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2020年01月23日10:27
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ギリシア入国への厚い壁 その１
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１１月２０日（日） 天気・晴れ
山間の静かな宿で迎える朝は、フカフカのベッドと、窓から差し込む柔らかな日差し。こんな目覚めの時間ほど気持ちのよいものはない。8時になって宿のオーナー夫人が朝食を持ってきてくれた。コーヒーにヨーグルト、そしてメインの不思議な主食。そういえば、日本においては『ブルガリア＝ヨーグルト』と、どこぞの某メーカーではないが、そんなイメージが頭にこびりついていた。それなのに僕はブルガリアに入ってから、一度もヨーグルトを食べていない。ブルガリア最終日だというのに、今回食べるのが初めてなのだ。さて、その本場のお味はどうなのかな？早速スプーンですくって食べてみる。
『うん、うまい！』
砂糖なんかでの味のごまかしは一切ない。それでいてほのかな酸味と甘みが口いっぱいに広がってくる。かなりの量があるのに、嫌気を全く感じる事無く食べられる。このヨーグルトは今まで僕が食べた中でも一番うまいヨーグルトだ。こんなにうまいヨーグルトだけれど、僕が見るに現地の人達はいつでもどこでもヨーグルトだけを食べている訳ではないのが不思議だ。多分食事における隠し味や下ごしらえ等の様々な場面において、見えない所でヨーグルトが重要な地位を占めているのであろう。でも日本では、ほとんどそのまま食べるだけ。名前だけが独り歩きして、その活用方法までが伝わっていないのは、何だかもったいない気がしてくる。
こんなうまいヨーグルトが出てきただけでも十分満足なのだが、これはあくまで前菜にすぎない。今回の朝食のメインは、今まで見たこともない不思議なパン。その名は『ブルシェ』。一見コルネのようにも見えるパンなのだが、表面はサクサクで中身はふっくらと、まるでドーナツでも食べているかのような不思議な食感だ。もちろんそのままでも十分に美味しいけれど、備付けのハチミツをつけて食べると、その美味しさは倍増する。あまりの美味しさに12ケ程更に山盛りになったブルシェが、あっという間に無くなってしまったくらいなのだから！本当に美味しかったので、オーナー夫人にこのブルシェの作り方を教えてもらった。言葉が十分に通じないので、細かい所まで聞き取れなかったのが残念だが、この夫人お手製のブルシェは次のように作っていくとの事。
�� 小麦粉に水とヨーグルトを混ぜてこねる。
�� 手にべとつかない程度の硬さになった所で、手のひらに収まる程度の大きさにちぎり、それを掌で握るようにして円筒状の形に整える。
�� 形を整えたタネを、油で軽く揚げれば出来上がり！
なるほど、出来上がったブルシェをよく見ると、ちょうど指の数の分だけ凹みがあるのがよく分かる。揚げたてのブルシェはそのままか、ハチミツをつけてドウゾ！まあ、ざっとこんな感じである。以上、『ワニーのお料理講座』でした！？
清潔で綺麗な部屋、美味しい食事、優しいオーナーと、もうここから離れたくない気分であるが、残念ながら出発の時間が近づいている。準備を整えチェックアウトの挨拶に伺うと、家族総出で出迎えてくれた。夫妻と2人の姉妹、そして1匹の子猫。みんなと一緒に記念撮影してから、玄関まで見送ってくれた皆さんに大きく手を振って、僕は出発した。ブルガリア1番であったこの宿の名前を記しておきたい。『アッシェン＝エ＝ミロウシェブ・プライベートホテル』、ホテルメルニックの街側手前にあるので、すぐ分かると思う。メルニックに訪れた際は、ゼヒこの宿での宿泊をお勧めしたい。
