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2016年08月18日13:35

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真田丸Man of the match2

引き続き、真田丸の各回で、もっとも冴えた芝居をした人を選ぶ。

第32回応酬  星野源(村上新悟)

 これまでも、バカ息子ぶりが楽しかった秀忠(初登場での本多正純とのバカ息子ツートップもおかしかった)だが、台本の面白さと思って、あげずにいた。しかし、これはホンモノ。江戸へ帰れと言われ、承知しておいてから改めて、なにゆえと問う芝居が、ル−ティーンかもしれないがお見事でした。親父ならずとも怒鳴りたくなるバカ息子ぶり。もうひとり村上新悟も台詞こそないものの良い芝居。ただし、こちらはスタッフワークも大きい。

第33回動乱 浅利陽介(竹内結子)

 今回は関ケ原への伏線編。三谷幸喜の調子はいまひとつだが、ほとんどすべての登場人物が、関ケ原を意識して芝居をすることになる。その中でピカイチは浅利陽介の小早川秀秋だ。小心さとうまく立ち回ろうとする小狡さを兼ね備えた芝居を、これまでも巧く見せていた(秀吉に気に入られるために、能をやろうと秀次をたきつけるズレた小賢しさ)が、毛利説得の役割をふられて、あれは結局会いにもいかずじまいと分からせるのがよろしい。動乱のさなかで終始怯えている。加藤清正とか細川忠興、大谷刑部とかいったひとたちのように、芝居のしどころを与えられていないのに、これは称賛に値する。少なくとも、私には、浅利陽介は、やたら台詞に書き込んでしまわれている山本耕史よりも、三谷幸喜に信頼されているように思える。戦バカまる出しの草刈正雄(徳川屋敷に乗り込んで、いきなり絵図面を出すのがおかしい)や、最後でその気になる内野聖陽が巧いのは、いうまでもない。もうひとり、ワンシーンながら、巧く活かされ、それに応えたのが竹内結子。あそこで三成が淀のところに顔を出していたら、もしかして……と思わせた。

第34回挙兵 内野聖陽

 前回とうってかわって、三谷幸喜を中心としたスタッフワークが冴えている。信繁の妻が障子を破るのが抜群におかしく、破れ目からのぞく信繁の顔でシーンが終わるのが、さらにおかしい。桃の木のエピソードなど効き筋が多く、中身の詰まった感じが半端ではない。で、該当者なしにしようかと思ったのだが、やはり、この人。直江兼続が書いた上杉の書状を読む場面が、はなはだよろしく、最後に手紙を破るところが、首から上は新劇だが破る手つきはスラップスティックという、芸達者ぶりを見せた。この回は紙破りの回として記憶されることになるだろう。

第35回犬伏 草刈正雄 大泉洋

 三谷幸喜が泣かせにかかった回。やはり大泉洋の渾身の芝居が良い。草刈正雄は事態へのついていけなさからくる気弱な感じ(とくにふたりの息子を見る目)が抜群で、そのくせ、三成挙兵を知るや「早すぎるわっ」と言い捨てるスピードの落差がたまらない。こと戦のことになると本来に戻るのだ。この欄の原則からいえば、より書き込まれていない草刈正雄にすべきなのだろうが、大泉洋の芝居は捨てるに忍びない。これまでこつこつ積み立ててきたものが満期になりました!と言いたくなるような、それは見事な芝居で、三谷幸喜の描く信幸像に応えるものだった。
 まあ、個人的には新妻聖子(江)の芝居など好きで、秀忠はこれからも出番が多いだろうから、はなはだ楽しみにしているのだが、今回は大泉洋の回だったね。

第36回勝負 吉田羊

 相変わらず、戦になると溌剌とする草刈正雄の昌幸が良く、近藤正臣の敵役もなかなかのものだが、今回はこの人。沼田で昌幸と再会し、夫が残った事情を聞くくだりの芝居が手厚い手厚いい。意を決する感じがよろしく、その意の中身は次の場面で分かる。愚直といってもいい忠義の嫁を、もっとも理解するのが、裏切り御免の策略の人昌幸というのが、台本の肝で、三谷幸喜もこういう話を書くようになったんだね。砥石城をめぐる策謀は『寒い国から帰ってきたスパイ』ばりの手のこみようだが、それがスパイ小説ふうにならないのは、根底に人間不信がないから(三十郎のあつかいを見よ)で、逆説的にスパイ小説が近代のものであることまで、教えてくれる。

第37回信之 恒松祐里

 草刈正雄は良いけれど、従来の基準で見ると、やや芝居が単調。信幸の働きを不十分と叱りつけるのは、これまでの貯金が効いて、大井に聞かせるための策略の台詞にも聞こえるのが、得。ただし、今後の打ち合わせをぬかるなと締めるのは良し。もっとも、台本が良いのだが。それで、今回は該当者なしかなと思ったが、ワンシーンだけ出た恒松祐里が、最後に「またお会いできる日を心待ちにしております」という台詞の、わだかまっている感じ、言わされている感じが良く、キャリアの浅い人には甘くの原則で、選ぶことにした。

