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2020年06月07日12:31

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連続ブログ小説 淋しい生き物たち−少女の欲しかった日 第51話

「そうかもしれない。そうじゃないかもしれない。ぼくたちはハナからただの通りすがりだからね。でも、どっちにしてもそれはハリが気にすることじゃないよ。女子高齢者が本気出したら女子高生に穴なんか開けさせないだけの力量を持ってるのかもしれないから、ハリに穴を開けさせたのもおばあの選択だったかもしれない。
 それにね、ぼくは思ってる。人間て、人間である限り誰もが淋しい生き物なんだって」
 ハリはひとしきり黙ってから呟いた。
「淋しい生き物・・・・うーん、わからないよ」
「それでいいさ」
 ハリは身体を起こし、何をするのかと思ったら彼の布団に入って来る。彼が頭の後ろで組んでいた腕を引っ張り、それを腕枕にして彼の胸に頭を預ける。
「お父さん」
「何?」
「ううん、何でもない」
 ハリは静かに目を閉じる。彼はおずおずとハリの髪に口づけをする。眠りについたのか、もうクジャクは鳴かない。           
          フォト   

 今日も素晴らしく晴れた。朝一で案内所へ行く。入り口の前であのふくよかな男性が自転車のセッティングをしながら「お待ちしてました」と大きな声でふたりを迎えた。今日は東温泉と同じ海辺の露天風呂である坂本温泉に行ってみるつもりだが、昨年の大きな台風で浴槽に大量に岩が打ち上げられてしまい、岩の隙間で温泉に浸かることができるかどうかという状態だと、昨日の女性スタッフも言っていた。
「危険はないと思いますけど、お湯がまだ濁ってるかもしれません」
「案内図を見たらもうひとつ温泉がありますよね」
「ああ、穴の浜ですね」
 男性は地図を指で示しながら言う。
「ここは海岸の岩盤の上を温泉が流れてるんですけど、獣道みたいなところを通らなければ行けないし、島の人もめったに行かないんで道も荒れてます。観光の方にはご案内してません」
 行くなということらしかった。
「じゃ、とりあえず元気のあるうちに恋人岬から攻めてみることにしますね。
 あっ、そうだ、全然関係ない話ですけど・・・・」
 三島村の民宿に問い合わせや予約の電話を入れているときに気づいたのだが、通話の履歴を見るとかけたりかかってきたりした民宿の所在地が全て「東京都小笠原村」になっていた。硫黄島も竹島も黒島も。不思議な事象だったので、島に着いたら尋ねてみようと思っていたのだった。 
 男性スタッフは
「あぁ、はいはい、あれね。お客さん、A社のスマホ使ってるでしょ?」と言い当ててから事情を説明した。やはり硫黄島のつながりがあったのかどうか、スマホのOS会社が最初に三島村の番号を全部まとめて小笠原村と登録してしまったらしい。失礼な話である。G社は抗議するとすぐに修正してくれたが、A社には放置されたままだと言う。
「島の若い者の間では俺は東京都民だっていうのが定番ギャグになってますよ」とふくよかな男性は笑った。おかげで謎は解けたが、この中央集権の国の中で僻地・離島がどれほどいいかげんな扱いを受けているか、「東京都の薩摩硫黄島」は正にその証明だと、彼は苦々しく思った。

【作中に登場する人物、地名、団体等にモデルはありますが、実在のものとは一切無関係です。】
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