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2015年05月01日21:29

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ピエタリ・インキネン アンジェラ・ヒューイット 日フィル

(4月25日 サントリーホール)
 インキネン指揮日フィルによるブラームスのピアノ協奏曲第1番ニ短調の冒頭はマエストーソ(威厳をもって)であるがそれ以上ではなかった。
 ヤルヴィとフォークトが昨年カンマー・フィルと同曲をとりあげたが、「まるで大惨事でも起きたように、この世の終わりみたいに始まる」と対談していた。アンジェラ・ヒューイット自身もフェイスブックに「初演を聴いた聴衆はブラームスが正気を失くしたと思ったに違いない。」と書いている。
ヒューイットはインキネンにもっと激しい出だしを期待したのではないか。第1主題の表情が激しければ激しいほど、ヒューイットが言う「バッハのアリオーソのような」ピアノが入ってくるときのコントラストが際立ったと思う。
ヒューイットにとってブラームスのニ短調の協奏曲を公開の場で弾くのは今回が初めてとのこと。彼女にとっても一大チャレンジだったろう。女性ピアニストがブラームスのピアノ協奏曲を弾くことは多くはないと思うが、日本では小山実稚恵が一夜に2曲弾いたりしているので、男女の差はないといっていいかもしれない。それでも第1楽章展開部や再現部の始まり、そしてコーダなど、ピアノに最大限の音量と激しさを求められる場面では、迫力という点でもう一歩だった。
一方で第2楽章中間部に入る直前のロマンティックなピアノのソロは美しい。第3楽章第1主題のヒューイットのピアノも、もう少し力強さがほしいが、第1副主題や弦の対位法の第2副主題にからむピアノは美しかった。定期を両日とも聴いた女性の話では、私が聴いた二日目の方がまとまっていたとのこと。
ヒューイットはファツィオリ(F278)を使用している。杉並公会堂でのリハーサルにも日本の代理店の協力で運び込むほどの徹底ぶり。ブラームスにその華やかな音色が合うかどうか賛否あるかもしれないが、私は新鮮で面白かった。
 ヒューイットは日本でのコンサート後5月9、10、11日にバンクーバー交響楽団(指揮は秋山和慶)とファリャの「スペインの庭の夜」とラヴェルのピアノ協奏曲を弾くが、これらも初めて公開の席で弾く曲だという。バッハのスペシャリストという呼称では満足しないヒューイットの挑戦はまだ始まったばかり。今後の進化を期待したい。
後半のブルックナーの7番。日フィルの首席指揮者就任が発表された直後のコンサートでもあり、これまでシベリウスで評価を高めてきたインキネンにとってもチャレンジの曲だろう。
インキネンのシベリウス・ツィクルスを聴いて感じた「おだやかな」「繊細な」ブルックナーだったと思う。ヴァイオリン奏者出身のインキネンの強みで、弦の音色は繊細で美しい。冒頭のトレモロもほんとうに聞こえるかどうかという感じだ。対抗配置のヴァイオリン群の副旋律もよく聞こえてくる。第3楽章スケルツォでのトリオの柔らかな表情も印象に残った。
もうすこし男性的で筋肉質なブルックナーが個人的には好みだが、第2楽章の頂点(ハース版とのことだったがシンバルが入っていた)は力がこもり、また第4楽章の第3主題を奏でる金管も力強く、2013年8月8日ミューザ川崎で聴いたベルリオーズの「幻想交響曲」の剛毅なインキネンの演奏を思い出した。第2楽章ワーグナーを追悼して書いたと言われる葬送部分でのワーグナーテューバも安定していた。インキネンと日フィルの蜜月関係を示すようなバランスのとれたブルックナーだった。
 カーテンコールのさいインキネンに向けて2階LA席から投げ入れられた花束が第1ヴァイオリンの女性奏者の手に当たり弓が落ちるという事件があった。万が一顔や頭に当たっていたら怪我をしたかもしれない危険な行為で、また弓も大変高価なもの。奏者としては怒り心頭だったと思う。日フィルが「プレイヤーならびに楽器を大きく傷つけることになりかねず大変危険です。おやめください」とツィッターで警告を出していたが、大事に至らなかったことは幸いだった。
(c)山口敦

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