2020年の12月24日は木曜日。
退社後、いつもの通り最寄駅から錦糸町で乗り換え、総武線で自宅方面へ向かおうとする。コロナ禍で常より人通りが少なめとは言え、それなりに人出はあり、ケーキを持つ姿もちらほら。まあ、クリスマスイヴと言えば、クリスマスイヴなんだよな。
サンタさんを待つ子供でも無く、帰りを待つ妻や子供がいるわけでも無く、逢瀬の約束も無い。中年男性が一人。
そのまま総武線に乗って帰ろうかとも思ったが、そういえば晩飯はまだだ。錦糸町で食って帰ろうじゃないか。ラーメンか、カレーか、牛丼か。ちょっと奮発して、回転ずしだってよいかもしれん。お、ほんの少し、クリスマス感が出てきたぞ。
決めかねて駅周辺をうろうろしていると、洋食屋が見える。そういえば1〜2度来たことがあったっけ。エビフライ、グラタン、ビーフシチュー、チキンライス、カキフライ、クリームコロッケ、脳内に洋食が明滅する。クリスマスとはちょっと違うが、いいじゃないか。そしてシラツユの扉を開けた。
店内、それほど混んでおらず、かといって人がいなくて寂しいというほどでもなく、ちょうどよい。ビールと枝豆で軽くひっかけ、さて、何にしますかね。写真入りのメニューに心躍らせることしばし。よし、今年のクリスマスディナーはこれだ。
オムライス。
メニュー写真で見る限り、フワトロ系ではなく、きちんとくるまれたオーセンティックなタイプ。もちろんデミグラスソースなどではなく、ケチャップだ。シラツユで食べるのは初めて。読みかけの小説をだらだらとめくりながら、枝豆とビールをたしなむ。
そうこうしてしばらくすると、ふと、いい匂い。しかもどんどん近づいてくる。小説から目を上げる。間違いない。白い皿の乗った銀のお盆がこちらに向かっている。そうだ、バターと玉子のほうわりとした香り。オムライスの皿がテーブルに鎮座したのである。
黄色い紡錘形に赤いケチャップ。
匙を差し込み食らう。さっき鼻先をかすめていたほうわりした香りが口の中に広がる。玉子とバターって、こんなに優しい風味だったっけ。それを引き絞めるケチャップの酸味。玉子にくるまれたチキンライスには玉ネギやらピーマンやらハムやらがゴロゴロしていて食いでがある。美味い。
瞬く間に、オムライスは胃袋に消えていく。
食い終わり、満腹になり、なんだか、玉子にくるまれて幸せな気分になったかのような錯覚に囚われる。それは確かに、幸せの欠片であることに間違いない。一皿のオムライスが、2020年のクリスマスを、ほんの少し、彩ってくれたのだろうか。
いろいろあるけど、自分からは、もうしばらくは死なずにいようじゃないか。
食後のコーヒーで正気を戻し、仕事納めの翌日のために家路についた、あるクリスマスイヴの夜なのであった。
ではまた。
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