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2020年01月15日22:11

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2019年ベスト・アルバム:ワールド・ミュージック

今回は2019年ベスト・アルバム:ワールド・ミュージックということで。

ワールド・ミュージックのボーダーラインがちょっと曖昧なので、例えば「これ、ロックじゃね」なんてのもあるのだけれど、そこはまぁあくまでも僕個人の主観で「えい! やぁ!」と振り分けた。

1位:Songs of Our Native Daughters/Our Native Daughters

それぞれにキャリアを持つ実力派の黒人女性4名からなるグループ。
黒人に対する人種差別、女性に対する女性軽視、といったものがテーマとして歌われている。
このアルバムを紹介した時の日記にも書いたのだけれど、僕自身かなりショックを受けた箇所がある。
ちょっと長くなるけれど再度掲載しておく。

*CDの解説に載せられていたエピソードより。
”私達がセント・チャールズを発ってから間もなくして、赤ん坊の機嫌が悪くなり始めた。それからは、ほぼ一日中泣き通しだったんだ。ウォーカーさんは赤ん坊の母親に泣くのをやめさせろと幾度か文句を言った。お前が出来なきゃ俺が泣き止まらせてやる、とも言っていたんだ。母親は何かと泣き止ませようとしていたけど、なかなか上手くいかなかった。その晩、俺達はウォーカーさんの知り合いの家に一泊して、朝になり、そろそろ出発しようかという時になったら、赤ん坊がまたしても泣き始めたんだ。ウォーカーさんはいよいよ母親の前に立ちはだかり、赤ん坊をよこせと言った。彼女は恐れ戦き、震えながらそれに従った。彼は片手で猫の足でも引っ掴むようにして赤ん坊を取り上げると、家の中に戻って行って住人の女性にこう言ったんだ。「奥さん。この小せえ黒んぼをあんたにくれてやるよ。うるさくて我慢ならねえんだ。」ウォーカーさんがそう言うと、その女性は「ありがとうございます、旦那様。」と応えたんだ。”

僕がショックを受けたのはこの文章そのものだけでなく、もし僕がこのウォーカーという男性と同じ境遇にいたら、このウォーカーと同じことをしていたかも知れない、と気づいたから。

もう一つ、「奴隷監督からの度重なる虐待によって夫を亡くした女性の幼子が、”ママの服に血がついている”という旨の歌を口ずさむのを聴くまで、一体何がおこっていたのか誰も知る由がなかった」という史実を元に作られた「Mama's Cryin' Long」という曲が収録されている。
「ママがずっとないている/ママのてがふるえている/ママはおきあがれないみたい/ママはにげたよ/でもボスにつかまったんだ/ママはじめんにたたきつけられたよ/ママはひめいをあげてたよ/なんどもなんどもきいたよ/よるおそくだったよ/ママがナイフをもって/あのひとのへやにいったんだ/ママのふくはまっかだった/まえはしろかったとおもってたけど/おとこたちがロープをもってきたよ/ママはあの木にいるよ/おりてこないんだ/ママはちゅうをとんだよ/おりてこられないんだ」

ママはビリー・ホリディが歌ったのと同じ「奇妙な果実」にされてしまったのだ。

素晴らしい歌唱と演奏だけでなく、これら様々な感情が湧き上がってくるアルバムになっており、音楽的にも心情的にも最も強いインパクトを受けた1枚だった。

2位:El Hajar/Dudu Tassa & The Kuwaitis

イラク系イスラエル人のロック・アーティスト、ドゥドゥ・タッサが率いる「1930〜40年代に掛けてイラクで人気を博したサレハ&ダウド・アル・クウェイティ兄弟の音楽の再構築を目指した」プロジェクトがThe Kuwaitis。
つまり30〜40年代のアラブ古典歌謡を「ウードやストリングスを配したクラシカルなアラブ古典スタイルから先進性の高いデジタルなアレンジ」で再構築した楽曲が収められているのがこのアルバム。
アラブ特有のコブシ回しやかなり土俗的なメロディが、時にU2やレディオヘッドを思わせるようなモダンなサウンドで展開されている。
アーカイヴとして保存されていたアラブの古典歌謡そのものにドラムスやキーボードを重ねた曲もあるとのこと。
これなんかは賛否を呼びそうな手法だけれど、僕なんかはこのような古い楽曲を新しいツールで現在に蘇らせる手法には割と反発心はわかない。
勿論、結果が伴ってのことであり、充分に結果の伴ったアルバムになっていると思う。

