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2020年09月19日09:09

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連続ブログ小説 淋しい生き物たち−少女の欲しかった日 第154話

「けど、けどさ、正直、悔しいよ。悲しいよ。玻璃がぼくの・・・・」
 彼の堤防が決壊しそうになる。彼は堤防を守るために、言葉を差し替えて続ける。
「玻璃がぼくのそばにずっといてくれたら、ハリウッドデビューさせて大儲けしようと思ってたのに。ほら硫黄島のおばあもハリちゃんなら左うちわで贅沢させてくれるって言ってたじゃない」
 娘は父の思いを読んで陽気に言う。
「うーん、ハリウッドは無理かも。あっちはもっと肉感的じゃないとダメなんじゃない?」「そんなことないさ。東洋の神秘って売り出すんだ。玻璃の身体だって、ん? 玻璃はこの世界にいて成長するのかな?」
「わからないなぁ。まだ40日ほどだから、特に変化は感じてない。ずっといたらどうなったんだろうな? でもさ、お父さん、これははっきり言える。私、この40日で、人間としてはいーっぱい成長した。全部お父さんのおかげだよ。私、この世界に来てよかった。ホントによかった。」
 娘が先に崩れた。まだゼロ歳なのだ。大きな目から溢れだす涙を止めることができない。父は唇を噛みしめて首を背ける。娘の頭を胸に抱き寄せ、これ以上愛おしいものはないというようにやさしく娘の髪を撫でる。これ以上愛おしいものはない。よしよしいい子だ、いい子だからもう泣くな。
 
「お父さん、私のショーを見てくれる?」
 震える声で娘が言い、彼の腕を擦り抜けて大きな窓の前に進む。窓はレースのカーテンだけに覆われていたが、玻璃は分厚い遮光カーテンも閉じる。それから玻璃は父に身体を向け、まっすぐに立った。父は娘を無言で見つめる。
 玻璃は両手を右の腰に添え、制服のスカートのホックを外した。
「ちょ、ちょっと何してるんだ!」
 ジッパーを下ろしてスカートを落とした。
「やめろ、玻璃!」
 父は目を逸らす。一瞬、淡い水色が残像になる。
          フォト
「お父さん、見てほしい」
「いやだ。見ない。見たくない」
「お願い、見てお父さん。
 この世の中に、父親に一度も裸を見られたことのない女の子なんかいる? いたとしてもそれはとっても不幸な女の子だと思う。私はそんな不幸な女の子で消えてしまいたくないの。だからお願い、私を見て、お父さん!」
 父はゆっくりと身体を娘に向けた。
 娘はネクタイを外し、セーラー服を脱ぎ、シャツを脱ぎ、下着を脱いだ。
「お父さん、これが私。まだゼロ歳の私だよ」
 ゼロ歳の娘の裸体は涙に歪んだ。けれどもそれは16歳の裸体だ。
 父は見た。まっすぐに娘の裸を見た。16歳の裸体など見たことはなかったから、他と比べようもなかったけれど、父はきれいだと思った。世界で一番きれいだと思った。
 玻璃の美しい顔が涙を流しながら真っ赤に染まっている。それは胸の辺りまで拡がっていた。
「きれいだ玻璃。世界で一番きれいだ」
 父は渾身の瞳で娘を見た。そしてそっと囁く。
「もう、満足したかい?」
 頷く娘の裸体を、父は自分の身体で隠す。
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