去ることも惜しいメルニックだけど、もう旅立ちの時間だ。今日からはギリシアに入る。でもその前に、最後のブルガリアを楽しむという意味も込めて、宿のオーナーに教えてもらった『ローゼン僧院』に行く事にしよう。ローゼン僧院はメルニックからすぐで、ウネウネとした山道を登り切った丘の上にあるという。道中ではこれから放牧地へと向かうのであろうか、ヤギの群れとそれらを追う牧童達に出会った。ヤギの群れにバイクの周りを囲まれてしまうという、微笑ましいハプニングにあいながらしばらく走ると視界が開け、それまでの山道が嘘のように感じる程、広々とした高原が一面に広がっていた。その野原の中、どこの世界からも忘れ去られたかのようにポツンと佇んでいたのが、目的地のローゼン僧院であった。
ローゼン僧院の『ローゼン』とは、『生誕』の意味を持ち、建立は12〜13世紀頃と昨日行ったリラ僧院と同様、歴史のある宗教施設だ。もっともリラ僧院と比べるとその規模はずっと小さく、聖書の場面を描いた16世紀頃の壁画を除けば、それといった華やかさもない。だが中庭に作られた『ワインの里メルニック』を思い起こさせるブドウ棚や、宿坊内に当時のまま残されているカマド等、当時の僧侶たちの生活臭が漂う素朴な雰囲気の僧院は、ふもとの町メルニックののんびりとしたのんびりとした風景にとても馴染んでいる、僕はそんな気がしてこの心地よさを満喫するのであった。
礼拝堂にて『どうかこの旅が無事成功できますように』とお祈りして、駐車場となっている表の広場に出る。広場には猫が1匹いた。多分この僧院に居ついているのであろう猫は、コロコロと太っていてとても可愛らしい。おまけに人を少しも怖がらず、呼べばすぐに近寄ってゴロゴロと甘えてくる。ちなみに日本語で読んでも近寄ってくるから、猫には言葉の壁なんて無いのかと、妙に納得するのであった。誰にでも甘える術を知っている。おそらくこうして観光客や僧院の方々に愛想を振りまきながら、日々の糧を得ているのだろう。だから野良の割にいい体格をしていたのかな？
その猫としばらく遊んでから、広場の一角に設けられていた土産物の露店を見に行った。土産物屋といっても、僧院関連の品物は一切置いていない。地元のおばちゃん達数人が、特産品の花や野菜を売っているくらいの、まるで日曜市のようにささやかなお店である。それが返ってこの土地らしいというか微笑ましく、足を止めて見入ってしまうのであった。
そこで出会ったスイスから来たという家族に、色々と質問を受けた。僕がバイクに乗ってロサンゼルスからここまで来て、これからインドに向かって走っていくと、旅の概要を話していると、その家族の父さんは
『君はブレイブ（勇敢）だ！』
と恥ずかしくなるくらいに僕を褒めてくれ、家族の人からも拍手喝采を受けてしまった。
こんな風に海外を旅していると、欧米人に限らず様々な人から称賛の声を受ける。でも日本においてはやはりというか、賞賛よりも疑問や否定の声の方が圧倒的に多い。もちろんそこには家族や将来の事を心配しての気持ちが含まれているのは事実だ。だが一部ほんの一握りの人は、こうした自分とは異質な行動を取る者に対して哀れというか、もっと悪く言えば妬みの気持ちを持っているのもまた事実である。自分が描く飛び出た者がいない世界や価値観に固執するのは一向に構わない。でも固執するあまりに自らの価値観を人に押し付ける事は、決してあってはならないはずだ。価値観とは人それぞれの個性であり、お互いに認めあい協調しあってこそ伸びていくものではないだろうか？価値観の押しつけは、伸びるべき個人の芽を摘み取り、成長の可能性までも殺してしまうのだから…。『こんな事をしている人がいるのか！』と称賛する心と、『チャラチャラとそんな事をしやがって！』と否定する心。そんな価値観に対する国民性の違いを、今日出会ったスイス人の家族から見る事ができたように思えた。
山道を下り、最後にもう一度素晴らしきメルニックの街並みを目に焼き付けてから、さあ出発だ。Ｅ79号に合流して、ギリシアとの国境を目指す。かなり南下しているからか、国境にはそれほど時間もかからずに到着した。ギリシアへ向かう長距離トラックが行列を作っている以外には、観光客等の姿もあまり見受けられない、静かな国境である。
