先週でZoom利用のオンライン授業「仏教セミナー 天台宗」の歴史編が終わった。本来、4月スタートの連続セミナー（天台宗全般、上期に10回強開催）が荒神橋の京大の会館で始まる予定であったが、コロナ禍の影響で、内容縮小(歴史編のみ)の上スタートは6月に遅れ、実施形態も現地参加組とオンライン参加組が場を共にするという方式に変わった（私奴は、自宅PCからオンライン参加）。
セミナーのコーディネーター役の准教授も参加者もみんなZoomアプリ使用は初体験。最初は、いささかぎこちなかったが、画像・音声のコントロールやテキストによるチャットも簡単で、かなりユーザビリティの高いソフトらしくまあ一度体験すれば以降マゴマゴすることはない。ただ、今回の場合、オンライン参加者のみでなく会場現地参加者もいて彼らはマイクから遠く、彼らの発言が聞き取りにくかった。9月からの次期セミナー(天台宗 教義編)では何らかの改善があるだろう。
さて、自らの振返りの意味あいも含めて、今回のセミナー内容の概略に触れておこう。
テキストに使っている『八宗綱要』は、鎌倉時代後半(13c半ば以降)の東大寺学僧凝然(ぎょうねん)が書いた書物で、南都六宗(法相・倶舎・三論・成実・華厳・律の各宗)および平安二宗（天台宗・真言宗）の概要を宗派による偏りを持たずに纏めたものだ(日本仏教史研究に不可欠の文献とも称されている)。
ご承知の如く、今回取り上げる天台宗は、その教義の広さ・深さの点で、「日本仏教の母といってもよいかもしれない(梅原猛)」と言われている。
梅原猛はさらに「仏教にたいしてばかりではなく、天台の思想が、特に法華経信仰が、どんなに深く、日本の文学や、日本の芸術に影響を与えていることであろう。私はここで、『枕草子』や、「平家納経」などのことをのみ語っているのではない。おそらく、この天台仏教と、法華経信仰の日本文化にあたえた影響は、人が、ただ形式的に影響を指摘しうる範囲をこえて、はるかに広く、はるかに遠く、及んでいるであろう」と。
マッタクその通り、私奴らの今日の日常生活を取り巻く日本文化の基層には、なんだか天台の教えなり思想なりのの断片が潜んでいるのだろうと私奴も思う。
凝然さんの文体は彼に続く学僧達にむけて、今日でいうQ&A方式を用いて、各宗派の歴史・教義を端的・明快に語っている。チョッピリ、読み下し文の一部を紹介すると
問う。何故に天台宗と名(なづ)くるや。
答う。山に従って名となす。此の宗は彼の山より起こるが故なり。
問う。此の宗何の教えを所慿(しょひょう)となすや。
答う。法華を以て所依の本経となし、以て一代の諸教えを判ず。然も・・・
後半の訳文
（問い。この天台宗はどの経をよりどころとしているのか。
答え。『法華経』を根本の依りどころの経典とし、釈迦が説いた一代の仏教を判定
したのである。その上、・・・）
上記に続いて、凝然さんは概略、以下のようなことを記述している。
１．この宗の祖師は、天台の智��(智者大師)である。
２．そもそも慧文禅師が『大智度論』(龍樹による大品般若経注釈書)によって一心三観を立て、それを南岳慧思禅師に授けた。慧思は『大智度論』の「三智一心中得」と『中論』の「三諦偈」の文によって深く禅定の智慧をひらめかして三昧を完成させ、観法と智慧が円かであり、そのまま天台智者大師に授けた。
３．慧文と慧思はただ教義の大綱を提示しただけであったが、天台大師は広く五時八教の教判をたてて、具体的に一代の仏教を判定した。天台が盛んになったのはこの大師による。
４．つぎに、天台大師の講説をすべて編集して天台宗の典籍を表して、天台宗を広く伝えたのが、章安大師灌頂である。
５.(以降、何代か幾人かの勝れた大師が出現するが、煩瑣になるので略)
６．天台宗の第7祖道邃(どうすい)のとき、日本の伝教大師最澄が大唐国に渡り、道邃和尚に師事し広くこの宗を伝えたが、器から器へ水をうつすようにあますところなく全てを伝えて、日本に帰って比叡山に天台宗を弘めた。
7．義真和上(初代延暦寺座主)、慈覚大師(円仁)、智証大師（円珍）などの祖師先徳がそれぞれ相承してこれを伝え、今(凝然さんの時代)に至るまで絶えることなく、日本全体に広まり、盛んに学ばれた。
８．時代は末法なのであるが、人々の帰依することこの宗にまさるものがないのである。何と貴いことか、何と偉大なことか。
注:専門用語(テクニカル・ターム)が多く出てきて、私奴にもよくワカラン点が多い。
この辺りのことは、後期の教義編の中で教えて頂くとして、今回がなにやら
難しいらしなで終わっておこう。
極めて大急ぎで、中国での天台宗の流れとその日本伝来と比叡山天台宗までを眺めた。
インドに出現し様々に発展拡充した諸仏教経典が、さまざまな時代に様々なルートで相互に殆ど関係なくバラバラに中国に到来。中国では、それらを研究整理し（教相判釈し）体系化がはかられ、新しい仏教思想が誕生してきた。多分、それらの中で最高に広範囲に考えつくされ、理論化され、体系化されたものが、天台智�擇砲茲訶径羹，世蹐Α�
その広大な仏教経典を内に含んだ中国天台が移植され、加えて密教・禅・浄土教とも相互に化学反応を起こした場が比叡山であった。
まこと、日本の仏教や思想や文学やその後出現する諸芸や諸道に幾多の影響を与えたであろうことは、容易に理解できると言えるだろう。
写真左：南岳慧思
写真中央：天台智��
写真右：伝教大師最澄
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