オミクロン株の感染急拡大で落ち着かない感じではありましたが、これは見逃す訳にはいかないと思い、平日で、電車も街中も混まない時間帯を狙って「シチリアを征服したクマ王国の物語」観てきました。
これはねえ・・・、凄い作品です。
「日本昔ばなし」を思わせるような素朴な絵柄とのんびりした語り口の中に、人間社会に巣食う悪徳や欲望、不道徳といったものが極めて辛辣に描かれていて、驚かされました。
旅芸人のジェデオンと助手の少女・アルメリーナが山中で道に迷い、一夜の宿にと入り込んだ洞穴は、なんと巨大な老クマの住処。
食べられては大変と、二人は老クマの機嫌を取るべく得意の「シチリアを征服したクマ王国」の物語を始めます。
息子のトニオを人間に攫われたレオンス王は仲間を連れて人間の世界へ。温厚なクマたちに対し強硬な手段しか取れない人間達。勇気と知恵で数々の困難を乗り切ったレオンス達は人間側の暴君を倒してトニオだけでなく圧政の下にいた市民達をも解放し、めでたし・・・。
ところが老クマは「その話には続きがあるのだ」と、自らその後日譚を語り始めます。それは予想を越えた驚くべき物語でした。
この作品は二段構えの作りになってまして、前半は愉快で楽しい冒険譚。ところが語り部が交代してからは、人間社会の暗部を揶揄したダークファンタジーになっております。
この後半部で描かれるのは、「徳」と「平等」を忘れた統治は必ず堕落するということ、すべからく生き物というものは自然から離れては生きて行けないということです。
どんなに善政を敷いていても、権力の集中と信頼の欠如が統治体制の硬直化と人心の荒廃を招くのは、歴史が示す事実。そして大地や風や水や森の恩恵を忘れた暮らしが、生き物の心から潤いを奪っていくのもまた、当然の成り行き。
そのことが、本作では牧歌的な作画世界の中で雄弁に語られているのです。
「ロング・ウェイ・ノース」「ブレッドウィナー」「ウルフウォーカー」「カラミティ」など、ここ数年、海外アニメーションスタジオは次々と独創的で示唆に富み、そして面白い作品を創り出していますが、本作もそうした秀作の一本に挙げてもいいと思います。
公開規模は小さいですが、もし鑑賞の機会があれば、ぜひ御覧下さい。
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