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2020年10月15日23:49

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「マーティン・エデン」 知の孤独

犬狼が主人公の『野性の呼び声』『白い牙』は子供の頃に読んでいたが、
『ジャック・ロンドン自伝的物語』(原題Martin Eden)は知らなかった。

舞台を米国のオークランドから、イタリアのナポリに移して成功している。
1900年代前半の欧州は新大陸米国よりも身分差別はより強かっただろう。
米国の新興ブルジョアから、オルシーニと言えばイタリア貴族の流れか。

「マーティン・エデン」
http://mixi.jp/view_item.pl?reviewer_id=10258677&id=5022761

http://martineden-movie.com

ナポリの貧民街、船乗りの荒くれ者マーティン(ルカ・マルネッリ)は、
オルシーニ家の息子を助けたことから家に招待される。

そこで出会った令嬢エレナ(ジェシカ・クレッシー)に、
マーティンは強く惹かれると同時に、優雅で洗練された
上流社会の一家に「あなたたちのようになりたい」と憧れる。

食事の仕方、音楽、会話…残酷なほどに階級差が表される。
一家は息子を助けて貰い、礼儀からあからさまな態度はとらないが、
召使たちの、彼は主人一家に相応しくない…との思いが態度に滲む。

エレナに教育を受けることを勧められ、マーティンは読書し独学する。
そしてエレナに「作家になる、2年待ってくれ」と頼み込んだ。

彼の作品は貧しい人達の暮らし。姉は「希望を持たせて」と言い、
エレナもてんで認めない。出版社からは送り返される。
義兄からは「働け、家賃を払え」と攻め立てられる。

そしてエレナからは結婚を断られる。絶望の中に、
出版の知らせがもたらされ、彼は一躍作家に躍り出た。

時代は第一次大戦前、労働者階級は組合をと社会主義を信奉する。
マーティンは組合にも権力者が現れて、彼らは奴隷となると言い放つ。
(まさにソヴィエトロシアや中国、北朝鮮等を思わせる)。

彼の知は、憧れていたエレナのどこか彼を見下した態度も、
ブルジョアジーの欺瞞性までも見抜いてしまう。
彼を持てはやし、上げ足を取ろうとする人々をマーティンは冷笑する。

友人で導き手のブリッセンデン(モデルは詩人のジョージ・スターリング)を
失った悲しみ。作家の栄誉そして知を手に入れた時、彼は孤独だった。

マーティンが手に入れた知の鋭さ、純粋さ、そしてアンバランスさ。
人はたいてい、どこかで先鋭化した知の先を丸め、バランスを取る。
それが自分に刃を向けずに、なんとか生き延びる方策なのではないか。

社会の中には欺瞞が満ちている。それを見抜いてしまう「知」、
「知」を追求し、先鋭化させたマーティンは、労働者階級にも、
上流社会にも、どこにも帰属できなくなって孤独に生きるしかない。
マーティンの最後のシーンは、痛ましくもこれしかなかったと思わせる。

対極がマリアだろう。彼女は、知識は無いだろうが人生の智慧と、
人への信頼と、限りない優しさ、平穏さに満ちている。
彼女が勧めたように一緒に暮らしていたら…と思ってしまう。

波止場に置き去りにされるマルゲリータの姿、哀れ…。
一杯に風をはらんだ帆船がゆっくりと沈んでいく映像が忘れられない。
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