今日は夕方久しぶりに渋谷に行った。オーケストラ・トリプティークによる「日本の作曲家 創作の歩み」と題するコンサートに行くためだ。在宅によるリモートワークの日だったが、周囲を気にせずパソコンを切ってしまえば仕事は終わりになる。早めに切り上げて渋谷に向かった。
さて、今日のプログラムは次のとおりである。
・山田耕筰:ピアノ五重奏曲「婚姻の響き」
・松村禎三:クリプトガム―隠花植物―
・黛敏郎:10楽器のためのディヴェルティメント
・芥川也寸志:弦楽のための三楽章(トリプティーク)
・伊福部昭:絃楽オーケストラのための日本組曲
・團伊玖磨:管弦楽組曲「桜の国」
オーケストラ・トリプティーク・クインテット
藤岡幸夫指揮 オーケストラ・トリプティーク
会場:大和田さくらホール (19:00 開演)
このプログラムでは、行きたくなるに決まっている。私好みの演奏会だ。とはいっても、実はプログラムを見て、どんな曲かすぐに浮かんだのは芥川と伊福部だけであった。山田のピアノ五重奏曲はCDを持っていたことに気付いたが、松村、黛、團の作品は、おそらく初めて聴く。
1曲目は、オーケストラ・トリプティーク・クインテットによる山田のピアノ五重奏曲である。オーケストラの演奏会だが、まずは室内楽から始まるのである。トリプティーク・クインテットとは、オーケストラ・トリプティークのメンバーである藤井麻里、三宅政弘、知見寺武、高橋奨、竹本聖子の5人で、お馴染みの人たちだ。この曲は山田耕筰が友人の多久寅の結婚を祝して作曲したものだが、パーッと明るい曲という感じよりは、寧ろしみじみと前途を祝すような雰囲気(?)の曲である。新郎新婦の名前を盛り込んだ音名をモチーフにしており、音楽家が音楽家に贈る曲らしい趣向がこらされているということだろう。
このあと、舞台上の設営に時間がかかるため、司会者の西耕一さんと、これから指揮をする藤岡幸夫さんによるトークが入るが、これから演奏する曲目の解説も、まるで2人で漫才をしているようだ。
その藤岡さんの解説による、「最初はなんだこりゃと思ったが、2〜3回振ったらクセになってしまった」という松村の「クリプトガム」である。演奏にはミュージカルソー、クラヴィオリン、鉄板、タイプライターまで加わる、タイプライターは、この演奏会のためにネットで仕入れたという。クラヴィオリンは現在ほぼ入手不可能な楽器なので、これはエレクトーンで代用だ。騒音をモチーフにした音楽ともいえるが、ただ変なだけの作品ではなく、なんだか聴いていて面白いのである。松村作品の中でも特異な位置付けかと思うが、これはまた聴きたくなるような、何とも不思議な魅力のある曲だった。
続いては、黛作品だ。黛が19歳の時の作品だそうだが、すでに天才の片鱗があらわれている作品だというのが、分かるような気がする。10楽器のうち弦楽器はヴァイオリンとコントラバスだけというのも、独特の響きを作り出しているようだ。ピアノがちょっと洒落た感じで入る部分もある。いろいろな要素がうまくミックスされている曲で、これももう一度聴きたい曲だ。
休憩をはさんで、お馴染みの芥川と伊福部の曲が続く。いずれも絃楽オーケストラのための作品だ。芥川の「トリプティーク」は、このオーケストラの名前の由来にもなっている作品で、十八番中の十八番だろうが、藤岡幸夫の指揮で、一層キレキレの芥川節を堪能することが出来た。都会的な芥川作品に続いては、土俗的な伊福部の作品だが、これはもともとはピアノ曲である。それを管弦楽に編曲したものや、今日演奏される絃楽オーケストラに編曲したものがある訳だが、ピアノ版や管弦楽版は何度も聴いていても、意外と絃楽オーケストラ版は聴く機会が少なかったかもしれない。絃楽オーケストラ版が聴けたのもよいが、やはり濃厚な伊福部節である。こちたも十分に堪能することが出来た。何度聴いてもいい曲はいいのである。
最後は團の曲で終わる。これは幼児向けの音楽として作曲されたらしいということで、NHKのラジオ番組で使用された曲かもしれないが、詳細は不明だそうだ。幼児向けといっても、手を抜いた簡単な曲では全くなく、4つの楽章からなる本格的なもので、團らしいセンスのいい音楽であると思った。芥川と伊福部でヒートしたところをクールダウンさせるのにも良い感じだ。
このような日本人作曲家のコンサートは、とにかく楽しい。オーケストラ・トリプティークも、COVID-19の影響でしばらく演奏会を中止していたが、今年は再開しつつある。よい傾向である。
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