商業捕鯨、鯨食文化の是非の判断と、IWCの脱退とは別次元の話。国際的には「日本は自国のルール優先して国際ルールを投げ棄てた」と判断されるだろう。まるで、パリ協定からアメリカ離脱を表明したトランプ大統領の「America First」を追従しているかのようだ。
IWC脱退に関する内閣官房長官談話によれば、
「持続可能な商業捕鯨の実施を目指して、30年以上にわたり、収集した科学的データを基に誠意をもって対話を進め、解決策を模索してきました。」
「鯨類の中には十分な資源量が確認されているものがあるにもかかわらず、保護のみを重視し、持続的利用の必要性を認めようとしない国々からの歩み寄りは見られず」
「本年9月のIWC総会でも、条約に明記されている捕鯨産業の秩序ある発展という目的はおよそ顧みられることはなく、鯨類に対する異なる意見や立場が共存する可能性すらない」
として、脱退を正当化している。
商業捕鯨再開への30年間の努力が実らないことへの苛立ちが理解できないわけでもないし、鯨食文化を否定するつもりもない。むしろ、鯨食文化のみならず、各国の食文化は可能な限りで保持すべきだと私は考えている。
しかし、「国際ルールを無視してでも」となると、「可能な限り」の外側だ。
ましてやそれが、安倍・二階氏の意向を大きく反映した閣議決定によるものとなれば、憤りすら覚えるのである。
IWC参加で問われていたのは、商業捕鯨の再開や鯨食文化の是非だけでなく、それをも含めた国際理解であったはず。そしてそれは同時に国内での理解でもあったはず。つまりは、国内世論と国際世論の相互理解にあったはず。30年間の努力は、日本を国際的に受け入れてもらうためのものであって、日本の意地を貫くためのものではなかったはずだ。
その30年間の努力を、安倍・二階氏の強い意向で無に帰すことには憤りすら覚える。
そしてそれは、日本を「自国の理論が通らなければ、国際ルールから脱退する国」として世界に知らし召すことでもある。これは戦後70年以上かけて築いてきた日本の国際協調の努力と信頼までも無に帰すことにもなりかねないとさえ思う。
菅氏が、ご丁寧に「「一次産品共通基金」という国際機関を2013年に抜けた例(それも、2012年に衆議院選挙に自民が大勝した後の話ではあるが)を持ち出し、日本の国際機関脱退は珍しくない」とまで、言及したのは、私のような不安を持つ者への配慮でもあったのだろう。しかし、それは同時に「これからは政権の意向で国際機関からの脱退はいくらでもできますよ」という宣言にも聞こえるのだ。
日本の捕鯨文化を守るために、IWCを脱退すると言えば国民に聞こえは良いのかもしれないが、日本の捕鯨文化を守るためには、国際ルールから逸脱してもよいと支持できる国民がどれだけいるだろう。脱退以外に方法がなかったとは到底思えない。
国際協調を大事にしてきた日本のイメージは、ここでまた大きくぐらつくことになる。
それは、国際的に見ての話ではなく、私個人の話でもある。
「自国の理論が通らなければ、国際ルールからも脱退する国」
それが現政権が、かねてより言っていた「日本を取り戻す」であったのかという思いは強くなるばかりなのだ。
■安倍・二階氏の意向大きく=IWC脱退、外交に冷や水
(時事通信社 - 12月27日 08:01)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=4&from=diary&id=5435824
(以下記事)
政府が国際捕鯨委員会(IWC)脱退を決定した。決断に至る過程では、古くから捕鯨が盛んだった地域が地元の安倍晋三首相と二階俊博自民党幹事長の意向が大きく働いたとみられる。一方、脱退は、オーストラリアなど反捕鯨国との国際協調に冷や水を浴びせる恐れがある。
和歌山県太地町の三軒一高町長は26日、自民党本部に二階氏を訪ね、脱退決定に謝意を伝えた。二階氏は「(捕鯨を)徹底的にやれ」と激励。この後、三軒氏は記者団に「幹事長が地方の声を官邸に届けてくれた。神様みたいだ」と語った。
太地町は「古式捕鯨発祥の地」だ。その町を選挙区に抱える二階氏は早くから商業捕鯨再開を主張。今年9月のIWC総会で日本の提案が否決されると、10月に開かれた捕鯨議員連盟の会合で外務省幹部を「何をぼやぼやしているんだ」と一喝するなど、脱退に向けて強硬姿勢を強めた。
一方、首相の地元である山口県下関市も「近代捕鯨発祥の地」として知られる。ある政府関係者は、今回の決定で大きな役割を果たしたキーマンについて「山口と和歌山の政権ツートップ」と語り、首相と二階氏だったことを示唆した。
政府は表向き、脱退の決め手は「9月のIWC総会」(菅義偉官房長官)としている。ただ、政府内では、漁師から「商業捕鯨の将来が見えない中では、老朽化した漁船を買い替えられない」との悲鳴が上がっていたことが、首相らの判断を後押ししたとの見方も出ている。
政府は25日に脱退を閣議決定したが公表せず、発表を26日にずらして、その間に関係国に説明、衝撃を緩和しようとした。菅氏は26日の記者会見で、農産物などの価格安定を目指す「一次産品共通基金」という国際機関を2013年に抜けた例を持ち出し、日本の国際機関脱退は珍しくないと強調してみせた。
しかし、IWC脱退は、日本が戦前に孤立化を深めるきっかけになった国際連盟脱退を想起させ、パリ協定など国際枠組みからの離脱を表明するトランプ米大統領の姿とも重なる。来年は大阪での20カ国・地域(G20)首脳会議をはじめ重要な外交案件が立て込んでおり、影響を懸念する声も漏れる。
「今後、外交的に厳しくなる。そこまでしてクジラを食べる必要があるのか」。外務省関係者はこう不安を口にした。
ログインしてコメントを確認・投稿する