不思議と身体が軽く感じる。
「死」というのは、こういう感じなのだろうか。
「……………ぅっ」
目の前が真っ白だ。
ここは天国なのか。
「ミュー隊長!気がついたのね!」
横から名前を呼ばれた。
ゆっくり首を動かすと見慣れた女医が立っていた。
「……えっ?…………あれ?医務室?」
状況が読めない。
私は野盗の罠に嵌まり、暴行されていたはず。
身体を動かそうとしたが、上手く力が入らない。
「ダメだよ、無理しちゃ!治療は済んだけど、完治してないんだから」
「何で……私は…ここに…?」
「覚えてないよね?あの時、完全に気を失ってたから」
一瞬、ゾクッと悪寒が走った。
あの後、この身体が野盗に何をされたか想像してしまった。
「安心してよ。まだ、アナタは処女だから」
それを聞くと、自分の陰部がピクッと疼くのを感じた。
「アナタを助けに1人で野盗と戦ったんだと。リキがね」
「えっ!?……彼が?」
何かの間違いじゃないか。
だって、彼を突き放す様な事をしてしまったのに。
でも、それが事実なら心から御礼を言いたい。
「ねぇ、彼はどこにいるの?」
この質問に女医は答えにくそうに口を噛み締めて、ゆっくり答えた。
「彼は重傷を負ってるよ」
「っ!?」
「刃物を持った相手に素手で行ったからね。正直、生きてるのが不思議なくらいよ」
「そんな……でも、何で彼が助けに来てくれたの?」
「……ちょっと待っててね」
女医が医務室を出て暫くするとシルクを連れて戻ってきた。
「ミュー隊長!良かったぁ!気が付いてくれて」
「ねえ、リキは?……どうして彼が助けてくれたの?」
「それは……」
シルクは話した。
ミュー隊長がリキに怒鳴ったのが気になり後をつけたら、女性と一緒に走って行くのが見えたので、気付かれないように尾行したら、ミュー隊長が野盗に襲われていたので直ぐ様リキに知らせに行くと、目の色を変えてミュー隊長を助ける為に野盗5人と戦った。
そこからは、目を覆いたくなる戦いだった。
斬られても斬られても、ミュー隊長を守りながら全員倒し、全身傷だらけになりながらもミュー隊長を背負いグラン王国に戻ろうとしたが、途中で力尽きてしまった。
慌てるシルクだったが、思わぬ幸運が起きた。
「王子様!?」
偶然にもミルフィーユ王女が通り掛かったのだ。
シルクは事情を話し、2人をグラン王国まで運ぶ様に頼んだ。
「分かりました。あぁ〜、何て酷い怪我を……ナーバス!サーラ!」
「ハイ!!」
ナーバスとサーラは、2人を馬車に乗せた後、森の奥へと走っていった。
「さぁ、急ぎましょう!」
そして、グラン王国に着くとリキとミュー隊長は緊急手術により一命を取り留めた。
「ごめんなさい…他にも応援を呼べば良かったのに、リキを呼ぶ事しか出来なくって……」
涙ながらに謝るシルクにミュー隊長はお礼を言った。
「ううん。あなた達が来てくれなかったら助からなかったわ、ありがとう」
「とりあえず、足に受けた毒は薬で取り除けたし、怪我は……まあ、多少は痕が残るかもね。けど、彼は傷が深く出血も酷かった。国中の人達が献血してくれたから、何とか持ちこたえたよ。今は集中治療室にいるよ」
話を聞いて安心の涙が溢れ出てきた。
「……彼に会わせて」
「…会いたい…よねぇ?」
どうしようか悩んだ末、ある条件を出した。
「絶対に触らない事!いい?」
女医が力強く出してきた条件に静かに頷いた。
車椅子に座ってリキのいる集中治療室へ向かった。
ドアを開けるとベッドの側にミナが項垂れながら椅子に座っていた。
「…あ〜ぁ…ミューさん…」
ずっと泣いてたのかミナの目は真っ赤になっている。
そして、視線をベッドに移すと、全身を包帯に巻かれているリキがいた。
いつもなら、怪我をしても「これぐらい平気だ!」と言って動き回るリキだったが、死んだように眠っている。
そんな姿を見て、ミュー隊長は大粒の涙を流し、何度も呟いた。
「ごめんなさい…ごめんなさい……リキ…」
思わず身体がリキに飛び込もうと動き出すが、女医が肩を抑えて制止してくる。
「さて、ミナちゃん。そろそろ帰って弟君の面倒を見なよ。ミュー隊長もまだ安静にしないといけないし」
2人が集中治療室を出るとミュー隊長が話しかけた。
「……こんな時に言うことじゃないかも知れないけど、ミナに言いたい事があるの」
「…………」
「私……私も…リキが好きなの」
「……やっぱり、そうだったんですね」
「気付いてたの?」
「何となくですけど。リキさんと話すミュー隊長って、何だか明るいなぁって思いまして」
とても恥ずかしかった。
自分の気持ちなのに、自分が全然気づいてなかったなんて。
もしかして、他の人達にもバレてたのかな。
(そう言えば、ナーバスさんとサーラさんは、あの後何処に行ったのかな?)
シルクがふと考えた。
『マルロ王国』
「ギィィヤァァアアーーーー!!!」
「ああぁぁああぁーーーー!!!」
「だずげでぇぇぇえええ!!!」
「イヤーー!!ヤメテーーー?!」
マルロ王国のお城の地下室から野盗達の悲鳴が響き渡る。
黒い覆面を被った男達から拷問を受けている。
無数の針の上で正座され、足に重りを乗せられている者。
磔にされ鞭で何度も打たれてる者。
逆さ吊りになり、水責めにされてる者。
「王子様にあんな怪我を負わせて、ただで済むと思ってるの?」
ミルフィーユ王女の目は殺気に満ちている。
「違うって!?アイツが来たのは予想外なんだよ!!」
「そうよ!いきなり襲ってきたから、反撃したのよ!?」
「勝手に来たアイツが悪いんだ!」
ミルフィーユ王女の額にピキっと血管が浮かんできた。
「………仲間想いな王子様の行為を批判したわね?」
暴言を吐いた野盗を鞭で数回打つと、覆面達に「地獄を見せてあげなさい」とだけ言い残し地下を出ていった。
(あ〜〜ぁ、王子様!私の血液が合えば幾らでも差し上げましたのに。快復を祈るだけの私をお許しください)
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