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2022年06月06日19:44

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【映画感想】安彦良和と富野由悠季、ふたつの『ククルス・ドアンの島』

先日観てきた『ククルス・ドアンの島』に感じた事です。

公開2日で早くも動員15万を数え、興行収入も3億越えとかで順調な滑り出しを見せている『ククルス・ドアンの島』です。私も公開初日に早速行ってきましたので、まあその数字に微力ながら貢献しているわけですが…

以下、ストーリーには触れませんが特にネタバレ配慮しないで、私が個人的に思った事だけを連ねております。ご注意ください。






『ククルス・ドアンの島』を観て思ったのは、いかにも最近の安彦良和の描く物語だなと言う事でしょうか。まず、当然なのでしょうが『THE ORIGIN』の世界線の『ククルス・ドアンの島』になっているなと感じました。

私自身、安彦良和の作品のファンであり、安彦良和の描く物語は大好きなのですが、同時に『THE ORIGIN』には複雑な気持ちがないわけではないのです。私も『THE ORIGIN』の連載が始まった時には続きを待ちかねて、それだけの為に雑誌ガンダムエースを購読していましたし、単行本も繰り返し読みました。アニメも観ました。まあ、言いたい事がないでもないですが、どれも実に面白かった。

しかし、同時に『THE ORIGIN』を観れば観るほど’79年に放送されたTVシリーズの『機動戦士ガンダム』に魅力を感じるようにもなったのです。すなわち『THE ORIGIN』にはTVシリーズにあったキャラ造形の陰影の翳りの部分が足りていない、と。

この辺は、富野由悠季と安彦良和の個性の違いなのだと思っています。

安彦良和の描く物語に登場する人物たちは、どれほど運命に裏切られ翻弄されようとも天性の明るさと素直さを持っているように感じます。安彦良和の描く物語では、最後には登場人物たちは光に向かって歩みだして終わる事が多いです。

その一方で、富野由悠季が描く物語の登場人物たち、特に主役となる人物はいつも大きな喪失と絶望を経験し、その経験を経て成長をするのです。少年は大切なものを喪失し、その喪失の経験が少年を青年へと成長させる物語を描き続けています。

どちらが優れているとかは無く、私も好きなのは安彦良和の描く物語であり、心に刺さり続けるのは富野由悠季の物語であります。その違いが、ふたつの『ククルス・ドアンの島』には顕著に見て取れたように思います。

安彦良和版の『ククルス・ドアンの島』を観た時に私が一番最初に思ったのが、斧谷稔こと富野由悠季が演出した『ククルス・ドアンの島』にあった社会派の映画のような陰の部分をまったく感じないなと言う事。

元来、『機動戦士ガンダム』と言う作品は富野由悠季が「アニメで戦争を描こう」として意欲作です。特に、第12話でシャアに代わる新たな敵役であるランバ・ラルが登場した本筋の流れをぶった切ってまで、無理に挿入したとしか思えない13話「再会、母よ」14話「時間よとまれ」に加えてこの15話「ククルス・ドアンの島」は、富野由悠季がどうしても作品を通じてどうしても語りたかった重要な話しであると思います。

作画崩壊ばかりが話題になりますが、ストーリーだってハチャメチャな『ククルス・ドアンの島』です。しかし、それだけに視聴者をも不安な気持ちにさせ、戦争と言う巨大な人災の中で生きなければならない人間の危うさが表現されている…と言ったら言い過ぎでしょうか?でも、それくらい印象に残る作品だったと思うのです。

その一方で映画の『ククルス・ドアンの島』には、そういう危うい感じはどこにもありません。作画も綺麗ですし、筋立ても実にすっきりしていて逆に心に引っかるところがない。戦時下で孤児となった子供たちも、それでも強く明るく生きています。本当に違う。

だからこそ良いのだと、そう感じる人が多いのも分りますし、なによりもCGで描かれたモビルスーツ戦闘は実に見応えありました。面白く観られるとしたら断然今回の劇場版です。

でも、やっぱり心に刺さるのは富野由悠季の描いた『ククルス・ドアンの島』かな、と言うのが今回、劇場を出た後でもっとも思った事でした。

ま、それはそれとして、もう一回くらいは劇場で観ておきたいですね。安彦良和の『ククルス・ドアンの島』を。なにしろ面白かったですから!
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