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2020年03月28日14:38

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獣医の立場から解説します。

■飼い主から猫にコロナ感染 ベルギーで初確認
(朝日新聞デジタル - 03月28日 06:51)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=168&from=diary&id=6025369

記事も情報不十分,記事にぶら下がっているコメントは,憶測,非科学,陰謀論,感情論等が溢れていて,どれ一つとしてまともな推論がありません。
「専門家は当てにならない」と無根拠で何が目的なのか分からない誹謗中傷や揶揄が飛び交う,このSNS上ではありますが,知りたい人のために,あえて解説します。
読者のみなさまは,こういう,きちんとお伝えするための解説への身勝手な誹謗中傷書き込みがあったとしても,それはスルーしてください。正しい知識の伝達を妨害する行為に屈してはいけません。

まず,本当にCOVID-19が猫に感染したのか?
出ている情報は,「飼い主の発症の1週間後に,飼い猫にそれっぽい症状が出た」と言う事実だけです。猫からCOVIDー19が検出されたとの情報はありません。

推測される可能性はいくつかありますが,まず疑うのは次の2つでしょう。
1)本当にCOVID-19に感染した?
2)別のコロナウイルス,別の感染症が原因?

1)の場合,肯定する根拠としては,感染した人との接触,発症タイミング,症状などですが,コロナウイルスは感染相手に馴化したウイルス株による発症がほとんどで,各種動物に対し,それぞれに馴化したコロナウイルスが存在することが知られています。感染相手に馴化しているウイルス株でないと,そう簡単には発症しません。SARSもMERSもCOVID-19も,元々は他の動物を宿主にしていたものが,人への感染性を獲得したものと考えられています。SARSより前から知られている人コロナウイルスはかなり人との「付き合い」の歴史が長く,居あでは多くの人が抗体を持つ,「普通の風邪」の原因の1つとなっています。SARSやMARSを含め,異種の宿主への馴化の過程としては,まず,高濃度の曝露や,たまたま形の近いレセプターに結合して細部侵入の機会を得るなどにより,馴化が始まることが知られていますが,多くは馴化せずに終わります。新しい宿主に馴化するには,ウイルスが細胞に侵入するだけでなく,そこで増えて外に出ること,新たに感染した宿主から,同じ種類の人や動物に二次感染がおこるかどうか,と言ったハードルもあります。1997年にH5系統の鳥インフルエンザの人感染例が初めて報告されましたが,そのウイルス株が人→人感染を起こして蔓延したという報告はまだ出ていません(しかもインフルエンザはコロナよりも変異が早いにもかかわらず)。

また,COVID-19は,明らかな症状が出る前からウイルスを排出しているとの報告もありますが,だとすると,この猫の発症のタイミングについても疑問を持つ人が居てもおかしくない状況です。さらに,コロナは一般的には消化器症状と呼吸器症状を主徴とする種類が多いのですがCVID-19は消化器症状がはっきりしないのが特徴的です。その特徴が猫にも当てはまるかどうかは分かりませんが,この症状はどちらかと言うと,既に猫に馴化している,別の「猫コロナウイルス」あるいは,この症状を出す別の病原体によるものと解釈するほうが,可能性としては高いと思われます。つまり2)の可能性のほうが明らかに高いのではないか,と言うことになります。

また,香港での犬の感染例については,単に高濃度の抗原に曝露し,その抗体ができ経ち,体内にウイルスの遺伝子が残っていたのを検出した,と考えるのが妥当です。2004年,2005年に日本でも高病原性鳥インフルエンザの抗体陽性となった人(養鶏場の作業者)が居ましたが,いずれも,ウイルスの曝露により,それを抗原タンパクとして認識した免疫系が抗体を作ったものと考えられ(いわば,不活化ワクチンを接種したのと同じような状態),感染してウイルスが増えたと言う証拠は見つかっていません。

もし,万が一,「異種の宿主に無理矢理感染した」と言う状況であったとしたら,さらに確率は低くなりますが,異種動物へのウイルスの馴化が進む可能性は否定しきれません。その場合,「新型猫コロナウイルス」へと変異してゆく可能性はありますが,現時点で,この猫から他の猫にうつったと言う情報はありませんので,まだ否定的に考えていても大丈夫そうです。

それよりも,もっと重要な問題。

それは,ペットが[物理的に]COVID-19を媒介するリスク。
COVID-19は体液等の飛沫などとともに環境中に出ても,最大,数日は感染力を維持し,感染源になります。感染性のあるウイルスが付着した器物からの感染も問題になっていますが,飼い主からの濃厚接触を受けたペットが,その体表にウイルスを付着させ,他の人への感染源になることは,じゅうぶんに想定されます。犬や猫をドアノブや手すりを消毒するみたいに,次亜塩素酸などの強力な消毒薬でジャブジャブと消毒するわけにはゆきません。動物にとっても安全な方法で消毒する必要があります。
これはこれで,大きな問題です。もし,感染して入院してしまった人のペットを預かることになったら,どうなるのか,想像してみてください。

さらに重要な問題として,断片的な情報を喧伝したり,自分にとって都合の良い解釈を加えて情報発信したり,自分の気に入らないことをしている誰かを批判したり(特に感染症対策の現場に近いところを批判するのは混乱の元です),社会混乱を招きやすい書き込みは,軽い気持ちで行わないように,重ね重ね,お願いしたいと思います。もし,それが原因で感染症対策が滞ったり,トイレットペーパーの枯渇した事件のような社会混乱を引き起こしたら,結局は自分も困るし,自分も危険に晒されることになります。

くれぐれも慎重にお願いします。


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