まずは残ったLvをUS＄に再両替する。普通なら手数料やら何やらで目減りするはずだけれど、今回訪れた先の東欧二ヶ国では＄の力が圧倒的に強い事もあり、売買レートにはほとんど差が見られない。もちろんこのブルガリアも例外ではなく、再両替のレートに関してはほとんど変わりがなかった。
高額のLvは再両替できたが、小額紙幣（ブルガリアではお金は全て紙幣であった。）は両替してくれないので、すぐそばの売店でコーヒーとチョコレートを買う事にした。売店の近くでは地元のおばあさん達が、手作りのレースの敷物を国境越えの観光客相手に売り歩いている。観光客がほとんどいない現状ではそんなに売れ行きが良いとは思えないが、それでもぽつりぽつりと買っていく人はいた。おばあさんに商品を見せてもらうが、質は良くてその割に値段もそれほど高くないので、僕も一枚欲しくなった。でも支払いはLvのようで、再両替を済ませてしまった僕にはあいにく手持ちがない。＄払いでもOKのようだが、何よりもサイズがテーブルクロスに使えるくらいの大きさがあるので、持ち運ぶとなったらかさばって仕方がないだろう。残念だけどおばあさんにお礼を言って、今回はあきらめる事にした。
さて売店にて小さなカップに入ったエスプレッソを飲んでいると、さっきまで隣の車を洗っていた青年が、勝手に僕のバイクまで洗い始めたではないか？僕は洗ってほしいと頼んだ覚えはないし、サービスにしてもおかしすぎる。気になってバイクの傍に駆け寄ると、僕を見かけた青年が近づいてきて、僕に『洗車代として１DMよこせ』と言ってくるのだ
たとえ１DMとしてもそんな金は払えるはずがない。バイク自体もただ単に水をかけた程度で、ちっとも綺麗になっていないし…。しばらくすると、隣の車のオーナーもやって来た。驚いた事にその青年は、僕のバイクだけでなくその車も勝手に洗っていたのだ。オーナーと青年の激しいやり取りが続く。僕も残ったエスプレッソを飲み干して、それに便乗するような形で、適当に口論に参加した。ブルガリアでの良い思い出をこんな事で潰されたくなかったし、取りあえず通じなくても一言言っておきたい。まだまだヒートアップする様子を見計らって、さっさと国境ゲートへと向かうのであった。もちろん青年には一銭たりとも払わずに！
最後の最後で不快な気分になりかけたが、気を取り直して出国の手続きに入る。ブルガリアの出国手続きは、保険証明を兼ねたバイクの持込許可証を、パスポートと一緒に提出するだけ。あっけない程簡単に終了した。この出国手続きの終了は、すなわち東欧三ヶ国との別れも意味する。ハンガリー・ルーマニア・ブルガリア。個性際立つそれぞれの国でのさまざまな思い出が、僕の頭の中を駆け巡る。民主化革命という社会構造の大変化の中で、戸惑いながらも自分達の生きる道を探し続ける人々。ほんの一端なのだけど、そんな人々の生き様に触れる事ができたのは、僕にとっても貴重な体験であった。普段何気なく過ごしてきた民主主義という世界が、成立するまでにこれ程までの人々のパワーが必要とされるとは…。ここに生き、そして死んでいった人々のこうした活きるパワーが、未来においても決して無駄にならないように祈りたい。ありがとう
よし、次はギリシア。再び西欧の世界に戻るのだ！異世界から自分の世界に帰るかのように、意気揚々と行きたいところだが、ギリシア入国に際してちょっと厄介な問題が発生した。それは『保険』。バイクにかかる『グリーンカード』の件だ。ブルガリアでも自動車保険の提示を求められたが、なんやかんやで誤魔化し、正式な保険に加入せずに入国に成功した。他のヨーロッパ諸国でも提示を求められた事はないし、ここまで来たのだから今更加入するのもなあ。というわけで今回のギリシア入国の際も、ブルガリアと同じ手段を使って、日本で加入した自動車保険等を駆使して、強硬通過？の可能性へとチャレンジだ
しかし、さすがは西欧そのチェックはとてつもなく厳しかった。僕の持っている保険では全くダメ。説明しても当然だがダメ。西欧最終国ギリシアにおいて、僕は保険未加入者とみなされてしまったのだ！