3位:Haitianola/Lakou Mizik

2010年1月12日に発生した大地震をきっかけに誕生したハイチのバンド。
政情不安定な所に31万6千人が死亡し、全人口の30%にあたる300万人以上が被災した大地震におそわれたのだから、まさに泣きっ面にハチ……いやいやそんなライトな表現では足りない状況だったはず。
そんな中で「音楽が復興の手助けの一旦を担うのでは」ということで結成されたのがこのバンド。
そんなハイチのバンドがニュー・オリーンズでレコーディングしたのがこのアルバムであり、よってハイチの音楽であるコンパや北米のブラック・ミュージック、ニュー・オリーンズならではのセカンド・ラインやフレンチ・カリビアンなどがまさにガンボ(ごった煮スープ)のように混ざり合ってとても美味しく仕上がっている。
ちなみに上のMVで演奏されている「Iko Kreyol(Iko Iko)」に対して「Dr.John のオリジナルとは異なったアレンジで〜」と書かれていた記事をネットで見つけたけど、「Iko Iko」のオリジナルはJames "Sugar Boy" Crawford が1954年にヒットさせた「Jock-O-Mo」なのでDr.John の演奏もカヴァー。
Lakou Mizik の演奏はThe Dixie Cups が1965年にヒットさせたヴァージョンに近いアレンジになっている。

4位:Waa Dardaaran/Sahra Halgan

ソマリランド共和国の女性シンガー。
ソマリランド共和国とは1960年まで存在していたイギリス保護領から独立した共和国。
ところが独立から5日後にイタリア信託統治領から独立したソマリアと統合し「ソマリア共和国」となったため、独立はわずか5日間だけだった(第二次大戦後に南をイタリア領、北をイギリス領として植民地化されていた)。
ところが今度はソマリア内部で様々な対立があり(この辺り、複雑なので割愛)1991年に「ソマリア共和国」から独立する形で「ソマリランド共和国」が誕生する。
ところがこれまたせっかく独立してソマリランド共和国となったのに、今度は彼女が属するイサック氏族内での闘争が勃発。
彼女自身の命も危険に晒されたために、現在はフランスに亡命している。
幸いなことに、現在の「ソマリランド共和国」は氏族内闘争も収まり、最も治安の悪い国とされている「ソマリア共和国」と隣接しているにも関わらず、「日本よりも治安がいいかもしれない」と言われるくらいに平和な国になっているという。
ただし国際的には「ソマリランド共和国」は国家としては承認されておらず、未だに「ソマリア共和国」の一部として見做されている(ここまで主にウィキの情報を元にして書いてます)。
つまりSahra Halgan という女性歌手は国際的には「地球上には存在しない国」の出身ということになる。
ソマリアは現在でも内紛が続く、政情がとても不安定な国家であり、Sahra Halgan もソマリランド独立紛争中は反政府組織に所属し、「歌う看護婦」として戦地で兵士たちの怪我の治療などを行い、歌うことで兵士たちの心を癒していたという。
とまぁ、ソマリランド共和国と彼女の経歴だけを長々と続けてしまった(汗)。
音の方はTinariwenをローファイにして、ちょっとファンクっぽくして、よりロックっぽくして、そこに彼女の力強い歌声がのってくる、といった感じになっている……なんとも乱暴な説明ですみません(大汗)。

