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2020年10月18日07:46

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短気連載ブログ小説 淋しい生き物たち−ねぇおじーちゃん 第7話

 初めての中学生活、ふたつの小学校から来た子どもたちによって編成された初めてのクラス、最初はみんな緊張もし、手探りをしながらの日々を過ごす。けれども、やがて同級生全員の名前を自然に憶え、ひと月もたたない間に、クラスの雰囲気が醸し出されてきて、それぞれがその空気になじんでいく。ふたつの出身校の垣根も薄れていく。
 圭子さんはトップクラスとは言えなかったけれど成績は上位で、ぼくはと言えば、まぁ、中の上の下という程度。そして圭子さんと同じかそれ以上に、全く目立たなくはないけれどそんなに目立つタイプでもなかった。どちらかと言えば平凡な中学生男子のカテゴリーだったと思う。
それでも、自己顕示欲がないわけじゃない。ほのかなものを感じている圭子さんの気を惹きたいという気持ちは十分あった。
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 当時、あるフォークグループの曲が流行っていて、その曲の2番の冒頭の歌詞が「深い」だった。ぼくはよく圭子さんのそばでいきなり「ふかいー!」と呼び、彼女が「はい?」と答えたら「♪闇を超えてあなたはー」とその続きの歌詞を歌うという、なんとも稚拙ないたずらをよくやった。
 もう半世紀を軽く超える前の話だ。今とは時代が違う。男子は女子を姓で呼び捨てにし、女子は男子を君づけで呼ぶのが当然、そんな時代だった。
 圭子さんはぼくがそんな下らないモーションをかける度に律義に「はい」と振り向き、ぼくが続きの歌詞を歌う度に、「もう、また?」という風に少し眉を寄せながらやさしくぼくをにらんだ。

 彼女の誕生日が3月3日で、ぼくが3月2日、この1日違いという偶然もぼくにはうれしいものだった。そしてクラスの中では彼女が一番の「年下」だったものだから、ぼくは圭子さんのことをおどけて妹と呼び、圭子さんもそれに乗ってくれてぼくのことを「お兄ちゃん」と呼んだりもした。もちろん、本当は兄妹なんかになりたいわけではなかったのだけど。
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