…どうしよう。ただ単に加入していないだけならばともかく、何か月も未加入のままで西欧・東欧併せて8か国を走り回って来たのだ。バレてなかったとはいえ、これでは罰金を命じられてもおかしくない。罰金に関しては日本ではあまり良い思い出のない（原付で速度違反のため2回も捕まってしまった。しかも1回目は初めての北海道ツーリンで…。まあ罰金なんて誰もいい思い出なんか持っていないだろうが。）僕は、今後訪れる国の入国事情や気象状況以上に不安になってきた。こうした罰金は、果たしていくらなのだろう？高かったら嫌だな。＄払いでもカード払いでもできるのかな？もう罰金を払うという事だけが頭の中を駆け巡っている時、ふと日本で調べてきたグリーンカード加入の一説、『場合によっては国境での加入も可能』を思い出した。もしかしたらこれは使えるかもしれない！ダメ元で入国審査官に聞いてみよう？と、ここでの加入の是非を尋ねてみると、審査官からあっさりとＯＫ！もちろん罰金は無し！笑顔でゲートすぐそばの建物で手続きができると教えてくれたのであった。多分、ブルガリア等の東欧諸国からの入国者に対応しているのであろう。何でも聞いてみるものだな。全て終わったらもう一度入国ゲートに来るようにと念を押され、早速手続きをすべく、指定された建物へ向かうのであった。
建物に入ってすぐの小さなオフィスにて、グリーンカードに加入したいと告げると、係のおじさんはすぐに手続き書類を持ってきてくれた。その加入手続きは日本の自賠責保険と同様、とても簡単である。パスポート・カルネ・国際登録書・国際免許証と一緒に、加入手続き書類にビザ申請程度の必要事項を記入して提出するだけだ。こんな調子だから、発行の方もスムーズにいくと思っていた。ところが10分たっても20分たっても、僕のカードはなかなか発行されてこない。書類の記入事項に何か不備があったのか？それとも今まで加入してこなかった事に対して何か検討しているのか？心配になって先程の係のおじさんに尋ねてみると書類はＯＫなのだが、ここでのオートバイに対しての発行はほとんど扱った事がないので、今その保険料の算出をしているとの事。このおじさんは手続きの時から僕にとても親切にしてくれ、待っている間もコーヒーを出してくれたり、すごく気を使ってくれた。おかげで僕は待っている間少しも不満や苛立ちを起こす事無く、気分良く過ごす事ができた。
約40分程待って、ようやく申請が受理された。支払いはギリシア通貨Dr（ドラグマ）のみで＄払いはできないとの事。すぐに両替所に向かい換金する。両替所は自動販売機のようなオートメーション式となっていて、ゲームセンターでメダルを変えるような感覚。さすが西欧と思わせる程に近代的だ。＄かDMの現金のみ対応で、当然トラベラーズチェックは不可。今後の事を考えて、西欧ではなるべく現金同士での両替は避けておきたい。今は必要最低限度に留めておいて、明日銀行にてトラベラーズチェックで、残りの両替をしよう。…そういえば今日もまた日曜日だったな。僕の国境越えは、なぜか休日が多い。いずれにしても明日に持ち越しだったんだ…。ちなみにレートについては、１Dr⇒0.44円といった所か。取りあえず今日の宿代なんかも含めて100＄分を両替しておこう。
両替から戻ると、おじさんは全ての書類を用意して待っていてくれた。気になる保険料は1か月有効分で16,600Dr（約7,300円）と、今まで東欧の金銭感覚を経験してきた身にとっては、少々痛い金額である。でも今まで保険に加入していなかったのだし、それまでの保険料に加え入国税だと考えれば安いものだと割り切ったら、スッと気分は楽になった。早速発行されたグリーンカードを見てみると、内容は全てギリシア文字で書かれているので、何が何やらさっぱり分からない。大丈夫だろうけど、本当に大丈夫かなあ…？
