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2020年05月25日09:24

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連続ブログ小説 淋しい生き物たち−少女の欲しかった日 第38話

 7時に目が覚めた。やはりハリは寝入ったときの形のままで彼の腕の中に納まっていた。彼が慎重に腕を抜こうとしたが、ハリは目を覚ました。
「ごめん、起こしたね」
「ううん。よく寝た。食欲はないけど睡眠欲は旺盛なんだ」
 三大欲求からの連想で思わず性欲はどうなのかという思いが浮かび、慌てて掻き消した。大体16歳の女性が一般的にどの程度の性的欲求を持っているかなど彼には想像することもできない。しかしハリはあっさりと言った。
「性欲も全然ないよ。JKっていろんなイメージ持たれてるけど、私の場合、女子高生じゃなくて女子高齢者みたいなもんだよ。これから先はどうなるのかわからないけどね」
 彼はJKネタに笑ったが、もしかしたらティーンズの間では定番ネタなのかもしれないと思った。ハリには多分、月経もないような気がした。
「ねぇ、それより電話してみようよ」
「そうだね。決着つけよう」
 電話をかけると時間外だからだろう、自動音声が応答した。
「本日運航予定のフェリーみしまは」
その言い回しが彼を緊張させる。
「片道で出航します」
           フォト   
 彼が携帯に番号を打ち込むとき、ちゃっかり横からスピーカーボタンを押したくせに、彼の顔と携帯の間に耳を押し込んでいたハリは満面の笑みで彼を見る。やっぱりハリに性欲は似合わないと彼は思う。
「ほらねって言うつもりでしょ」
 彼が言うと、「ううん、違うよ。よかった!」とハリは彼に抱き着いた。彼が硫黄島に行けることを喜んでいる、ハリの素直な言葉だということが彼にはわかった。けれども次の瞬間に照れ隠しのようにハリがつけ加える。
「だってあれだけ何度も私が連れて行くって言ったのに、欠航だったりしたら目も当てられないでしょ。面目が潰れなくてよかったの」
 素直じゃなかった。
「ありがとう。きっとハリのおかげだよ」と彼は素直に礼を言った。

 フェリーみしまは鹿児島港を出て竹島、硫黄島、黒島の大里港を経由し、同じ黒島を回り込んで片泊港が終着となる。翌日、片泊から鹿児島までを逆に辿って帰ってくるのだが、片道というのは片泊まで行った当日にそこから鹿児島まで直帰する便のことを言う。この片道便と往復便が曜日によって組み合わされているのだが、欠航のあとは順延になるらしいので、鹿児島に戻る予定のあさってがどちらの便になっているかよくわからなかった。当日が片道便だった場合、鹿児島に戻ってくることはできないのだ。
 どちらにしてもまた欠航ということになれば帰ってくることはできないのだから、帰れなければそれ以後の予定を調整するしかない。全ては所詮風任せ、波任せだが、なるようにしかならないのだし、多分なんとかなるのだ。沖縄人が「なんくるないさぁ」と言う通り。

【作中に登場する人物、地名、団体等にモデルはありますが、実在のものとは一切無関係です。】

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