第38回昌幸 内野聖陽

 該当者なしかなと思ったけれど、秀頼と対面する前後の一連の芝居は、やっぱりさすがのもの。半蔵暗殺帖には加藤清正の名前も書いてあったんだね。

第39回歳月 藤井隆

 佐助がきりを想うというのは、この形の定石型かもしれないが、自分の小屋に招いたきりを盗み見る目の狂暴さがいい。直後に佐助のフラストレイションが語られるが、そのせいとも言い切れないところが良い。ただ、こうなるのなら、もう少し最初のあたりから、きりへの思慕の情を視聴者に伝えたかった気はする。きりと信繁の関係は、戦仲間のようなもので色恋はないというところだろうが、小日向−鈴木のありようを思い出すと、未だ。未だ。

第40回幸村 植本潤

 信繁蟄居の間の騒動を手早く説明しようと躍起なだけの回。同じようでも第25回の三谷幸喜の技巧と比べると、違いは歴然だ。そんな中、ひとりさらったのが植本潤。今回だけの出演だろうけど、気位が高く陰湿な僧侶を演じて見事だし、個人的な意趣返しながら、国家安康がどうも本当に呪詛だったのではないかという、とんでもない芝居(台詞からだけでは確定できない)になっていた。

第41回入城 該当者なし

 前回同様、段取りをこなす回。その中では大蔵卿の峯村リエが、時のうつろいを感じさせる芝居で、上手に老けたが、冴えた芝居とまでは言えない。佐助と半蔵の対決は、真田丸が唯一真田十勇士になった場面だが、意外につまらなかったね。「われに秘策あり」という台詞はいらないんじゃないか。

第42回味方 該当者なし

 候補は多いが決定的なものに欠けて困った。江の新妻聖子や千の永野芽郁の表情の芝居が良く、大野修理の今井朋彦がため息をつくのもいい。内野聖陽や近藤正臣の老けが生々しくて、前回の峯村リエ同様、時の流れを感じさせる。しかし、この回はスタッフワークの勝利でしょう。そして、一番素晴らしかったのは、幸村が案内される大坂城の文書部屋だ。どこまで三谷幸喜が書き込んだかは分からないが、あの場面一発で、いまの豊臣がかつての豊臣ではないことを雄弁に示した。人間の芝居は、残念ながら、あの部屋の様子には勝てなかった。

第43回軍議 内野聖陽

 且元を篭絡する一場面は小林隆の好演もあって圧巻。前半にあった、織田にくだった昌幸にブラフをかける対決場面より、さらに芝居の密度が濃い。

第44回築城 近藤正臣

 内野聖陽がやはり良い。ほとんど死にそうなのに、仕寄せの訓練で突然元気になる。体力の落ちた者が落ちたなりに異様に元気になる芝居というのは、難しいと思うのだが、難なくやってみせる。おまけに「また真田か」というのが名台詞になりつつある。のだが、今回は近藤正臣。家康以上に老いながら、同じく仕寄せの場面での「前に二枚。後ろにも二枚」と突然元気になる。その声の張りの良さに一票。内野の芝居を的確に受ける星野源のことも書いとかないといけないね。

第45回完封 堺雅人

 該当者なしとも考えたけど、木村重成を翻弄する幸村は食えないところを見せて、さすがは、あの男の息子。哀川翔は舞台を知らない悲しさで、声が出ないね。

第46回砲弾 該当者なし

 長澤まさみの使い方を、ようやくスタッフサイドが心得たようだけど、いかんせん遅すぎ。堺雅人はしり上がりなので、ここからのラストスパートに期待が持てる。

第47回反撃 藤本隆宏

 堀田作兵衛生涯のワンチャンスをものにした藤本隆宏が良い。独演を終えて「もう戻ってもええかの」とサメるところまで、きちんと演じた。ここまで設えられた役どころは、この欄では不利なのだが、今回はこの人でしょう。稲とこうがお通のところに乗り込む音楽や、阿茶が顔をあげる場面の効果音など、音響が技を誇示しつつ嫌味にならない。最近名前をあげてないが、内野家康は依然コンスタントに良く、阿茶の肩をもむところは、ここは肩もまなきゃという場面で、ちゃんと肩を揉んでみせた。峯村リエは阿茶との会談の場で、もう少し何かがほしかった。

第48回引鉄 堺雅人

 堺雅人の自身の言葉と態度とのギャップが抜群だ。『マルタの鷹』をやらせたくなった。この調子であと2回いくと、かなりの大団円になるかも。武田幸三は大健闘だが、あくまで役の基本的な性格を愚直に守る(のも生半可なことではないが)という範囲のもので、これではここで1位はとれない。新人奨励とも考えたが、相手が悪かったね。

第49回前夜 該当者なし
最終回 内野聖陽

融通無碍。逃げるときに枝を持っているのが、なんともおかしい。真田の一族以外で、第一回から出ずっぱりなのも、この人だけではないか。結局、真田丸の演技の水準を作ったのは、この人と草刈正雄のふたりだった。


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