輝くようなピアノはやはり忘れがたい。
この日のコンサートではほかに、川久保賜紀(ヴァイオリン)と、遠藤真理(チェロ)のラヴェル「ヴァイオリンとチェロのためのソナタ」から第1、2、4楽章。
清水高師のヴァイオリンでイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番、川本嘉子のヴィオラでバッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番からシャコンヌが弾かれた。
いずれも立派な演奏だが、全員の演奏に共通して言えることは、作曲家自身の、あるいは作品自体の内面にまで肉迫するような強い主張が感じられないことだ。
こういうフェスティバル的なコンサートで1曲だけ出演するアーティストにとっては集中し聴衆にアピールするのは難しいことと、主役のアルゲリッチに対する遠慮もあるのかもしれないが、主役を食うくらいの意気込みもほしかった。
(c)Rikimaru Hotta
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