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2020年06月07日08:17

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『私の最高のハズレくじ』38話

「あっ!リキさん、何処に行ってたんですか?」

「んっ?あぁ〜…チンピラに絡まれたけど、返り討ちにした」

「もぉ〜〜!ダメですよ?まだ万全じゃないんですから」

「わぁってるよ」

2人に近付いた時、シルクがふとリキから良い香りがするのに気づいた。

(……もしかして?)

再び散歩を始めると、ミナが大道芸を見ようと誘い出した。
行っているのは数人の劇団だった。
剣を使ったジャグリングや、飲み込んだ火を吹き出したり、柔軟な身体でのバランス感覚を見せてギャラリーを楽しませた。

「王子様」

人混みからリキを見つけたミルフィーユ王女が挨拶に来た。

「おっ、ミルフィーユも来てたのか?」

「はい。彼等の雇い主ですので。王子様に楽しんでいただきたく、お連れしました」

「そうなのか?結構おもしれえぞ」

「まぁ!王子様に喜んでいただけたなんて、何て光栄な事でしょう!」

頬を淡いピンク色に染めてはにかんだ笑顔をして喜んでいる。

(普通に笑ってりゃ可愛いんだがなぁ)

しかし、こうして周りを見てあることを思った。
自分は元の世界では不良で知れ渡り、すれ違う人達は恐怖から避けてきたり、仲間と言っても、自分の力を頼って威張る輩ばかりだった。
けど、この世界の人達はどうだ?
大人は何も怪しまず声を掛けてきたり、子供なんて遊ぼうと近付いてくる。
兵士達だって、最初こそは警戒して見てきたが、今では笑って会釈するぐらいだ。
シルクに連れて来られた時は、とても迷惑な事に巻き込まれたと思ったが、今じゃとても居心地の良さを感じる。

『受けた恩は必ず返す』

婆さんが言った事を思い出す。
空腹だった時にミナにメシをご馳走してもらってから、ここまで縁が広がった。
これが本当の意味だったのだろう。

「リキ!」

団員の中に躍りながら元気に手を振っているガアルがいた。

「お前、この劇団にいたのか?」

「チガウ タノシソウ ダカラ キタ」

ガアルの踊りは活気有る独特な動きでギャラリーの中には真似をする人もいた。

「ホントにスゲェ盛り上がりだな」

「えぇ、今日は王国の創立記念日ですからね」

「えっ?そうなのか?」

「はい。いつもでしたら、王国の住民だけで祝ってたのですが、他国の人達と交えて行う事は無かったですね。ましてや、人獣も加わるなんて」

「そんな大事な日に俺みたいな余所者がいても良いのか?」

「それなら心配要らないわよ」

いつの間に背後にいたミュー隊長がリキの肩に顔を乗せる様に覗き込んで会話に加わった。

「貴方はいつも国の為に頑張ってくれてるからね。誰も拒んだりしないわよ」

「そ…そうか……」

「ん?どうかしたの?」

リキの反応を楽しむ様な笑みをしている。

「フフフ」

「ム〜〜〜!」

頬を膨らまして不機嫌な表情をするミナと、

「ウフフフフ……」

殺意に満ちた笑いをするミルフィーユ王女の2人がリキの腕を掴み自分の胸元に押し付けた。
嬉しい半面、2人から立ち込める恐怖のオーラに汗だくになりながら硬直した。

「ホンっっとにモテモテだねぇ?」

リキの旋毛を指で弄りながらシルクが煽ってくる。

「他人事みたいに言うなよ!」

「……他人事じゃないんだけどなぁ」

聞こえるか聞こえないかの声で呟いた。

ドンドコドンドコドンドコ!!

リズミカルな太鼓の音が聞こえると、男性の団員達が上半身裸になって踊り出した。

「さぁさぁ!お次は、男の戦いの鼓舞です!参加したい方は上半身裸になって踊りましょう!」

その声掛けに数人の観客達が上着を脱いで団員と踊り出した。

「リキ ヤロウ!」

ガアルはリキにも踊ってもらおうと引っ張っていく。

「いや…俺は止めとくよ」

「リキ オドル ミタイ」

「ガアル、リキがやらないって言ってるんだし」

シルクも止めようとするが、ガアルは無理矢理リキの服を脱がした。

「うぁっ!?」

リキの上半身が露になり、その身体を見た人達が息を飲んだ。
リキの背中一面に薬品で爛れた痕が有り、その上に斬り傷・火傷・痣が幾つもできてた。
唯一、傷の事を知っていたシルクは「どうしよう!?」と困惑の表情を浮かべている。

(………チッ!)

