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2020年06月06日20:30

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【本】砥上 裕將著『線は、僕を描く』講談社刊

皆様、お今晩は。砥上 裕將さまのデビュー作であり、第59回メフィスト賞を受賞した『線は、僕を描く』講談社刊を読了致しました。その感想です。


両親を交通事故で失い、喪失感の中にあった大学生の青山霜介は、アルバイト先の展覧会場で水墨画の巨匠・篠田湖山と出会う。なぜか湖山に気に入られ、その場で内弟子にされてしまう霜介。それに反発した湖山の孫・千瑛は、翌年の「湖山賞」をかけて霜介と勝負すると宣言する。水墨画とは、筆先から生みだされる「線」の芸術。描くのは「命」。はじめての水墨画に戸惑いながらも魅了されていく霜介は、線を描くことで次第に恢復していく。

恩田陸さまの傑作である『蜜蜂と遠雷』が、小説の形を借りた音楽だとするならば、本書は小説の形をかりた水墨画の世界であります。何と著者は実際の水墨画家の方だそうでして、実際にやっているから書けると言う程小説の世界は甘くはないのですが、天は彼に二つの「かく」才能を与えました。瑞々しい青春小説と芸術小説の融合であり、また、本書を読んで実際の古典の水墨画を観るとその観方が180度近く変わります。

水墨画に限らず日本画全体がそうですが、墨を使う為に油彩画と違って一切やり直しの利かない一発勝負の芸術でありまして、国宝である『鳥獣戯画』を観たことがある人は判って頂けると思うんですが、一回墨で紙に描いたものは何百年経っても劣化しないのであります。

そしてまた「線」が全ての基本であると言う原点に本書は立ち返らせてくれるのでありまして、題名にもある「線は、僕を描く」とは、一本の線を観ただけでその人がどんな人であるか見る人が見れば解ってしまうと言う、とんでもなく恐ろしい世界であります。
本作では主人公の霜介が絵を描くことで自分と廻りを取り巻く環境が変化して行くさまが鮮やかに描かれて、彼が描く絵も「心を描いた」ものになっていくと言うところが実に良いのであります。

2020年コロナ禍で陰鬱な時期に実に清々しい本を読ませて頂きました。




https://www.youtube.com/watch?v=ZckNTyRH-Fg
(『線は、僕を描く』に描かれた題材を砥上 裕將さまが実際に描いている動画)

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