もう何十年も前に、
ぼくは依頼されてある機関誌に、
「サザエさんは俗悪番組」という記事を書いた。
一般公開されている結構な発行部数の機関誌だった。
サザエさんは夫を「マスオさん」と呼ぶが、
マスオさんは「サザエ」と呼び捨てにする。
幾分ずっこけ気味とは言え、
波平さんが家父長として君臨している。
そういうのがあるべき、
ほほえましき家庭の風景として描かれていることには害がある。
そんな論旨である。
ま、近頃なら「炎上」してるとこかもしれないけど、
当時はそんな匿名発信装置がなかったし、
今よりもっと家父長制や男尊女卑傾向は強かったはずだけど、
何より時代の懐が広かったように思う。
ぼくは別に指弾されることもなく、
肯定的な反応もなく、
編集部から聞いた話では、
「国民的番組にあんなこと書くっておもしろい人ですね」
という感想が寄せられたと聞いただけだった。
時を経て、
未だに「サザエさん」は国民的番組かどうかは別にして、
つつがなく放映されている。
一方、ぼくの書いた記事など覚えている人もいないだろう。
今、もう一度、言いましょう。
あの番組がいまだに放映されていることに問題はないですか?
見事にオブラートに包まれて、
それは確かにお見事と言うほかないんだけど、
あれがいまだに普通に受け入れられているってこと、
長寿番組としてたたえられていること、
それこそがこの国の現状の、
ひとつの表象なんじゃないですか?
女性の地位とか女性議員の数とかで、
特殊な社会を除けばほとんどびりっけつに近い、
この国の。
え?
そんなことどっちでもいいですか?
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