5位:Je Suis Africain/Rachid Taha

この人などはロックでも良かったかもしれない、と思っている。
アルジェリア出身で10歳の時にフランスに移住。
フランスでパンク・バンドなどを組んだのち、ソロに転向。
フェラ・クティやライの王様ハレド、元クラッシュのミック・ジョーンズやブライアン・イーノといったミュージシャンと共演したりと幅広く活躍してきた。
2018年9月12日、睡眠中に心臓発作で死亡、享年59歳。
このアルバムが彼の遺作となった。

6位:Amadjar/Tinariwen

2年振り通算9枚目のアルバムなのだけれど、良くも悪くも大きな変化はあまり無い。
数本のギターが刻む細かいフレーズとパーカッション、男女コーラスと手拍子が絶妙に絡みあう。
特に大きな変化は望んていないし、頑固なまでに自分達のスタイルを固持する姿も印象はよい。
彼ら自身には「自分達のスタイルを固持する」なんて気持ちは多分ないのだろうし、彼ら自身にとっては必要不可欠な音楽を彼らなりのエンターテインメントとして提供しているのだろう、と思う。
媚びてはいないのだけれど、きちんと聴き手を考慮している、といったところだろうか。
むむぅ、相変わらず訳の判らないことを書いてしまった……スンマソン。

7位:Celia/Angelique Kidjo

昨年はトーキング・ヘッズの「Remain In Light」をそっくりカヴァーするという「一周回ってアフリカに帰ってきました」的なアルバムをリリースした彼女。
今回はキューバ出身の女性サルサ・シンガーのセリア・クルーズのカヴァー集になっている。
セリア・クルーズもこのアンジェリーク・キジョーもそれ程に詳しく知っている訳ではないけれど、セリアもアンジェリークも素晴らしいシンガーだな、ということくらいはわかる。
MVを見るとトーキング・ドラム(ゴンゴンって言うんだっけ?)と思われるパーカッションも使用されていて、同じ黒人の中での混血具合が興味深いなぁ、なんて思ってしまう(それともサルサでもトーキング・ドラムって使用するのだろうか)。

8位:There Is No Other/Rhiannon Giddens

1位にした「Our Native Daughters」のメンバーの一人でもあり、アメリカン・ルーツ・ミュージックを追及している女性シンガーでもあり、ヴァイオリンやバンジョーの演奏者でもある。
本作はイタリア人マルチ・プレイヤー「フランチェスコ・トゥリッシ」とのコラボレーション。
リアノンのアメリカ的要素とフランチェスコのヨーロッパ要素が手を取り合ってケルト、アフリカ、アラブといった音楽を巡って、絶妙に混ぜ合わせたといった印象。

9位:The Exorcism Of A Spinster/Hope Masike

ジンバブウェ出身の女性歌手でンビーラ奏者。
「MONOSWEZI」というモザンピーク(MO)、ノルウェー(NO)、スウェーデン(SWE)、そしてジンバブウェ(ZI)出身のミュージシャンで結成されたバンドのメンバーでもある。
このアルバムで聴けるのは、アフリカ音楽という暑苦しくて泥臭いといったイメージとは少し異なる、クールでスマートな音楽。
僕自身、ンビーラ(親指ピアノ、あるいはカリンバといった方が判りやすいか)の音が好きなので、ここでタップリと聴くことができて大満足だし、各種パーカッションによる多種多様なポリリズムもとても心地よい。

10位:Amina/Refugees For Refugees

直訳すると「難民たちのための難民たち」になるのだろうか。
その名前通り、ここに集まってきたミュージシャンはパキスタン、チベット、シリア、アフガニスタン、イラクなどから難民として逃れてきた伝統音楽の担い手たちである。
そんな音楽家たちが地域や習慣、宗教といったものを楽々と超えて一つの音楽を作り上げている。
ただ、以前も書いたけれど、本来ならこのような「難民」が集まって結成されたこの「Refugees For Refugees」なんて生まれてきてはいけないバンドだったのだろうと思うし、このアルバムを楽しんでしまうという行為にも、どことなく背徳的な気分にすら陥ってしまうこともある。
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