第1次世界大戦という、もう百年も前の戦争の映像がこんなにも雄弁に「今も変わる事のない、戦争の本質」を物語るとは。
「ロード・オブ・ザ・リング」で知られるピーター・ジャクソンの新作は、当時のフッテージを最新技術で再生、カラー化することで、あの戦争を闘い、生き残った人々の心の変遷を綴った力作でした。
「開戦」「召集又は志願」「訓練」「前線の日常」「戦闘・突撃」「戦闘後の惨状」「終戦・帰還」という順序で構成された映像と、帰還兵たちの遺した音声は、観る者に、戦争によって人の心が変えられて行くプロセスを極めて明快に提示しています。
「国のためだから」「義務だから」「卑怯者、臆病者と言われたくないから」「なんだかワクワクするから」「どうせ国にいたって仕事もないし」という、それぞれの理由で戦地に赴く若者達。
彼らはまだこの時、自分たちがどんなに悲惨な経験をするのか想像すらしていません。貧弱な軍装、ショボい食事に不平を言うのが関の山。
戦場に出ても、4日間の塹壕勤務と1週間の休養という単調な生活にただ退屈するだけ。彼らを悩ますのは不潔な塹壕内の環境と、残置された死体の放つ腐臭だけです。
しかし・・・、そんな兵士達を待っていたのは無情な突撃命令と、近代兵器がもたらす殺戮の惨状でした。
目玉が飛び出し、内蔵を露出させてもまだ絶命できない戦友の身体を踏みつけて前進せざるを得ない凄惨な状況が、その光景を実際に「見た」者によって延々と、そして淡々と語られます。
スピルバーグの「プライベート・ライアン」以降、むごたらしい戦闘を本物っぽく映像化した作品が数多く作られましたが、本作における「映像と音声による証言」はそのどれをも凌駕していると言っていいでしょう。
やがて迎える終戦。
しかし、そこには安堵も喜びもなかったと言います。
あったのは、ただ、虚無。
ついさっきまで全開になっていた「人殺しのエンジン」が急ブレーキで止められたわけですから、兵士達が戸惑ったのも当然でしょう。
やがて湧いた気持ちは「不安」でした。
俺たち、国に帰還して、何をすりゃいいんだ?
挿入された映像には、手をブルブルと震わせ、明らかに戦時ストレスで心を病んでしまったと思しい兵士の姿も映っています。
証言者たちが口々に語った言葉が重く響きます。「何のために闘ったのか、わからない」「無駄な戦争だった」。
もう、戦争前の高揚感など、どこにもありません。
人々を煽動し、熱狂させ、辛酸をなめさせた上に命まで奪い、生き残った者の魂に取り返しのつかない傷を負わせる、それが戦争。
百年も前の戦争を闘った人達が私達にこう語りかけているような気がします。
「繰り返すな。乗せられるな。気をつけろ」。
必見の作品です。皆さん、機会があったらぜひ、観てください。
ログインしてコメントを確認・投稿する