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2019年11月15日07:52

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映画「異人たちとの夏」愛情に飢えた都会人。

昔懐かしい浅草。前座修行中からぶらぶら歩いた日参道。仲見世にはない静かなムードに包まれていた。現在では都会の一隅と化してしまった浅草を、この映画で回顧してみた。喫茶店サニーの禿マスター。不愛想なかみさん。その奥には朝鮮横丁のような小さな居酒屋が軒を連ねていた。

四十になる英雄は妻と別れ、子と別れ、ただ一人都会のマンションの一室に閉じこもりシナリオライターの職をこなしていた。両親は十二歳の時に不慮の事故で亡くし、祖父や親せきに預けられて育ってきた。そんなある日、浅草演芸ホールで落語を観た。客席からヤジを飛ばす三十代と思しき男性。ちゃきちゃきの江戸っ子らしい活舌の良さ。父だ、と英雄は思った。この父・英吉に連れられ、日参道の奥まった懐かしい我が家へ帰る。父親とは十歳ほど年齢が離れていた。が、ビールを飲もうと缶ビールを買うと、冷たいからハンケチを出せと気を遣う英吉。やがてアパートに着き、異人たちとの夏がはじまった。

英雄は事あるごとにこのアパートを訪れ、母親・房子が手ずから作ってくれたアイスクリームを食べては喜んでたり英吉とキャッチボールをして遊んでいた。しかし一方で日に日に英雄はやせ衰えていた。マンションの別室に住む桂と良い中になり、「両親とは別れなさい。二度と会わないように」と告げられた。プッチーニを口ずさむ桂。

盛夏をすぎ秋色の景色が垣間見られようとするある日、英雄は桂の言った通り、両親と決別かすることにした。顔がやつれていくのは両親のせいだと、桂の言うことを愚直に受け止めたからだ。そして浅草ひさご通りにある今半にすき焼きを食べに行く。英雄からの別れのプレゼントだった。そこで三人は卓を囲むが両親は何も食べない。自分たちが幽霊だということも自覚している。食べなさい、と言ってすき焼きを小皿に盛って差し出す母親。

たとへ幽霊でも両親に会えて嬉しかった。自分は出来損ないだけど生んでくれてありがとう的な謝意を尽くし泣き出す英雄。やがて、英吉・房子ふたりがスクリーンの中からうっすらと消えていく。

また桂もやはり幽霊で、一年も前に自殺したことを知った英雄。異人たちとの夏が終わりを告げる。そうして英雄は両親の墓前に訪れ花を手向ける。

寿司職人だった父親役の片岡鶴太郎が、大林宣彦監督の演出で見事な役者になった、思い出深い作品である。両親の愛を十二歳で断ち切られた英雄の涙が見る者の涙を誘う。

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