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2020年09月07日19:34

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【本】深緑野分著『ベルリンは晴れているか』

皆様、お今晩は。深緑野分さまの『ベルリンは晴れているか』筑摩書房刊を読了致しました。その感想です。


総統の自死、戦勝国による侵略、敗戦。何もかもが傷ついた街で少女と泥棒は何を見るのか。1945年7月。ナチス・ドイツが戦争に敗れ米ソ英仏の4カ国統治下におかれたベルリン。ソ連と西側諸国が対立しつつある状況下で、ドイツ人少女アウグステの恩人にあたる男が、ソ連領域で米国製の歯磨き粉に含まれた毒により不審な死を遂げる。米国の兵員食堂で働くアウグステは疑いの目を向けられつつ、彼の甥に訃報を伝えるべく旅出つ。しかしなぜか陽気な泥棒を道連れにする羽目になり―ふたりはそれぞれの思惑を胸に、荒廃した街を歩きはじめる。


連合国アメリカの炊事兵の日常と事件を描いた『戦場のコックたち』に続いて、本作品は枢機国ドイツの一市民の2日間の出来事を中心に、時折挟まれる彼女の「過去」を絡めて物語が進行していくのですが、終盤につれて事件の真相が明らかになったときに、2日間の道中行と過去が交差する様は鮮やかでして、真藤順丈先生の『宝島』が無かったら本作が平成最後の直木賞受賞作になっていたんだろうなぁと思わせる程の重厚な傑作でした。

良く「清く正しく美しく」が美徳としての慣用句として挙げられるのですが、本作ではそのどれもが達成出来ない地獄の業火の様な日々を懸命に生きて闘った一人の少女の壮絶な生涯が描かれておりまして、普段我々が甘受している平和と言うものは、こうした人々の血を吐くような思いと無念の結果達成されたものであると有難く感じた一冊でありまして、極限下の状況を見事に描き出した筆力はとても日本人の女性作家が描いたものとは俄かに信じ難いですが、一読者として一つだけ注文をさせて頂くならば、もう少し改行や章立てをしていつでも栞が挟める状態にして頂ければとても助かります。
前作もそうだったですが、読ませるのは流石ですがどこかで場面転換なり、一行空けるだけで格段に読みやすくなるのにと思ってしまったのでした。


https://www.chikumashobo.co.jp/special/berlin/
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