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2008年01月17日19:16

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九州回想5  二日目:宮崎の冬山は狩人の世界だった(4)東米良地域の2

【平成20年1月5日】
小椎葉という地区は、並行して南北に流れる尾八重川、打越川に挟まれた山の尾根近くにある。
事前に地図を眺めて、東西に横断的に切り取った地形を想像するに、山、谷、山、谷と連続するかなり険しそうなものを考えていた。
実際行ってみるとこのあたり、峻険さは想像以上だった。
台地から、逆正三角形状に土地を取り除いていって谷にしたらこんな風になるだろうか、谷底からはまさに視界を圧するばかりに屏風状の山が連なって見え、逆に上からは重畳たる九州山地の山並みも見渡せ心ほぐれるような景色となる。
小椎葉はそんな山の尾根にあったのだ。

屏風状に連なる山は、上ってみてもやはり屏風のように、尾根部も緩やかなものではなかった。そうした険しい尾根の一部を切り開き作られたのが、小椎葉小学校だった。
尾八重で分かれた林道をたどっていくと、突然尾根筋の道に面して廃墟となった施設が現れた。平屋建ての木造トタン板葺きと見える校舎跡だ、枯れ草に覆われ、ぼろぼろになりながらまだ建って残っていた。
道の反対側にはフェンスが残り、その向こうはまた崖のように落ち込んでいて見えない。校庭も含め細長い敷地だが、このような場所によくこれだけの土地を作ったものだと、先人達の努力に頭が下がる。
ここにも記念碑が残り、昭和54年度まで学校が続けられていたことがわかる。
その後は建設会社にも貸し出されていたような様子だが、西都市の災害時避難場所に指定されているものの、既に床は危ない状態に見え、とても実用には役立ちそうにない施設となりはてていた。玄関から中をうかがうまでとした。

またイヌの吠える声が聞こえた、谷のずいぶん下の方で狩りをやっているようだった。
巨岩の落石はあったものの、尾八重からここまで意外な快適路で、この先のスケジュールも予想以上に進行が早くなりそうな様子にくわえ、校舎が残っていたという思いがけない展開にうきうきとした気分で小椎葉小学校を後にした。

しばらく進んだところのヘアピンカーブでその看板を見つけた。
西都市の予告で、打越川沿いの林道が通れないというのだ、これから瓢丹淵(市役所の支所=元の村役場がある)まで抜けていこうと考えていた経路上だ。また尾八重川沿いのあの林道を引き返すのはいやだし、かといって別の道ではさらに遠回りになる。ようやく尾股が現実の射程範囲に入ってきて、今さら後戻りはしたくない。
看板にもまるで抜け道とばかりに、瓢丹淵に続く市道がくっきりと太い線で描かれている。
その後のことなど想像もできないで、ほいほいとその市道へ導かれていってしまった。

来るんじゃなかった、そう思ったのは市道に入ってすぐだった。
両側から伸び出た枯草で車道が狭まり、クルマの両サイドからは一斉に大量の擦過音が連続した。
コンクリ舗装の車道幅は、またしても2メートルちょっとばかりである。今朝から寒川といい、久野といい、ここ小椎葉といい、よくもこんな道ばかり通るものだ。
こんなことなら尾八重川沿いを引き返した方がましだったんじゃないか、と少し後悔しながら、そもそもクルマを転回できるほどのスペースが目に入らない。次第に周囲をうかがう余裕もなくなってきて、時速20キロほどで、ひたすら路面を目で追っていくだけになっていった。
小椎葉の空家群はすぐに通り抜けて、屏風状の山腹に切り開かれた一本の線のような道は、谷へ下りたい気持ちを裏切って上り坂が続いていく。道路幅はますます狭まってきた様子で、さらに速度は落ち、車幅いっぱい状態で走っているのがわかる。ガードレールもあったりなかったりで、死角になっている急カーブの先も手前も、右側は即、谷である。谷底までは何メートルあるのだろう。
こんなところで落ちても、発見されるのはいつだろな、などと神経耗弱状態さながらとなってきて、手のひらは汗でべとつき、緊張感から周りの景色などまったく見えない。ただ、目の端に深い谷があるだけだ。呆けたように、蜀の桟道はこんな感じかな、などとぼんやり考えている。

しばらくして道が平らになると、向こうからは猟犬がやってきた。獲物を追っているでもない様子で、こいつの飼い主に助けてもらおうかな、などと気弱になったりする。
間もなく道は下りにかかり、車幅いっぱい、ブレーキ踏みっぱなし、時速10キロも出ているのかいないのか、きつい斜度が連続してブラインドカーブだらけといった状態になってきた。ブレーキのフェードが気になり出す。
こんな道にもお地蔵様があったりして、こんな時だけ、無事に帰してください、もう勘弁してください、もう終わりにして、などと神仏にすがってみたりする(笑)

車道としてこれ以下はないだろうと思える道をいったい何キロ走ったのか、さいわい対向車にも出会わず、出合ったのは猟犬と、崖から落ちて(?)死んだイノシシの死骸だけだった。1時間にも感じられた道のりだったが、後で写真の撮影時間を見ると、25分あまりで小椎葉→大椎葉→瓢丹淵まで着いているから、そんなに大層なことでもなかったんじゃないかと思えてくる。
しかし、瓢丹淵に下り立った時の深呼吸は開放感に満ちていて、生還、というコトバが浮かんできた。(←心情に偽りないが、住んでいる人もいたわけで、ちょっとおおげさ)
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