まあともかく発行されたのだ。係のおじさんにお礼を言って、今度こそ意気揚々と入国ゲートへと向かった。発行したてのグリーンカードと国際登録証・パスポートを提出し、入国印とバイク持込証明印を押してもらって全ての手続きが完了！13時30分、僕は晴れてギリシアへの入国を果たしたのであった。
山間の静かな宿で迎える朝は、フカフカのベッドと、窓から差し込む柔らかな日差し。こんな目覚めの時間ほど気持ちのよいものはない。8時になって宿のオーナー夫人が朝食を持ってきてくれた。コーヒーにヨーグルト、そしてメインの不思議な主食。そういえば、日本においては『ブルガリア＝ヨーグルト』と、どこぞの某メーカーではないが、そんなイメージが頭にこびりついていた。それなのに僕はブルガリアに入ってから、一度もヨーグルトを食べていない。ブルガリア最終日だというのに、今回食べるのが初めてなのだ。さて、その本場のお味はどうなのかな？早速スプーンですくって食べてみる。
『うん、うまい！』
砂糖なんかでの味のごまかしは一切ない。それでいてほのかな酸味と甘みが口いっぱいに広がってくる。かなりの量があるのに、嫌気を全く感じる事無く食べられる。このヨーグルトは今まで僕が食べた中でも一番うまいヨーグルトだ。こんなにうまいヨーグルトだけれど、僕が見るに現地の人達はいつでもどこでもヨーグルトだけを食べている訳ではないのが不思議だ。多分食事における隠し味や下ごしらえ等の様々な場面において、見えない所でヨーグルトが重要な地位を占めているのであろう。でも日本では、ほとんどそのまま食べるだけ。名前だけが独り歩きして、その活用方法までが伝わっていないのは、何だかもったいない気がしてくる。
こんなうまいヨーグルトが出てきただけでも十分満足なのだが、これはあくまで前菜にすぎない。今回の朝食のメインは、今まで見たこともない不思議なパン。その名は『ブルシェ』。一見コルネのようにも見えるパンなのだが、表面はサクサクで中身はふっくらと、まるでドーナツでも食べているかのような不思議な食感だ。もちろんそのままでも十分に美味しいけれど、備付けのハチミツをつけて食べると、その美味しさは倍増する。あまりの美味しさに12ケ程更に山盛りになったブルシェが、あっという間に無くなってしまったくらいなのだから！本当に美味しかったので、オーナー夫人にこのブルシェの作り方を教えてもらった。言葉が十分に通じないので、細かい所まで聞き取れなかったのが残念だが、この夫人お手製のブルシェは次のように作っていくとの事。
�� 小麦粉に水とヨーグルトを混ぜてこねる。
�� 手にべとつかない程度の硬さになった所で、手のひらに収まる程度の大きさにちぎり、それを掌で握るようにして円筒状の形に整える。
�� 形を整えたタネを、油で軽く揚げれば出来上がり！
なるほど、出来上がったブルシェをよく見ると、ちょうど指の数の分だけ凹みがあるのがよく分かる。揚げたてのブルシェはそのままか、ハチミツをつけてドウゾ！まあ、ざっとこんな感じである。以上、『ワニーのお料理講座』でした！？
清潔で綺麗な部屋、美味しい食事、優しいオーナーと、もうここから離れたくない気分であるが、残念ながら出発の時間が近づいている。準備を整えチェックアウトの挨拶に伺うと、家族総出で出迎えてくれた。夫妻と2人の姉妹、そして1匹の子猫。みんなと一緒に記念撮影してから、玄関まで見送ってくれた皆さんに大きく手を振って、僕は出発した。ブルガリア1番であったこの宿の名前を記しておきたい。『アッシェン＝エ＝ミロウシェブ・プライベートホテル』、ホテルメルニックの街側手前にあるので、すぐ分かると思う。メルニックに訪れた際は、ゼヒこの宿での宿泊をお勧めしたい。
去ることも惜しいメルニックだけど、もう旅立ちの時間だ。今日からはギリシアに入る。でもその前に、最後のブルガリアを楽しむという意味も込めて、宿のオーナーに教えてもらった『ローゼン僧院』に行く事にしよう。ローゼン僧院はメルニックからすぐで、ウネウネとした山道を登り切った丘の上にあるという。道中ではこれから放牧地へと向かうのであろうか、ヤギの群れとそれらを追う牧童達に出会った。ヤギの群れにバイクの周りを囲まれてしまうという、微笑ましいハプニングにあいながらしばらく走ると視界が開け、それまでの山道が嘘のように感じる程、広々とした高原が一面に広がっていた。その野原の中、どこの世界からも忘れ去られたかのようにポツンと佇んでいたのが、目的地のローゼン僧院であった。
