連休に入るに先立って、ヒマつぶしに読もうかと図書館で本を借りた、私奴の敬愛する大姉御で俳人の宇多喜代子さんの『わたしの歳事ノート』(写真左)。で、おもむろに開き読み始めると「歳事歳時…」との言葉が出てきて、ちょっと引っかかった。「あれっ歳事と歳時？このふたつは違うの、同じじゃあないの？」と。
そう言えば、本のタイトルには歳時ではなく「歳事云々」とあり、あとがきに「かって「歳時片々」とのタイトルで書いたものを『わたしの歳事ノート』と変更した」とあった。どうやら宇多姉御にとっては、歳事と歳時は明確に違うらしい。
私奴の頭の中ではもっぱら歳時であって歳事なんて単語は影が薄い(ないとは言わないが)。だいいち大姉御の住む俳句世界では、「句作に歳時記不可欠。吟行必携品。何がなくても歳時記」で歳時記と銘打つ書物はゴマンとあるじゃないか。それをワザワザ「歳時片々」から「歳事ノート」なぜ変えるんだいとぼやきながら、なんとなく腑に落ちず、落ち着かない気分でいた。「いったい全体、歳時と歳事はどこの何が違うんだい？」だ。
調べるに、「歳事と歳時」はもともと江戸以前の昔では歳時は歳事とも表記して同じ意味だったようだ。が今日、広辞苑によると、歳事とは「一年中の出来事、一年中の仕事」で、歳時とは「一年中のおりおり、年と時」とあり、両者はよく似てはいるが意味合いに複雑さが増したようだ。前者は折々の事象であり誰もが見聞きできる具体的客観的なモノといえるが、後者は折々の事象が醸し出す心情・心境や風情といった主観的なモノという
感じかな（微妙なニュアンスの差を持っていそう）。
加えてさらにことをややくしく複雑にする事態が起こった。江戸期に俳諧好きの連中が季語なるものを編み出し季語を並び立てた書物に「歳時記」なる名を与え一世を風靡したのだ。お陰で歳事なる表記はすたれ次第に忘れられ、もっぱら歳時なる表記が使われるようになった。で、今日、歳時記とは�＾貲�のおりおり及び折々の行事・人事を記した書物と、�△發辰僂蘿亢腓竜┯譴鯤圓鵑製駟�の二つの意味が含まれているということになったらしい。
以上のような御託宣をボンヤリと思い浮かべながら『わたしの歳事ノート』を読むと、ナルホドこの本は今日では最早忘れ去られようとしている諸々の歳事を取り上げ、関連する俳句を掲げて論ずることで、その諸々の歳事に係わる日本人の心情・風情・こころの襞を伝えようとしているのだということが、良く分かったような気がした。
歳時記とはもっぱら季語を集め解説した書物だということがデファクト・スタンダード化した今日、余人ならず俳人だからこそ歳時と歳事をハッキリと使い分けたと言えるかも。
（同様な本としては、京都生まれの俳人井上弘美さんの『季語になった京都千年の歳事』というのが、我が家に転がっていたので、読んでみた。千年の歳月の積み重ねられた春夏秋冬新年おりおりの歳事の持つ風情・人情・人々の心根などを、それにまつわる俳句を取り上げながら語ってゆくというスタイルを取っていた。）
ところがところがである。
「なるほどなあ。さすが歳時に心を配る俳人さん方は、ともすれば忘れ去られがちな一年の折々の歳事に敢えて着目されるのだなあ」などと勝手な決め込みをしていたら、櫂未知子さんの『言葉の歳事記』というのに出くわした。櫂未知子さんも私奴が好きな俳人なので山科醍醐の京都市図書館まで出向いて借り出し読むことにした。
この本にはまた、宇多さんの本と同様、かっての『ことばの歳時記』とのタイトルをワザワザ『言葉の歳事記』に変えたものだとあった。櫂さんは何故歳時記から歳事記に変えたんだろと考えていたら、さらに俳句評論では超大物である山本健吉氏に『ことばの歳時記』というのがあることが判明した。櫂さんは『言葉の歳事記』山本さんは『ことばの歳時記』。これは一体全体、何なんじゃ？ どう理解してよいやらサッパリワカラン！
あ〜あ、事ここに及んで、私奴の「歳時記を重んじる俳人は、歳事を大事にする」などという勝手な決め込みは、言葉の正しい意味において「マッタク、勝手な思い込み」に過ぎないと分かった。
まさにチコちゃんじゃないけど、「ボッと生きてんじゃねえよ！」だ。
雑文のあとがき：
この日記はいったい、何が書きたかったのかと問わないでいただきたい。
まさに新型コロナウイルス猛襲の渦中(禍中)での世迷言なのです、ゴメンナサイ！
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