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2019年08月25日18:35

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【読書】 最近読んだ本 備忘録

最近読んだ本の、備忘的メモ。

●「東海道ふたり旅」 (池内紀著、春秋社)

ふたり旅とは、著者と歌川広重の二人連れの旅とのことである。広重の描いた東海道五十三次をもとに、東海道の宿場を巡り、それぞれにまつわる様々な話を展開していく「道の文化史」である。1枚の広重の絵から、当時の生活の様子や、町々の表情、そして参勤交代を余儀なくされた大名たちの思いなどが広がっていき、現在の風景も絡めながら連想がふくらんでいく。今も面影が残っている旧宿場町もあれば、跡形もなく変貌した所もあるが、旧東海道を歩けば、何かが見つかるような気がする。この本を読んで、以前少し実行した東海道宿場巡りを再開してみようという気になり、先日まずは原に行った。


●「楽譜と旅する男」 (芦辺拓著、光文社文庫)

前作「奇譚を売る店」と同じような幻想短編集である。前作は古書だったが、今回は楽譜に絡む話である。依頼があればどんな楽譜でも必ず見つけ出すという謎の楽譜探索人。イギリスで百歳の誕生日を間近に控えた老婆の若い頃のある出来事を思い出させる日本のメロディー、ザルツブルクでの忘れ去られた作曲家の幻の作品にまつわる物語、戦時中の蘭印で現地の住民が歌った独特の旋律、チャウシェスク時代のルーマニアでの残虐な行為の裏にあったお菓子売りのメロディー、西太后が自分だけのために作らせた京劇オペラの謎、そしてパリの劇音楽作曲家と劇団女優をつなぐ暗号の旋律。楽譜がからんで展開する話に引き込まれ、現実と幻の境も曖昧になってくる。これは不思議な感覚で楽しめる小説だ。


●「虚数はなぜ人を惑わせるのか」 (竹内薫著、朝日新書)

ちょっと軽めの数学の本。猫にも分かるような虚数の話にはじまり、数学の発展とともに虚数がどう関わってきたかを述べ、そして、オイラーの公式やホーキングの虚時間宇宙論にまで展開していく。そもそも「虚数」という名前が誤解を生む。二乗してマイナスになるなんて、想像上の実在しない数だという意味だが、今や物理学でも経済学でも、何らかの数式を扱う分野で、虚数が不要な領域はない。みんながパソコンやスマホなどを使えるのも虚数のおかげだ。タイトルに釣られて買ったが、書かれているのは今さらな内容で、軽く読み流せる本である。


●「恋するハンバーグ」 (山口恵以子著、ハルキ文庫)

先日読んだ「食堂のおばちゃん」の第2作である。「はじめ食堂」が2人の「おばちゃん」による定食屋になる前の、昭和40年代の洋食屋時代の6つの話が語られる。帝都ホテルの次期料理長と目されていた一孝蔵は、ゆえあって帝都ホテルを辞め、佃で愛妻一子とともに洋食者をオープンさせた。最初は帝都ホテルの料理にこだわって、料理は美味しいのに客が来ないという事態になるも、次第に佃の客の求めるものが分かってきて、軌道に乗っていく。そして、この洋食屋の客をめぐる、さまざまな事件も、最後はほっこりと心温まる結末になるのは前作同様だ。昭和40年代の風物なども織り込まれ、懐かしさも味わえる小説だ。モデルになった店があるのかな。そのうち佃を探索してみようと思う。


●「タコの心身問題」 (ピーター・ゴドフリー=スミス著/夏目大訳、みすず書房)

科学哲学という耳慣れない分野の研究者でありダイバーでもある著者によるタコの本。人間とは、見かけだけではなく、その内面−心と知性も全く異なる生物であるタコ。生物の進化の過程をたどっていくと、全く違った径路で二つの心が形成されたという。すなわち、人間などの哺乳類が属する脊椎動物の心と、タコなどの頭足類が持つ心である。シドニー沖の海底にもぐると、タコが集まる場所があり、著者は「オクトポリス」と名付けているが、そこではタコが社会性をもって生活しているように見えるという。タコは好奇心も旺盛だ。タコが高い知能をもっていることは明らかだが、不思議なことに寿命が著しく短い(2年程度)ことも事実だ。タコはまるで別の星から来た知的生命体のようである。
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