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2019年10月20日08:01

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「強健術」案内45

前回までで、三冊目の著作『心身強健術』に初めて登場した「踏みつけ」と「踏み込み」の二つの技法を見てきました。今回は、「腹胸肩式内蔵操練法(肺と横隔膜)」を見ていきます。この操練法は、処女作『実験 簡易強健術』では「第九練習法」として、二冊目の『腹力体育法』では『腹胸肩式操練法』として紹介された型の発展形です。まずネーミングに「内蔵操練法(肺と横隔膜)」と入れて、明らかに「内臓の壮健」を目指す呼吸法とし、主に「肺」と「横隔膜」を操作することを示唆しています。内臓の操練法であるのに、そこに挙げられているのは「肺臓」と「横隔膜」だけであり、他の重要な胃や腸、肝臓などがなぜ挙げていないかは、後に出てくる(備考)の中に解説がありますので、そこに触れる際に見ていきたいと思います。
また、『実験 簡易強健術』でも『腹力体育法』でもこの呼吸法は、腹をふくらましながら鼻で息を吸い込み、それに続いてさらに胸を開いて息を吸い込んでから口からゆっくりと息を吐き出すという形式でした。つまり、腹式呼吸と胸式呼吸を連続して行っています。その点に注意しながら、「腹胸肩式内蔵操練法(肺と横隔膜)」の具体的な方法を見ていきたいと思います。
本法は朝、起床前と、夜、床中とにて、つまり、一日二度、一度に五回づつ行うもの也。
回数は、『実験 簡易強健術』、『腹力体育法』と変わりません。
イ、枕なしに仰臥し、全身に力を入れず。
ロ、視線を頭上に、稍(やや)後方に定む。(視線をやや後方にすべく顎を少し突き出す気味にすれば、呼吸気管が屈曲せずして、楽になれども、顎を胸に着くようにすれば、咽喉(のど)寛(くつろ)がず。呼吸苦しくなるべし。)
ハ、眼光は見詰むるにあらず。不睨にして無邪気なることを要す。瞑目するも妨げず。
ニ、両踵を一尺ばかり離して、両脚を伸ばしたるまま開く。(爪先を立てぬ事なり)。
「爪先をたてない」つまり足先にも力をいれないということを、強調しています。これは『実験 簡易強健術』、『腹力体育法』には無かった部分です。
ホ、四指を腹部に、拇指を背部に向けて、両手をゆるくカン骨の上に当つ。
ヘ、以上仰臥式自然体。さて。(準備姿勢)
『腹力体育法』でもこの姿勢を、「仰臥式自然体」と名付けていました。
ト、口を閉じ、鼻より徐(おもむろ)に空気を吸い込みて、腹部を出来る丈(だ)け、ふくらます。ただ大きく腹を膨(ふく)らすことを目的となす。但(ただ)し呼吸を停止すべからず。
チ、最早や、少しも吸う能はざる程度に至(いたる)るや、咽喉の奥でイキム様にして、静かに、極めて静かに、且つ強く、長く鼻より充分に吐き出し終わる。(呼吸停止説、呼気八分説は予は採(と)らず。吸える丈(だ)け充分に吸い終わるや、間もなく、穏やかに、空気を吐き始め、生理上、肺臓中に残る一定量の外は、悉(ことごと)く吐き出し終わるなり)
この部分が『実験 簡易強健術』、『腹力体育法』から大きく変化した部分です。前2著では先にも指摘しましたが、「腹式呼吸」で吸い込み、続いて「胸式呼吸」で吸い込んでいました。ところが、『心身強健術』では、「腹式呼吸」で吸い込んで、「胸式呼吸」に移行することなくそのまま「腹式呼吸」で吐き出します。つまり、「腹式呼吸」と「胸式呼吸」を完全に分離しています。また、この時点では「呼吸停止」と、肺の中の空気を全て吐き出ださず「八分目」でとどめる「呼気八分説」は採用していません。
リ、空気を吐き出し終わって、腹部の凹くなりしと同時に、肩を後ろに引く様にし肘を張りて、肋骨を広げ、鼻よりだんだん空気を吸い込むべし。
ヌ、充分に出来る限り吸い込むべし、吸いたる上にも吸い、最早吸う能はず。と感じたる後も、なお吸う余地あるものなれば、最後に一口、物を喰う様にしてスッカリ吸い込む。(予が飽くまでも、酸素の吸収に努めたるは、科学者、Michal FardayのOxypathyが目的とする所と其の趣旨を同うせり)
「腹式呼吸」が終わると次に「胸式呼吸」で息を吸い込みます。
ここで、電磁誘導の法則、電気分解の法則などの発見で有名なマイケル・ファラデー(1791〜1867)の名があがり、Oxypathyというものが登場しています。このOxypathyは直訳すれば「酸素療法」とでもなりますが、これは大正年間にアメリカと日本で大流行した健康ガジェットのことで、その商品名は「Oxypathor(オキシパサー)」とか「オキシヘーラー」などと呼ばれていました。しかしその実態は、電磁気学を応用して、人体に大量の酸素を取り込むのが健康につながるとの触れ込みで、電磁気学の祖ファラデーの名を担ぎ出しているものの、全くのトンデモな代物でした。春充は、この「呼吸操練法」が高価な健康器具に匹敵するものであるということを強調するために、敢えて当時流行していたこの健康ガジェットを取り上げたものと考えられます。
ル、吸入其の極に達したる時、瞬時も、呼吸を停止することなく。
ヲ、口を細く結び、極めて、極めて、静かに、寛かに、強く、絲(いと)の如く細く、長く、口より息を吹きながら、満肚(まんくう)の空気を出し終わる(これは強肺機 Puneumauxetor を用いたると、同様の働きをなして、直接、肺活量を増大せしむるものなり。)これにて一回。
ここに「Puneumauxetor」という言葉が出ていますが、これも、アメリカのパウル。フォン・ベークマンという人物が開発して、当時売り出していた健康ガジェットで「ニューモークシトール」と発音し「強肺器」と訳されます。春充は、口を細く閉じることにより空気を吐き出す時の抵抗を大きくし肺活量の増大を目指したものと考えられ、これもまた高価な健康ガジェットに匹敵する効果があることを強調したものと考えられます。
以上の「オキシパサー」「オキシヘーラー」「ニューモークシトール」など、当時流行していたトンデモ健康ガジェットは、刊行予定『聖中心伝―肥田春充の生涯と強健術―』(青年編)に詳しく触れていますので、興味がおありの方は是非そちらもご覧下さい。
ワ、腹部の膨張しきった時、胸郭をすっかり広げて、更に空気を、大口に、十分吸い込みし時、又徐々に空気を吐き終わった時、共に無限無量の妙味あるものなれば、徒(いたずら)に騒々しく行いて、其(そ)の醍醐味を失う可(べか)らず。
以上で、やり方の解説は終わりです。次回より、この「呼吸操練法」の「備考」に触れていきたいと思います。なお、写真はやり方がほぼ同じで、外見上はそれほど変化がないので今回も省略します。
(写真は、八幡野海岸)
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