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2020年09月14日09:17

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連続ブログ小説 淋しい生き物たち−少女の欲しかった日 第149話

 石垣島で船を降り、
「さて何がしたいかな? ここじゃできることも限られてるけど」と父は訊いた。
「できたらあんまり人がいないところへ行きたい」と娘は答えた。
「それなら打ってつけのスポットがあるよ。ぼくのお気に入りの場所でもあるんだ。ほらあそこに青い大きな橋が見えるよね」
 そのアーチ形の大きなサザンゲートブリッジを渡れば広大な園地があった。すぐそこに海を望む芝生もあり、遊具も小さな砂浜も突堤も林もある。そこでは行政にきちんと管理された野良猫たちが自由に暮らしている。そして何よりそこには、都会暮らしの彼にとっては不可解なことに、いつもほとんど人がいなかった。
 親子で旅の最後のひとときをのんびり過ごすなら、そこ以上の場所はない。父は娘を連れて橋を渡る。
 けれども長閑なその場所で、父が娘と旅の最後の1日を長閑に過ごすことはできなかった。

「ここ気持ちいいでしょ?」
 確かに気持ちのいい、目の前に海の見える芝の上に座って父は言う。娘は儀礼的に賛意を示しただけで、表情を硬くした。そして言う。
「お父さんに笑顔で島を出てもらいたかったから、言わなかったことがあるの。別の意味で私もお父さんも泣いちゃったけど」
             フォト
「ということはあんまりいいお知らせじゃないんだね?」
 父も表情を硬くして訊いた。それには直接の返事をせず、娘は語り始める。
「あのね、私、お父さんとさよならしなくちゃいけないことになった」
 あまりよくないどころではない、あまりにも唐突で衝撃的な話だった。
 娘は海だけを見つめながら続ける。
「また比喩の話だけど、私が契約を変えたっていう話をしたよね」
「ああ、それでオーダキリカに邪魔されずにずっと一緒にいられるようになったって」
 父は娘の不吉な口調に脅えながら答えた。
「その契約ってね、一緒にいたい人、お父さんね、お父さんのそばにずっと無制限にいられる代わりに、お父さんと私との関係を明らかにしてはいけないっていう契約だったんだ」
 娘の言葉がうまく頭に入ってこない。
「私はお父さんの本当の娘。そのことを明かさない限りは一緒にいていいっていう契約。明かしてしまったらそれで終わりっていう」
 混乱した父の頭の中で少しずつ恐ろしい事象が形を取り始めた。
「それって、玻璃がぼくの本当の娘だってことをぼくが知ってしまったから、玻璃がそうぼくに教えたから、その応報でぼくたちは終わらなければならないっていうことか? ハリを失ってしまうということなのか? ぼくが玻璃を実の娘だと知らないままだったらずっと一緒にいられたのに」
 人の話をまとめる禄でもない癖が久々に出てしまった。
「そういうこと」

【作中に登場する人物、地名、団体等にモデルはありますが、実在のものとは一切無関係です。】
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