「恩人を殺した犯人の動機は何?」という謎を、弁護士が追及していくと、
国家の法制度にまで辿り着くという重層的な法廷ミステリー。
ゾクゾクしながら、その謎を追い、納得した途端にひっくり返される。
サスペンスフルで面白く、最後まで目が離せなかった。お勧めです。
★は4.5で。
「コリーニ事件」
http://mixi.jp/view_item.pl?reviewer_id=10258677&id=4975819
https://collini-movie.com/
実業家のハンス・マイヤーが、ホテルで3発の銃弾で撃ち殺された。
犯人コリーニ(フランコ・ネロ)はすぐに捕まるが、何一つ話そうとしない。
コリーニの国選弁護士になったのはトルコ系のライネン(エリアス・ムバレク)。
引き受けた後で、コリーニはライネンの恩人の殺害者と知る。
マイヤーは、ライネンの2歳で別れた実の父代わりに可愛がってくれた。
その殺害犯人の弁護をできるのかとライネンは戸惑う。
マイヤーの孫娘のヨハナとも親しく、彼女からも弁護を断ってと頼まれる。
しかし恩師からは、弁護士の心構えを説かれ、引き受ける決心をする。
しかし何度接見をしても、コリーニは口を開かない。このままでは弁護もできない。
凶器がナチの使用したワルサーP38であることから、ライネンは記録を紐解く。
そしてコリーニの出身地、イタリアの小さな町を訪ね、そこで起こったことを知る。
作品としては、いくら新米弁護士だとしても、その町を訪ねるのが遅すぎる。
どう考えてもマイヤーと何らかの接点があったはず、それが事件の動機だろう。
コリーニが沈黙を通す時点で、彼の過去を探るべきとすぐに思わない?
裁判ではライネンは、コリーニの父の身に起きた1944年の事件を語る。
映画がここまでなら、ナチの起こした戦争犯罪という映画の一つに過ぎない。
この作品の本領は、ここからなのだ。
ライネンも知らなかったのだが、コリーニは姉と2人で、マイヤーを訴えていた。
しかし審議にかかることなく、法的に問えないとして却下されていた。
1960年代末に決められた法にある一文が差し込まれ、抜け道となったのだ。
まさに「法の落とし穴」を利用した判断がなされていた。
ライネンは、ヨハナに依頼されていた恩師とも、法廷で厳しく対峙する。
原作者は、弁護士で作家のフェルディナンド・フォン・シーラッハ。
祖父は、ナチ党全国青少年最高指導者であったことも、背景にあるのだろう。
この小説は、2011年にドイツでベストセラーになった。
その結果、ドイツ連邦法務省が「過去再検討委員会」を2012年に設置した。
この流れは、ドイツだからこそあり得たと思われる。
戦後にかなりの数の国民が、自身を戦争加害者として責任に向き合った。
そのドイツだからこそ、戦争責任から免れたい者と、辛くとも向き合う者。
そのせめぎ合い。まさに法と良心と正義の問題が、私たちに突き付けられる。
ボクシングで始まる冒頭映像。
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