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2015年11月14日14:07

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【映画】「映画史上二人目に哀しい横領犯」『紙の月』

バブルがはじけて間もない1994年、銀行の契約社員として働く平凡な主婦・梅澤梨花(宮沢りえ姐さん)は綿密な仕事への取り組みや周囲への気配りが好意的に評価され、上司や顧客から信頼されるようになる。一方、自分に関心のない夫との関係にむなしさを抱く中、年下の大学生・光太(池松壮亮さま)と出会い不倫関係に陥っていく。彼と逢瀬を重ねていくうちに金銭感覚がまひしてしまった梨花は、顧客の預金を使い始めてしまい……。

「天国へ行く最も確実な方法は地獄へ行く道を熟知することである」とかつてニコロ・マキャベリ先生は喝破しましたが、この映画は一つの地獄への道を丹念に描いてくれる名作であります。

何でこれが「一つの地獄の道」かと申せば、ヒロインの梨花姐さんの行動や考え方のパターンがまるで自分自身のことの様でありまして「彼女が次に何をするか」迄もが予測出来たからなのであります。

彼女が横領に手を染めた切っ掛けは一万円札を抜き取った事と予告編では紹介されていますが、それは実に些細な切っ掛けでしか過ぎず真の理由は田辺誠一さま演じだ旦那さまが「自分の都合しか考えない人」であったからに他なりません!(断言)

梨花姐さんは自分の為だけだったら決して他人の金に手を付けない性格だったとおもいます。最初に二百万円と言う石橋蓮司御大演じた資産家の平林の預金に手をつけたのは、平林が孫息子が借金塗れにあることを知りながら救いの手を差し伸べなかったと言う梨花姐さんが思った「復讐心」からなのであります。

自分も同じ立場だったら間違いなくそうしていますね。その位癪に障って仕方ない存在でしかありません。

ですから彼女が認知症を患った顧客中原ひとみ姐さん演じた名護たま江から三百万円を預かったところから本格的な破綻と転落に至る経過はほんとうに痛くて痛くて観ているのが辛かったのであります。

この時に光太さまと高級ホテルにで贅沢三昧してしまうのでありますが、その時の請求額が146万円。手持ちの現金では何ともならずカードに手を染めます。

三度目以降の犯行になると恐るべきことに使わせて戴いている側の光太さまも金銭感覚が狂ってきて、そして彼女は彼が実は大学を既に辞めていたことを知るのですが時既に遅し。

映画的に面白くなるのはここからでありまして、金の工面をする為に証書を偽造する過程が丹念に描かれているのでありますが、これを観ていて思ったのは今から30年以上前に製作されたテレビ朝日系列で放映されていた土曜ワイド劇場の金字塔「実録犯罪シリーズ」の中の二話目『滋賀銀行横領事件・女の決算』の方でありまして、物語の神は細部に宿ると申しますか、後発の『三和銀行横領事件』のドラマがお子様ランチの如く安直に見えてしまった程の今観ても多分古さを感じさせない名作だったと思います。
この時のヒロインが大楠道代姐さんでして彼女が小林聡美姐さん演じたキャリアOLの隅より子役でも良かった気がします。

で……此処までが一昨日観た感想でして、昨日作業指示書を作っている最中にある映画の事が閃いたのであります。

その映画はアルフレッド・ヒッチコック監督の代表作の一つ『サイコ』でして、一見関係が無さそうな二つの作品ですが、物語の構造は非常に似ていて、まずヒロインが不倫関係にある事。そして最初に夜を過ごす場所が「モーテル=ラブホテル」であると言う二点なのであります。そしてジャネット・リー姐さん演じたヒロインも横領犯だったのであります。シャワーシーンで刺されないだけマシでありますが、ヴェラ・マイルズ演じたキャラが金の流れを追って事件の真相にたどり着く様は小林聡美姐さんと被るところがありますし、次長も又ヒロインとではありませんがヒロインの同僚の相川(大島優子御嬢様)と不倫関係にあるところや、光太がやたらとつかみどころが無いキャラなのはアンソニー・パーキンスさまを意識しからなのではとも勘ぐってしまいます。

そんな訳で一昨日観たのが実は「必然性」があった本作。吉田大八監督はこの一作で死ねますね。

あとこの映画の惹句は「最も美しい横領犯」ですが、自分が付けるならば「映画史上二人目に哀しい横領犯」となることでしょう。勿論初犯はジャネット・リー姐さんであります。

初代「大河浪漫を愛する会」大倉 里司


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