気まずそうなリキ。
実は、現実世界でこの身体を見て怖くなって近寄らなくなった仲間がいたからだ。

「お前ら、この身体を見て怖くなったろ?別に責めたりしねえよ。これを見て離れていく奴等を何人も見てきたからな」

相手に嫌われるより自分から嫌われにいこうと考えた。

だが……

トコトコトコ……

1人の男の子が近付いてきた。

「……お兄ちゃん、そのキズイタい?」

「傷自体は治ってるからな。別に痛みは無えよ」

「触っても……大丈夫?」

「えっ?……触りたいか?」

男の子はコクっと頷いた。
リキは触りやすい様に腰を低くすると、男の子はゆっくりとリキの傷を触ってみた。

さわさわ……

「………」

ペタペタ……

男の子は興味をもったのか、自分の手形を付けるみたいに触っていく。
それを見ていた他の子達もリキの身体に触れていく。
中にはロミオもいた。

「……怖くないのか?」

「だって、お兄ちゃんはいつもボク達の為に戦ってるんでしょ?」

リキはハッ!?と思い出した。
現実世界で、同じ学校の人から敵討ちの為にケンカをしていったが、それを繰り返す内に怪我を負ったのに、頼んできた奴等は気味悪さから距離を取ったのだと。
けど、目の前にいる子供達は恐れずに触れてきている。
それが嬉しく感じ、気が付くと涙を流していた。

「ご…ゴメン、お兄ちゃん!?…イタかった?」

リキの涙を見た子供達が慌てて謝ってきたが、リキは「埃が目に入ったんだ」と誤魔化した。

「リキ」

ガアルが声掛ける。

「カラダ キズ タタカウモノ アカシ ホコリ モツ」

そう言うと、自分の身体の傷痕を近付けて「イッショ!」とニカッと笑った。

「……ありがとよ」

「さぁ、兄ちゃん!踊ろうか!」

「オーっし!やったるか!!」

団員から振り付けを教わってから参加すると、周囲から歓声と拍手が沸き上がり大いに盛り上がった。
だが、楽しい時間が過ぎ行く中、ミュー隊長の表情が少し曇りだした。

「……変ねぇ」

空を見上げながら呟くと、シルクが聞いてきた。

「どうかしたんですか?」

「いつもなら、花火師が段雷を打ち上げるんだけど、何も鳴らないから」

「そう言えばそうですね?その後に、祝いの大きい花火を打ち上げるんですけど」

「ミュー隊長!!」

ドン副隊長が息を切らしながら走ってきた。

「大変です!花火師が何者かに襲われ、花火玉も破壊されました!」

「何ですって!?花火師の容態は?」

「頭と右腕を負傷してますが、命に別状は有りません」

「分かったわ。けど、このタイミングで花火師を襲うだなんて……」

「ハーハッハッハッハッ!!見よ!グラン王国のクソ共!」

高い所から聞こえる笑い声に皆が視線を上げると、宿屋の屋根に誰かが立っている。
野盗だ。

「俺の仲間を捕まえたお礼をさせてもらうぜ!」

野盗は大きい物体を高々と持ち上げて見せた。

「あれは……爆弾!?」

「これを城で爆破してやる!今日を、グラン王国が滅びた日にしてくれるわ!!ハーハッハッハッハッ!!」

ビュンっ!!

「ふげっ!?」

リキが投げた硬い果実が野盗の顔面に直撃し、バランスを崩して屋根から転落していき、下にいた兵隊がキャッチし、そのまま確保した。
それを見て皆が安心している中、ガアルがリキに耳打ちしてきた。

「バクダン ヘン」

どういう事だとリキが聞こうとしたら、

「何だ、これは!?」

野盗から取り上げた爆弾は中身が空っぽだった。
ドン副隊長が野盗に詰め寄る。

「貴様、爆破するのはハッタリか?」

「ハハハハハ!バァーカ!城を爆破するのに、ここへ持ってくる訳無いだろ?」

「じゃ…じゃあ、まさか……!?」

「ガアル、この爆弾が何で変だと思った?」

「コレ ニオイ ナイ」

獣並の嗅覚を持つガアルには、爆弾が偽物だと言う事は分かったようだ。

「なら、今は爆弾のニオイはするか?」

「スコシ」

ガアルは城を指差しながら言った。

「よし!急いで爆弾を探しに行くぞ!」

「こ…コラ!勝手に行くな…」

ドン副隊長の制止を聞かず、リキはガアルを先頭に爆弾を探しに行った。
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