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2019年11月08日12:30

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映画「出張」或るサラリーマンの悲哀。

熊井功(石橋連司)は中小企業の営業マンだ。会社から出張を命じられ東京から東北の地方都市へと電車に揺られていた。と。落石事故に遭い足止めを食らう。仕方がないのでいったん出張は取りやめて近場の温泉宿に一泊する運びとなる。温泉宿の近所のバーに夜な夜な足を向け、そこで深夜までカラオケに興じる。女の子が二人で接待したが、この二人共と深夜セックスに興じる。一人だけなら現実的だが、二人ともなるとイルージョンだ、と沖島勲監督はそんなことを語っていた。

翌日、いったん宿に戻り背広姿で駅に向かう。激しい轟音が聴こえたので何かと耳を傾けていたら、武装した若い二人の男に拉致されてしまう。そして二人に付き添われ丘を登ってみると、そこはゲリラ隊のベースになっていた。機動隊員たちと実弾発砲を続け、疲れたら今日この辺にしとくか、と結構いい加減なゲリラの隊長を原田芳雄が演じていた。

その晩、熊井は自分が人質になった旨を聞かされる。寒い晩だ。焚火の炎にあたりながら、こんな緊張したシーンで痔についてのトークがあったりと、ストックホルム現象的な要素がふんだんに持ち込まれている。あくる日、隊長たち幹部は熊井の実家、会社に向けて身代金を要求する電話を掛けるが、一向に芳しくなく、身代金の根切合戦にと及ぶ。妻も会社の部長も熊井に冷たく、命の重みなどという言葉は一切皆無で交渉は落ち着く。部隊には運び屋がたまにきて定価よりも少し高い値段でタバコなどの嗜好品を売りに来ていた。

ようやく解放された熊井だが、家に帰ってみると妻はヒステリー一歩手前で、娘は大学のテニスサークルの合宿に行っていた。台所の灰皿にはタバコが何本ももみ消された痕跡がある。部長と妻の関係を気にする熊井だが、追及もできず夜を迎える。

翌日彼は会社に戻り各課に巡ってお詫び行脚にいそしむ。そしてまた出張。東北に向かう電車の窓から例のゲリラ部隊が相変わらず機動隊と戦っていた。熊井は車窓から身を乗り出し部隊に向かってこう叫ぶ。「がんばれよーーーっ」。

記号化された哀切を帯びたサラリーマンの悲哀をコミカルに、そしてシニカルに描いた沖島勲の代表作だ。


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