それから父は娘と別れ、ひとりでホテルに入った。靴も脱がずにベッドに寝転がる。部屋は過不足なく整っていた。ここが玻璃との最後の場所になる。もうそれはしないでおこうと思っていたが、やはり彼は頭を抱えてしまう。
ドアにノックの音がする。ドアフォンがあるのにと父は思う。どうやら娘はノックの方がお好みのようだ。
玻璃が滑り込んでくる。懐かしい光景だと彼は思う。玻璃は彼にはもっと懐かしく思える、セーラー服を着ていた。
「何だかすごく懐かしいね、制服姿。玻璃にはやっぱりそれが似合うよ」
十分に設けられたスペースのソファに、ふたりは並んで座っていた。娘が微笑んだ。
「さてと、あんまり時計は見たくないけど、時間は限られてる。何しようか?」
父が訊き、娘がパッと顔を輝かせる。
「お父さんの肩もんであげる!」
「お願いしよう。この娘といたら気苦労が絶えなくて肩が凝る」
娘は父の肩をもみながら唇を噛みしめて堪える。父は娘に肩をもまれながら目をしばたたいて堪える。
「あーあ、やっぱり娘に揉んでもらうのって最高だね。気持ちいいよー」
吹き払って陽気に言う。
「お客さんずいぶん凝ってますねぇ」と娘も乗る。
けれどもそこで音声は途切れてしまう。
・・・・・・・・・・・・。
「お父さん」
「何? 何でもないって言うのかい?」
「ううん。ちゃんと言うよ。
お父さんの携帯さ、前に借りたけど、パスコード、私の命日の日付だったよね。あれ、すごくうれしかった」
「お母さんと約束したんだ。一生こ
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