『明るいほうへ』

『明るいほうへ』
池袋グランドシネマサンシャインの「中国電影祭2022」で鑑賞。
その後、都写真美術館の「世界の秀作アニメーション」で再見。

中国のオムニバスアニメーション。中国語音声、日本語字幕。
絵本を原作に、それぞれの作家が様々な手法を用いて７本のアニメーションを制作、最初のエピソードに登場するうさぎの女の子が狂言回しとして間を繋ぐ。

●『うさこのギモン』ラン・シーヤー監督（※漢字の変換が難しい場合があるのでカタカナで表記）
　
好奇心旺盛なうさぎの女の子うさこはお母さんうさぎに様々な疑問を投げかけ、お母さんうさぎは優しくそれに応える。
墨絵風の優しく軽やかな画面。うさこを演じる女の子の声が実に可愛らしい。
大きくなることを夢見る子うさぎと、どこに行っても愛しているという母うさぎの愛情にしみじみとする。

●『ホタルの女の子』リー・ニェンゼェー監督
　
定年退職を翌日に控えた田舎のバス運転手は最後の夜に山道で不思議な女の子と出会う。導かれた先で運転手を待っていたものは。
色鉛筆で描かれたような画面はさながら動く絵本。優しい運転手に、世話になった森の動物たちが感謝と労いを示す温かくも不思議な物語。こちらの心も和み温かくなる。

●『ぼくの汽車』チャオ・イー監督
　
仮設住宅で暮らす少年は両親と一緒に汽車ごっこに興じる。
夢の中のような不思議な雰囲気の画面。汽車が表わすもの。両親の励ましと「明るいほうへ」の言葉。
それらの意味が判明した瞬間、涙があふれる。中国の四川大地震の記憶。自然災害の被害者の存在は国を問わない。

●『おじさんの糖水屋』ユー・クン監督
　
下町でおじさんが営む糖水屋の日々。おじさんは年を取って体の自由も利かないが町の人たちに助けられ、皆が喜ぶ顔を楽しみに店を続けている。
糖水はシロップにフルーツや小豆などを入れた中国の手軽なデザート。絵としてさして美味しそうな見た目でもないのだが、お客のリアクションを含め、何とも食欲をそそられる。こってりとした一種独特な絵柄が下町の生活の滋味を伝えている。

●『フン将軍とハー将軍』リュウ・ガオシャン監督
　
天界を守護するフン将軍とハー将軍はそっくりで、いつも喧嘩が絶えない。
切り紙か、或いはデジタルな切り紙風か。中華風に鮮やかな色彩も魅力的。物語に仕掛けがあって、双子あるあるな種明かしが楽しい。虎のような怪獣の正体もいい。

●『祖母の青いブリキの車いす』リュウ・マオニン監督
　
年老いて親戚の間を行き来して面倒をみてもらいながら暮らす祖母。祖母が使っている手作りの車いすの中にお金が隠してあるのを知った孫息子はお金を少しくすねてしまう。やがて祖母は亡くなる。
絵の具で描いた絵がそのまま動き出したかのような画面。引いたカメラから見た農村の風景や家族の暮らしぶりが興味深い。悪さをしてしまった少年の心の痛みが伝わる。
年齢を重ねて観ると、係累の家をたらい回しされる祖母の心境や、十分に世話が出来ずに死んでしまった老親への思いなど胸に迫るものがある。どこの国にも通じる感慨だろう。

●『イーぼうの日曜日』チェン・チェン監督
　
街中で小さな家庭料理の店を営んでいる両親と小学生の息子の日常風景。
客が絶えない活気ある店の切り盛りと、店の食卓で勉強道具を広げ宿題をする少年という何気ない光景が、美味しそうな中国料理と共に心に沁み込む。何気ない暮らし、ささやかな幸福のありように万国共通の喜びを感じる。

どれも滋味豊かな物語。ローカルこそがグローバルであると思う。
自国を舞台にした作品を紡ぐ姿勢に感服。
日本の昭和時代をも思わせる風俗がまたノスタルジーを掻き立てる。
題材と手法は様々だが全体を通底するのは様々な「愛」の形で、後味が非常に良く、目と心の満足感も大きい。
ただ、割と大人な雰囲気の作品もあるので、全ての狂言回しを最初の作品の幼いうさぎの女の子が務めるのは全体を必要以上に子ども向けに見せてしまう傾向も感じられてやや疑問だが、取りあえず可愛い。
この作品を知ったのは公式ツイッターさんからだが、予告編を観て私好みの作品と確信。大当たりで、スクリーンで観られて本当に良かった。
エンドロールで流れる歌は日本の金子みすゞの詩を中国語に翻訳したものという。
その歌声の清らかさに打たれる。
このような日中友好がいつまでも続きますように。

「中国電影祭」はこの他にも多くの中国アニメーションを含む映画を上映してくれて、実にありがたい企画。出来得ればもう少し上映館が広がることと、現行では上映日の直前に近いチケットの発売時期がもう少し早くなれば助かるかと思う。