昇格試験が終わり、歓喜する者と落胆する者が出る中、ミュー隊長は空を見つめていた。
「……なぁ、ミュー隊長の様子おかしくないか?」
「ゴウダリキと闘ってからあんな状態だよな」
兵士達がひそひそ話するとドン副隊長がミュー隊長に大声で話し掛けた。
「ミュー隊長!全員の昇格試験終わりました!」
一瞬、ビクッとなり我に還ると1つ咳払いをして終了の号令を掛けた。
「皆、お疲れ様。昇格に成功した人、おめでとう!でも、油断したらダメよ?失敗した人や降格した人達も今後の頑張りによっては挽回する機会が増えるから気を落とさないように!では、解散!」
兵士達は一礼し、訓練所を出ていった。
全員がいなくなった後、1人残ったミュー隊長は微かに震える自分の右手を左手でギュッと握り締めた。
「…フゥ〜〜〜、フフフッ。初めてね、こんな気持ちは」
「……ヒィッキシィッ!?」
「ちょ〜っと!?いきなりビックリするでしょ!」
「仕方ねえだろ?クシャミは急に来るんだからよぉ」
「風邪引いたんですか?」
「風邪に負ける程やわじゃねえよ」
「だよね〜?バカは風邪引かないって言うし……」
ゴッ…!
「……ッタァ〜〜イ!?」
頭にタンコブを作りメソメソ泣きながら飛ぶシルクをミナが頭を撫でて慰めている。
「俺は強えから風邪引かねえんだよ」
「ふゎ〜い〜」
「リキさん、あんまりシルクに乱暴したらダメですよ?」
「プッ……キャハハハハハハ!シルクってば、やっぱり苦労しちゃってる〜!」
甲高い笑い声が聞こえ振り向くと、シルクと同じサイズの妖精が飛んでいて傍には優しそうな顔の男性がいた。
「げっ!?マチルダ……」
会いたくない人に見つかってしまった様でドッと汗をかき出した。
「………誰だ?」
「ハロー!アタシ、マチルダ〜!シルクと同じ女神試験を受けてるの」
「女神試験?」
「ちょ……それって禁句じゃ…」
焦り出すシルクだが、マチルダと名乗る妖精は馬鹿にするように笑いだした。
「キャハハハハハ!コレ、禁止されてるのアンタぐらいよ?」
「えっ!?」
「何なんだよ?女神試験って」
「アタシ達妖精はね、女神に成るための試験を受けてるのよ。どれだけ素早く上手く飛べるか、どれだけ臨機応変に行動出来るかとかね」
「………」
俯くシルクを他所に話を続けてくる。
「大体の妖精は余裕でクリアしてるのよね〜。誰かさんを除いて」
アンタだよと言わんばかりの視線をシルクにぶつけてくる。
「そして、今では大女神様の水晶で選ばれた人間を異世界で実績を残す試験を受けてるの」
「そうなの?」とミナの質問に知らねえと答えるリキ。
シルクに聞こうにも黙ったままだ。
「けどさぁ……プクククク…ホントに期待を裏切らないわね?そんなハズレくじを引くなんてさぁ」
自分の事だと何となく察したリキだが、特に反論しなかった。
「見るからに悪人面だし。絶対皆から嫌われてるよね?その点、彼は強くて優しくて皆からモテて凄く良い人材よ〜」
マチルダと一緒にいる男性がフンッと見下す様な笑みをしてコッチを見ている。
「ホンっトに、そんなハズレくじじゃなくて安心したわ?私だったら、直ぐに投げ出すもん」
「つー事は、オメェはシルクより根性無いんだな?」
リキの一言にマチルダの眉がハの字につり上がった。
「……ハァ〜〜?」
「オメェの言うハズレくじの俺にシルクは一度も投げ出さなかったぜ?」
(………リキ)
「アタシがそいつより劣ってるって言うの?」
「少なくとも根性はな」
「きみ、彼女の悪口は止めてもらえるかな?」
「うおっ!?」
「あらあら〜?彼の威圧に負けちゃった?」
「いや、そいつ喋るんだな?さっきまでセリフ無かったからモブかと思ったよ」
ブフゥっと思わず噴き出すシルク。
「…きみ…僕の事を無視してたのか?」
「ぶっちゃけ、興味無えし」
「僕が誰だか知らないようだね?地元では鉄人と呼ばれた僕の事を」
「へぇ〜〜?じゃあ、殴っても効かないんだな?」
「そうだね?特別に一発腹を殴っても良いよ」
相当な自信が有るのか、自分の腹を指差して「どうぞ」と促している。
(フフフッ、この挑発に乗って痛い目見るがいい。なんせ……)
ドゴォォォーー!!