ローゼン僧院の『ローゼン』とは、『生誕』の意味を持ち、建立は12〜13世紀頃と昨日行ったリラ僧院と同様、歴史のある宗教施設だ。もっともリラ僧院と比べるとその規模はずっと小さく、聖書の場面を描いた16世紀頃の壁画を除けば、それといった華やかさもない。だが中庭に作られた『ワインの里メルニック』を思い起こさせるブドウ棚や、宿坊内に当時のまま残されているカマド等、当時の僧侶たちの生活臭が漂う素朴な雰囲気の僧院は、ふもとの町メルニックののんびりとしたのんびりとした風景にとても馴染んでいる、僕はそんな気がしてこの心地よさを満喫するのであった。
礼拝堂にて『どうかこの旅が無事成功できますように』とお祈りして、駐車場となっている表の広場に出る。広場には猫が1匹いた。多分この僧院に居ついているのであろう猫は、コロコロと太っていてとても可愛らしい。おまけに人を少しも怖がらず、呼べばすぐに近寄ってゴロゴロと甘えてくる。ちなみに日本語で読んでも近寄ってくるから、猫には言葉の壁なんて無いのかと、妙に納得するのであった。誰にでも甘える術を知っている。おそらくこうして観光客や僧院の方々に愛想を振りまきながら、日々の糧を得ているのだろう。だから野良の割にいい体格をしていたのかな？
その猫としばらく遊んでから、広場の一角に設けられていた土産物の露店を見に行った。土産物屋といっても、僧院関連の品物は一切置いていない。地元のおばちゃん達数人が、特産品の花や野菜を売っているくらいの、まるで日曜市のようにささやかなお店である。それが返ってこの土地らしいというか微笑ましく、足を止めて見入ってしまうのであった。
そこで出会ったスイスから来たという家族に、色々と質問を受けた。僕がバイクに乗ってロサンゼルスからここまで来て、これからインドに向かって走っていくと、旅の概要を話していると、その家族の父さんは
『君はブレイブ（勇敢）だ！』
と恥ずかしくなるくらいに僕を褒めてくれ、家族の人からも拍手喝采を受けてしまった。
こんな風に海外を旅していると、欧米人に限らず様々な人から称賛の声を受ける。でも日本においてはやはりというか、賞賛よりも疑問や否定の声の方が圧倒的に多い。もちろんそこには家族や将来の事を心配しての気持ちが含まれているのは事実だ。だが一部ほんの一握りの人は、こうした自分とは異質な行動を取る者に対して哀れというか、もっと悪く言えば妬みの気持ちを持っているのもまた事実である。自分が描く飛び出た者がいない世界や価値観に固執するのは一向に構わない。でも固執するあまりに自らの価値観を人に押し付ける事は、決してあってはならないはずだ。価値観とは人それぞれの個性であり、お互いに認めあい協調しあってこそ伸びていくものではないだろうか？価値観の押しつけは、伸びるべき個人の芽を摘み取り、成長の可能性までも殺してしまうのだから…。『こんな事をしている人がいるのか！』と称賛する心と、『チャラチャラとそんな事をしやがって！』と否定する心。そんな価値観に対する国民性の違いを、今日出会ったスイス人の家族から見る事ができたように思えた。
山道を下り、最後にもう一度素晴らしきメルニックの街並みを目に焼き付けてから、さあ出発だ。Ｅ79号に合流して、ギリシアとの国境を目指す。かなり南下しているからか、国境にはそれほど時間もかからずに到着した。ギリシアへ向かう長距離トラックが行列を作っている以外には、観光客等の姿もあまり見受けられない、静かな国境である。
まずは残ったLvをUS＄に再両替する。普通なら手数料やら何やらで目減りするはずだけれど、今回訪れた先の東欧二ヶ国では＄の力が圧倒的に強い事もあり、売買レートにはほとんど差が見られない。もちろんこのブルガリアも例外ではなく、再両替のレートに関してはほとんど変わりがなかった。
