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2020年10月08日10:52

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「ある画家の数奇な運命」 ナチス時代、東独、西独を生きた実在の画家

学生時代、美術の恩師2人はドイツのバウハウスに、
戦前に留学していたモダンな感覚の女性だった。
この映画、バウハウスで活躍した画家の絵が最初に出てきた!

ドイツの現代美術家ゲルハルト・リヒターがモデル。
戦前のナチス時代に少年時代を過ごし、東独で美術を学び、
壁で封鎖される直前の西独に逃れてきたという前半生。

「ある画家の数奇な運命」
http://mixi.jp/view_item.pl?reviewer_id=10258677&id=5029371

https://www.neverlookaway-movie.jp/

1937年の戦前のドイツ。少年クルトはドレスデンで開催中の美術展に
叔母のエリザベト(ザスキア・ローゼンダール)と一緒に出かける。

解説者は、カンディンスキーやモンドリアンの絵画を示しながら、
「退廃的」とののしるが、エリザベトはこっそりクルトに「好きだ」と、
そして「真実を見るの、真実は美しい」と幼い彼にささやくのだ。

感覚的に鋭いエリザベトは時々精神が不安定になり、入院。
ヒトラーの「身体的、精神的に優秀な者」という優生思想の下、
エリザベトら障害者は収容され、まとめてガス室で殺されていった。

電波妨害のための無数の煌めく錫箔、夜空を染めるドレスデンの空襲、
クルトの友達家族の死、戦地での従兄たちの死、そしてソ連軍がやってくる。
このシーン、残酷な運命を実に美しく一編の詩のように描く。

戦後の東独、クルト(トム・シリング)は美術学校で出会った
エリー(パウラ・ベーア)に恋をする。彼女の父親(セバスチャン・コッホ)は、
エリザベトを死に追いやった婦人科医だったが、気付かぬまま結婚。

クルトは良い成績を修め、労働者を描く壁画を任される。
しかし彼は、社会主義リアリズムに縛られた芸術に飽き足らず、
東西の壁が築かれる直前に、西ドイツに亡命した。

ここまでは、ナチスの暴虐、美しい叔母の悲しい運命、
結婚相手の家庭の思いがけない関係、共産圏の厳しい思想統制など、
見応えはあるが、よくあるナチスや東西対立、亡命ものでもある。

この映画の面白さは、西独に行ってからだった!
デュッセルドルフ美術アカデミーにクルトは入学。

気難し気なフェルテン教授(オリヴァー・マスッチ)につく。
脂と羊毛を素材としているという彼は、ヨーゼフ・ボイスがモデル。

クルトの隣室の親切な学生で、ひたすら釘を打っているのは、
もちろんギュンター・ユッカーがモデル。体型まで似ている感じ。

学生たちは何の枠にも縛られずに自由に意のままに表現している。
今までは社会主義リアリズムの「枠」の中にいたクルトは、方向性を失う。

これはフォンタナのキャンバスの切り裂き絵のアイディアからだ…とか、
ジャクソン・ポロック風だ…と素人の私でも見透かせてしまう彼の絵。
まさに「自由の刑に処せられている」(サルトル)といったところ。

模索する姿が痛ましくさえ思える。シュルテン教授にも却下される。
そして彼が描き始めたのは…。

「善き人のためのソナタ」のドナースマルク監督。
映画化に当たってのリヒターの条件は「人物の名前は変えること」
「何が事実か事実でないかは、互いに絶対に明かさないこと」。

しかし、リヒターの叔母は、ナチスによって殺害され、
彼の最初の妻の父親の医師はSSで、加害者の1人であったとのこと。

原題は「Werk ohne Autor 」「作者無き仕事」という意味かしら。
クルトが自身の作品の説明をしたときのセリフからとか。

英語の題は「Never Look Away」、エリザベトが言う「目を逸らさないで」。
邦題はもうちょっと考えられなかったものかな。

現代美術や美術史に興味がある人には、見逃せない面白さ。
189分が長いどころか、あっという間の画家の半生だった。
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