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2020年09月15日09:03

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連続ブログ小説 淋しい生き物たち−少女の欲しかった日 第150話

「終わりって、どうなる? いつ終わる?」
 彼の語調が荒れた。玻璃の語調は静かなままだ。
「硫黄島で消えたときみたいに、強制送還されるの。つまり消えてしまう」
「いつだよ!」
「オーダキリカ次第っていうか、私にもよくわからないけど、1日か2日の猶予かな。シンデレラじゃないけど今夜の12時までは大丈夫だと思う」
「いつ戻ってくるんだ!」?
 ギラついた父に娘はやはり静かに宣告する。
「もう戻れない。そういう契約だから」
 ・・・・・・・・・・・・。
「そんなバカな話ないだろ! そんなこと俺が許さない。
 え! でもちょっと待てよ。最初の段階で、滝の前で、玻璃は名前を名乗ったじゃないか。ぼくが聞き間違えなかったらすぐに気がついてたかもしれないだろ! 玻璃はあのときもう終わってもいいって思ってたのか?!」
 父の波涛のような口調を娘が制した。
「あのときは別の形の契約だったでしょ。自分の真実を明かすことは構わないけどその替わり自由にお父さんのそばにいることはできなかった」
 父は大きく開いた口を手で覆った。その手で乱暴に唇や頬を掻きむしる。
「それをずっとそばにいることと引き換えに自分を明かすことはできないっていう契約に変えた。だからしょうがないんだよ。私の意志でそういう契約をしちゃったんだから。お父さんのそばにずっといたくて」
「なのに今日の12時に消えるっていうのか!」
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「もしかしたら明日かもしれない。あさってくらいまでいられるのかもしれない。でもさ、私お父さんの目の前で消えたくない! 考えて。例えば明日、ここでこんな風にお父さんと海を見てて、突然私が消えちゃっていい? 私はそんなのイヤだ。突然断ち切られるくらいなら、ちゃんと自分の意志でちゃんとお別れを言ってから消えたい!」
 彼は完全に取り乱していた。
「じゃ、俺が直接オーダキリカだか何だか知らないけど、そいつらに抗議してやる。こんな理不尽なこと、俺は赦さない!」
「無理だよ。何をどうしたって人間の手はあっちの世界には及ばないの」
 そんなことはわかっている。それでも彼には激情をぶつけるべき何かが必要だった。
「じゃ、どうして? どうして玻璃はぼくにホントの親子だなんて告白したんだ? そんなことしなかったらずっと一緒にいられたんだろ? 玻璃だってぼくと一緒にいたかったんじゃないのか? どうしてそんなことしたんだよ! 私の行き先はお父さんが決めるって言ってたじゃないか。何でそんなこと勝手に決めたんだ!
 砂粒だか比喩だか知らないけど、16年もかかってぼくに会いに来たんだろ! それなのに何でそんなことしたんだよ!」
「ごめんなさい。お父さんが怒るの当たり前だ。お父さんはただ、ひとりで帰る日の決まっていない旅をしたかっただけなのに、私が突然そこに割り込んで、私の勝手な思いでずっとお父さんのこと振り回してしまった。ごめんなさい。お父さん、ホントにごめんなさい。
 私も悩んだよ。お父さんと別れたくないもん。鳩間で姪っ子になって、それが最初はイヤだった。でも、お父さんも言ったみたいに、親子だって叔父姪だっておんなじことだって思い直した。でもそのことから私は、ずいぶん時間はかかったけど、私が本当にほしかったものに気がついたんだ。私はお父さんと本当の親子になりたかったんだって」
「それがたった1日でもか?」

【作中に登場する人物、地名、団体等にモデルはありますが、実在のものとは一切無関係です。】
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