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2020年07月01日21:11

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「ルース・エドガー」複雑な背景を持つ黒人少年の思春期

13歳のイスラムの少年の姿を「その手に触れるまで」で観た後、
続けて黒人少年の「ルース・エドガー」を観る。もう夕方1回のみの上映。
私はこちらの方が、がぜん面白かった。

「ルース・エドガー」
http://mixi.jp/view_item.pl?reviewer_id=10258677&id=4960125

http://luce-edgar.com/

ルース(ケルヴィン・ハリソン・Jr)は、17歳の高校生。
戦乱のアフリカ、エリトリアから、7歳の時に
白人のピーター(ティム・ロス)とエイミー(ナオミ・ワッツ)の養子になった。

ルースは「光」の意。この名は養父から与えられた名だ。
彼は名前の「光」のように、「第二のオバマ」と言われるほど、
高校でもスピーチに運動にと活躍し、親や校長の期待に応える優秀な生徒。

ある日、アフリカ系の女性教師ウィルソン(オクタヴィア・スペンサー)が
出題した「ある人物を取り上げて本人の気持ちで書く」という課題に、
ルースはフランツ・ファノンをテーマにする。
ファノンはアルジェリア独立戦争で、指導的役割を果たした人物。

もちろんウィキにもあるが、彼の著書『黒い皮膚・白い仮面』の書評が面白い。
「松岡正剛の千夜千冊」 https://1000ya.isis.ne.jp/0793.html

最近の、G・フロイド氏殺人事件の警官の暴力でも分かるが、
日本人の想像を絶するような、黒人差別が長年起きている米国。

黒人として安全に社会的地位を得るには、優秀で善良でと要求される。
その背景を捉えて、黒人の生徒や教師の言動を追う必要がありそうだ。

ルースは暴力を肯定して過激思想を持っているのではないかと、
疑い出したウィルソンは、無断で彼のロッカーを開け、
危険な花火の包みを見つけて母親に連絡し、レポートと花火を渡す。

エイミーはルースを信じたい。少年兵だった彼がアメリカに馴染むまで、
何年も精神的なケアを支え、愛情を込めて育ててきたのだから。

客観的に見て疑問を挟むピーターは、自分の子供が欲しかった思いもあった。
この夫婦の感情のズレを、ロスとワッツは見事に演じる。

――――ここらあたりから、ネタバレ?かも知れないので、以下ご用心を。

ルースの家族も不穏な争いを起こす中、彼はウィルソンへの搦手の攻撃。
彼女に睨まれて、大学の奨学金の機会を失った黒人の友人への思い、
東洋系の女生徒に起きたトラブルへのウィルソンの対応への不満。

ルースは「完璧な優等生か恐ろしい怪物か」が、映画の謳い文句。
この言葉に引きずられると、「光と闇」という二項対立で観てしまう。
でも、そんな先入観を捨てて観ても良いのではないだろうか。

もともと頭が良く、戦乱と貧困から救われた自分の立場も分かる。
親の期待に応えて一生懸命励んでいるが、高校生にもなれば、
様々な矛盾にも気が付くではないか。尊敬していた親や教師も完璧ではない。

励むことに疲れもすれば、清く正しくだけではない自分の内面にも気付く。
複雑な背景を持つが、まさに思春期の葛藤の中。悩める少年の姿が見える。
親や教師には敢えて言わないことも、見せない一面も出てくる。

むしろ家族の悩みを抱え、完璧な教師を目指しているかのような
ウィルソンの、黒人の教師としての、人種への強い思い込みや、
理想の生徒を育てようとの意気込みの空回りや、生徒への勝手な
「理解と指導」のズレっぷりの方が、彼女の闇を感じさせる。

親や学校の期待する人物像と、「僕は違う!」と言いたい気持ちはあろうが、
自分の生い立ちと名前についてのスピーチで涙ぐむルースも彼の一面。
「僕は縁起が上手い」など、大人を翻弄する言動もルースの一面だ。

親にも教師にも理解できない、知られたくない思春期の子供の行動。
怪物どころか、大人になる前の複雑な感情に振り回される姿。

思春期の複雑な思いを忘れてない人なら、彼の姿を理解できるのでは?
あれほどに大人ぶりながら、不安が渦巻き、反抗するしかない時期を。
彼はやがて客観的に自分を見つめ、大人の自分を再構築していくのだろう。
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