高額のLvは再両替できたが、小額紙幣（ブルガリアではお金は全て紙幣であった。）は両替してくれないので、すぐそばの売店でコーヒーとチョコレートを買う事にした。売店の近くでは地元のおばあさん達が、手作りのレースの敷物を国境越えの観光客相手に売り歩いている。観光客がほとんどいない現状ではそんなに売れ行きが良いとは思えないが、それでもぽつりぽつりと買っていく人はいた。おばあさんに商品を見せてもらうが、質は良くてその割に値段もそれほど高くないので、僕も一枚欲しくなった。でも支払いはLvのようで、再両替を済ませてしまった僕にはあいにく手持ちがない。＄払いでもOKのようだが、何よりもサイズがテーブルクロスに使えるくらいの大きさがあるので、持ち運ぶとなったらかさばって仕方がないだろう。残念だけどおばあさんにお礼を言って、今回はあきらめる事にした。
さて売店にて小さなカップに入ったエスプレッソを飲んでいると、さっきまで隣の車を洗っていた青年が、勝手に僕のバイクまで洗い始めたではないか？僕は洗ってほしいと頼んだ覚えはないし、サービスにしてもおかしすぎる。気になってバイクの傍に駆け寄ると、僕を見かけた青年が近づいてきて、僕に『洗車代として１DMよこせ』と言ってくるのだ
たとえ１DMとしてもそんな金は払えるはずがない。バイク自体もただ単に水をかけた程度で、ちっとも綺麗になっていないし…。しばらくすると、隣の車のオーナーもやって来た。驚いた事にその青年は、僕のバイクだけでなくその車も勝手に洗っていたのだ。オーナーと青年の激しいやり取りが続く。僕も残ったエスプレッソを飲み干して、それに便乗するような形で、適当に口論に参加した。ブルガリアでの良い思い出をこんな事で潰されたくなかったし、取りあえず通じなくても一言言っておきたい。まだまだヒートアップする様子を見計らって、さっさと国境ゲートへと向かうのであった。もちろん青年には一銭たりとも払わずに！
最後の最後で不快な気分になりかけたが、気を取り直して出国の手続きに入る。ブルガリアの出国手続きは、保険証明を兼ねたバイクの持込許可証を、パスポートと一緒に提出するだけ。あっけない程簡単に終了した。この出国手続きの終了は、すなわち東欧三ヶ国との別れも意味する。ハンガリー・ルーマニア・ブルガリア。個性際立つそれぞれの国でのさまざまな思い出が、僕の頭の中を駆け巡る。民主化革命という社会構造の大変化の中で、戸惑いながらも自分達の生きる道を探し続ける人々。ほんの一端なのだけど、そんな人々の生き様に触れる事ができたのは、僕にとっても貴重な体験であった。普段何気なく過ごしてきた民主主義という世界が、成立するまでにこれ程までの人々のパワーが必要とされるとは…。ここに生き、そして死んでいった人々のこうした活きるパワーが、未来においても決して無駄にならないように祈りたい。ありがとう
よし、次はギリシア。再び西欧の世界に戻るのだ！異世界から自分の世界に帰るかのように、意気揚々と行きたいところだが、ギリシア入国に際してちょっと厄介な問題が発生した。それは『保険』。バイクにかかる『グリーンカード』の件だ。ブルガリアでも自動車保険の提示を求められたが、なんやかんやで誤魔化し、正式な保険に加入せずに入国に成功した。他のヨーロッパ諸国でも提示を求められた事はないし、ここまで来たのだから今更加入するのもなあ。というわけで今回のギリシア入国の際も、ブルガリアと同じ手段を使って、日本で加入した自動車保険等を駆使して、強硬通過？の可能性へとチャレンジだ
しかし、さすがは西欧
そのチェックはとてつもなく厳しかった。僕の持っている保険では全くダメ。説明しても当然だがダメ。西欧最終国ギリシアにおいて、僕は保険未加入者とみなされてしまったのだ！