リキの右ストレートをもろに腹部に受けると10メートル程後方に吹っ飛んだ。
「ほぉ……ぅげぇ……ふぉ……」
腹を抑えて嘔吐しながら地面にのたうち回っている。
「リキ…やり過ぎじゃない?」
リキは何も言わず男の服を捲り、ゴソゴソと何かを探りだした。
「やっぱり。コイツ、鉄板仕込んでやがったわ」
「ほら」と、3〜5ミリ程の厚みのある鉄板を取り出した。
「……………うそ」
マチルダは自分の思い描いた状態と全く異なる現状になっている事に驚愕している。
「ねぇ、アンタの相方やられちゃったけど?」
さっきまで馬鹿にしていたシルクに立場が逆転してしまった事で憤慨し、悶え苦しんでいる自称鉄人を強引に引っ張りながら去っていった。
「リキさん、手は大丈夫なんですか?」
「ぁん?……別に平気だぜ」
「どうして鉄板が仕込んでるって分かったんですか?」
ミナの質問に少し考えてから答えた。
「勘……かな?アイツが殴る所を指定しただろ?何か仕込んでると思ったから思い切り殴ったんだよ。半端にやったら、こっちが痛いからな」
「リキ………」
「なんだ?」
「う…ううん!何でもない」
「なら、行くぞ。妖精」
マチルダに嫌味を言われた時はシルクと呼んでくれたが、また妖精に戻っている。
それでも、シルクは嬉しかった。
いつも、馬鹿にされてて、ずーっと見返したかった相手に自分をフォローしてくれた。
とてもスッキリした気持ちだった。
「シルク」
ミナが笑顔で呼び掛けた。
「凄く嬉しそうだね」
思わず口元がニヤけてたのを見られて両手で必死に隠した。
「……よぉ、何か来てんぞ?」
城門に全身を鎧で着込んだ集団が陣形を整えてやって来た。
「あの鎧は……確かマルロ王国の…」
「ぅん?何か女の子がいるぞ?」
集団の中央に白とピンクを基調としたドレスを着た少女がいた。
黒髪のロングで、まだ中学生程の背丈だ。
その両隣には執事服を着た60代程の男性とメイド服を着た20代程の女性が並んでいて、集団は少女のペースに合わせて歩んでいた。
「……何だ、ありゃ?」
「マルロ王国の王女です!頭を下げないと」
ミナがお辞儀をしたのを見て周りを確認すると、皆が同じお辞儀をしていた。
「リキさんも早く」
(ピクッ……リキ?)
王女がチラッとリキ達の方を向くと静かに歩み寄ってきた。
近づいてくる時に気づいたが、王女はまるで生気を感じない瞳をしている。
(………?)
何でコッチに来るんだと思っていたら、向こうが問い掛けてきた。
「アナタ、リキって言うの?」
「そうだけど?」
「ナーバス」
ナーバスと呼ばれた執事服の男性が数枚の紙を取り出すとリキと交互に見比べて「間違いありません」と王女に耳打ちした。
すると、王女は朗らかに微笑むとリキに挨拶をした。
「はじめまして。私はマルロ王国王女のミルフィーユ・マルロと申します。ようやくお会いできましたね。王子様」
そして、ゆっくりとリキを抱き締めると口付けを交わしてきた。
「〜〜〜〜〜っ!?」
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