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2021年07月08日00:07

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最近観た映画

 映画の感想、まずは書けたものから。

◇「海辺の彼女たち」

 これは、技能実習生として来日したベトナム人女性たちの姿をリアルに描いたドラマ。
 監督・脚本は、「僕の帰る場所」の藤元明緒。

 ベトナムから技能実習生と言う名目での出稼ぎ労働にやって来た、アン、ニュー、フォンの3人。彼女らは実習生として3ヶ月間工場で働いていたが、休みもない過酷な職場に耐えかねて脱走。ベトナム人相手に仕事を斡旋するブローカーを頼りに、雪深い漁村に辿り着く。
 今度の勤め先は、不法就労者の彼女らを黙認して働かせてはいるものの、条件はまずまずで、彼女らは故郷にいる家族のために懸命に働き始める。
 しかし、働き始めた矢先にフォンが倒れてしまう。アンとニューは満足に仕事ができないフォンを心配して病院に連れていくが、就労者番号のない彼女らを診察してはくれない。
 フォンは体調不良が妊娠しているせいだと知り、偽造の就労者カードを手に入れて……

 これは力作だろう。綿密なリサーチに基づく、異国で労働搾取される若い女性の苦難を描き出している。
 出演する女優はヴェトナムでキャスティングされ、役柄を与えられて日本にやって来て、本名のままで、異国の地で生きる同胞を演じている――と言うよりも、これは殆ど再現ドキュメンタリーのようなものだ。
 
 映画は3人の女性に密着、物語も彼女らの見える範囲に留まる小さなものだ。中盤以降は、その中でも妊娠によって苦境に立たされるフォンの物語になって行く……願わぬ妊娠だが、産婦人科で超音波映像で胎児の姿を見、その心音を聞いたフォンは思わず涙を流す。過酷な出稼ぎ生活の中、心を殺して泣く事のなかったフォンが見せる涙――この命を、かけがえのないものと感じたフォンが、母になった瞬間だ。しかし、母となったフォンが、向き合う運命は残酷なもの。映画の最後、フォンの決断には胸が張り裂けるような想いにさせられる。
 これは、そんなフォンらの姿を通し、弱き者、虐げられる者の物語を紡ぐもので、これは決して「ミナリ」や「ノマドランド」にも劣らないものだと言える。

 力があり、見応えのある映画だが、弱点はその物語の小ささだろう。
 フォンら、女性たちに過酷な労働を強いる根本にある、日本社会の閉鎖性や歪さを物語る事がなく、社会派としてはいささか弱さがある――これは、「社会」ではなく、「個人」しか描いていない、とも言えるのではないだろうか?


◇「ベル・エポックでもう一度」 

 これは、フランスの名優ダニエル・オートゥイユとファニー・アルダン共演のロマンティック・コメディ。
 監督・脚本・音楽は「タイピスト!」などに出演し、本作が監督第2作となるニコラ・ブドス。 

 元売れっ子イラストレーターのヴィクトルは、デジタル化について行けずに仕事を失い、妻のマリアンヌからも見放されて家を追い出されてしまう。そんなヴィクトルを元気づけようと、息子のマクシムは、友人のアントワーヌが始めた、生涯忘れられない“あの日”を再体験する<タイムトラベルサービス>をプレゼントする。
 ヴィクトルが指定したのは“運命の女性”と出会った1974年のリヨンのカフェ「ベル・エポック」。広大な撮影セットで俳優たちが演じて見せる素晴らしい時間――そこでヴィクトルは“運命の女性”、マリアンヌに出会って……

 タイムスリップ、または現在の記憶を持ったままで過去の自分に生まれ直して、人生を再体験するファンタジーは、日本のマンガやドラマでは数多ある、お馴染みとも言える展開。だが、そんな甘口のファンタジー設定をよしとせず、撮影所を使った個人向けリアリティショー・ビジネスに置き換えた発想がいい。
 それは、まるでテーマパークか体感型ゲームのようなものだから、そこで過ごす“輝かしい”時間と、リアルな人生の“色あせた”時間を行き来する事になり、物語は人生の「やり直し」ではなく、「建て直し」を描いて行くのだ。
 ただ、この映画、このアイデアが秀逸ではあるものの、設定がいささか非現実的だろう。顧客の望む世界を(例えセットであったとしても)構築し、俳優で再現して、と言うのは正に時代物の映画を作ると同様であり、その費用は個人で負担出来るものではないだろう。
 そして、その世界を再現する側の俳優やスタッフにもドラマを用意しているだけに、中盤以降ドラマが発散した感があり、着地点がぼやけてしまった感がある。
 むしろ、1974年の世界は全て記憶を元にした電脳世界の映像とし、ドラマは現実世界のヴィクトルと周りの人々だけにした方がよかったのではないかなぁ……

 過去を振り返って見れば、そこから現在まで積み重ねて来たものがあり、それらを含めて実りある人生なのだ、と言うテーマはいいし、物語の軸となるアイデアは秀逸で、キャストも豪華……見所は充分にあるだけに、中盤以降のまとまりのなさに加え、とってつけたような、いささか前時代的なハッピーエンドも残念だった。


◇ 「グリード ファストファッション帝国の真実」

 これは、ファストファッション界のカリスマ経営者と、その周辺人物の織り成す悲喜劇を描く、マイケル・ウィンターボトムのブラックエンターテインメント。

 ギリシャ・ミコノス島。ファストファッションのブランド経営で財を成したリチャード・マクリディの誕生日を祝うため、リチャードは家族を集め、豪華なパーティーの準備が進めて行く。
 脱税疑惑や縫製工場の労働問題を追及されているリチャードは、ド派手にショーアップされたこのイベントでかつての威光を取り戻そうと目論むのだが、湯水のように金を使い、傲慢に振る舞うリチャードと、周囲の人々の間には不協和音が生じていて……

 マイケル・ウィンターボトム監督作品にはこれまであまり縁がなく、記憶にあるのは「天使が消えた街」くらい。そんな状態なので映画は特に先入観もなく観た。
 映画は、誕生パーティーの準備から当日までの数日間を主となる時間軸にしつつ、回想シーンを挿入して、“グリード(強欲)”と呼ばれる男の人生を描いて行く。いささか込み入った構成だし、登場人物も多いのだが、何れも極端なキャラクターを与えられているせいもあって、混乱するような事はないのは巧さと言っていいように思う。

 主人公のリチャードの強欲・豪腕ぶりや、その周辺に群がる虚飾まみれの成り上がり富裕層の滑稽さは、ブラックコメディとしては期待通りの内容で、そんな彼らが移民相手に行う偽善には「そこまで描くか」と思わされる。だが、ファストファッション業界の抱える途上国からの労働搾取や低賃金・長時間労働など、社会問題については、通り一遍に触れた感じで、タイトルから連想されるような「業界の隠された真実」と言う程のインパクトはなかった。この辺りは、もっと物語に絡めてもよかったように思う。実際、それこそが、クライマックスとなる惨劇の引き金でもあったのだから……
 そんなテーマに絡んだ内容だけでなく、ミコノス島と言う舞台、作られた闘技場と言う設定などにも、盛り込まれたものはあれこれ多そうなのに、それを映画として活かし切れず、ただ、道を誤った男の頂点からの転落を描いて終わってしまった感があるのも勿体ない感じ。


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