…どうしよう。ただ単に加入していないだけならばともかく、何か月も未加入のままで西欧・東欧併せて8か国を走り回って来たのだ。バレてなかったとはいえ、これでは罰金を命じられてもおかしくない。罰金に関しては日本ではあまり良い思い出のない（原付で速度違反のため2回も捕まってしまった。しかも1回目は初めての北海道ツーリンで…。まあ罰金なんて誰もいい思い出なんか持っていないだろうが。）僕は、今後訪れる国の入国事情や気象状況以上に不安になってきた。こうした罰金は、果たしていくらなのだろう？高かったら嫌だな。＄払いでもカード払いでもできるのかな？もう罰金を払うという事だけが頭の中を駆け巡っている時、ふと日本で調べてきたグリーンカード加入の一説、『場合によっては国境での加入も可能』を思い出した。もしかしたらこれは使えるかもしれない！ダメ元で入国審査官に聞いてみよう？と、ここでの加入の是非を尋ねてみると、審査官からあっさりとＯＫ！もちろん罰金は無し！笑顔でゲートすぐそばの建物で手続きができると教えてくれたのであった。多分、ブルガリア等の東欧諸国からの入国者に対応しているのであろう。何でも聞いてみるものだな。全て終わったらもう一度入国ゲートに来るようにと念を押され、早速手続きをすべく、指定された建物へ向かうのであった。
建物に入ってすぐの小さなオフィスにて、グリーンカードに加入したいと告げると、係のおじさんはすぐに手続き書類を持ってきてくれた。その加入手続きは日本の自賠責保険と同様、とても簡単である。パスポート・カルネ・国際登録書・国際免許証と一緒に、加入手続き書類にビザ申請程度の必要事項を記入して提出するだけだ。こんな調子だから、発行の方もスムーズにいくと思っていた。ところが10分たっても20分たっても、僕のカードはなかなか発行されてこない。書類の記入事項に何か不備があったのか？それとも今まで加入してこなかった事に対して何か検討しているのか？心配になって先程の係のおじさんに尋ねてみると書類はＯＫなのだが、ここでのオートバイに対しての発行はほとんど扱った事がないので、今その保険料の算出をしているとの事。このおじさんは手続きの時から僕にとても親切にしてくれ、待っている間もコーヒーを出してくれたり、すごく気を使ってくれた。おかげで僕は待っている間少しも不満や苛立ちを起こす事無く、気分良く過ごす事ができた。
約40分程待って、ようやく申請が受理された。支払いはギリシア通貨Dr（ドラグマ）のみで＄払いはできないとの事。すぐに両替所に向かい換金する。両替所は自動販売機のようなオートメーション式となっていて、ゲームセンターでメダルを変えるような感覚。さすが西欧と思わせる程に近代的だ。＄かDMの現金のみ対応で、当然トラベラーズチェックは不可。今後の事を考えて、西欧ではなるべく現金同士での両替は避けておきたい。今は必要最低限度に留めておいて、明日銀行にてトラベラーズチェックで、残りの両替をしよう。…そういえば今日もまた日曜日だったな。僕の国境越えは、なぜか休日が多い。いずれにしても明日に持ち越しだったんだ…。ちなみにレートについては、１Dr⇒0.44円といった所か。取りあえず今日の宿代なんかも含めて100＄分を両替しておこう。
両替から戻ると、おじさんは全ての書類を用意して待っていてくれた。気になる保険料は1か月有効分で16,600Dr（約7,300円）と、今まで東欧の金銭感覚を経験してきた身にとっては、少々痛い金額である。でも今まで保険に加入していなかったのだし、それまでの保険料に加え入国税だと考えれば安いものだと割り切ったら、スッと気分は楽になった。早速発行されたグリーンカードを見てみると、内容は全てギリシア文字で書かれているので、何が何やらさっぱり分からない。大丈夫だろうけど、本当に大丈夫かなあ…？
まあともかく発行されたのだ。係のおじさんにお礼を言って、今度こそ意気揚々と入国ゲートへと向かった。発行したてのグリーンカードと国際登録証・パスポートを提出し、入国印とバイク持込証明印を押してもらって全ての手続きが完了！13時30分、僕は晴れてギリシアへの入国を果たしたのであった。
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