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2019年11月30日00:26

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「アダムズ・アップル」北欧のブラックユーモアに満ちたヒューマンドラマ

初期のマッツ・ミケルセンが出ているデンマーク映画、しかも教会の牧師で。
ヒューマンドラマらしい。となると観たいと思うのも当然でしょ。

しかしまぁ、予想と違って奇人変人のバイオレンス映画?と思わされる展開。
ところが凄まじい葛藤のストーリーの、最後にやられた…ただものじゃない。

「アダムズ・アップル」
http://mixi.jp/view_item.pl?reviewer_id=10258677&id=4841253
https://www.adamsapples-movie.com/

バスを降りたスキンヘッドのアダム(ウルリッヒ・トムセン)は、
バッグからナイフを出し、動き出したバスにナイフを当てて傷をつける。
これだけで尋常じゃない人柄が…。

畑の中の停留所に車で迎えに来たイヴァン牧師(マッツ・ミケルセン)は、
刑務所を出たばかりの人の更生施設の教会で、彼らを導いている。
アダムは、牧師の差し出した握手の手も荷物を持とうという好意も無視。

ここで思い出したのはフィンランド映画の「ヤコブへの手紙」。
盲目の牧師と元女囚のストーリー。牧師の差し出した握手の手を無視するのも全く同じ。

アダムの申送り書には「悪党、ネオナチ」とあり、腕には鉄十字の入れ墨。
早速、部屋の十字架を取り外し、ヒトラーの顔写真にかけ替える。

教会に暮らす元テニスプレーヤーで酒浸りのグナー(ニコラス・ブロ)と、
パキスタン移民でガスステーション強盗を重ねるカリド(アリ・カジム)。
グナーはコソ泥を働いたり、カリドは銃器を所持していたりと怪しげ。

教会の庭には林檎の木が1本。実が鈴なりについている。
イヴァンに「君は何をする?」と聞かれたアダムは、
「アップルケーキを焼く」と出まかせに答える。
ところが林檎に烏が群がって実を突つき、虫がつき、とトラブル続き。

一夜の遊びで妊娠し、しかも医師に子供には障害があるかも?と
言われたサラ(パプリカ・スティーン)が、イヴァンに相談すると、
彼は自分の子供もそう言われたが庭を駆け回っていると安心させる。

しかし、医師と話す機会を得たアダムは、イヴァンの母はお産で死に、父にも去られ、
結婚して生まれた子供は障害児で、妻はそれに耐えられずに自殺と知る。

真実に向き合えないイヴァン、悪い出来事は悪魔の仕業という彼に対し、
アダムはイヴァンの欺瞞を追及し、それらもみな神の仕業だったらと対決する。
車で牧師のかける「how deep is your love」の曲が流れるたびに切ってしまうアダム。

教会の鐘が撞かれるたびにアダムの部屋が揺れ、ヒトラーの写真が壁から落ちる。
棚から聖書が落ち、偶然開くページは、善良な信仰篤いヨブに、
なぜか酷い災難が立て続けに降りかかる…といった旧約聖書のヨブ記。

直ぐに「議論しよう」と吹っ掛ける奇妙な牧師と、
粗暴で、アル中やコソ泥の3人の元受刑者と、道に迷う1人の女性。
アダムの牧師への乱暴狼藉、嵐と落雷、ネオナチ仲間との対決、脳腫瘍、強盗…。
林檎は全滅しそうだし、どういう結末になるのやらとハラハラ。

シュールでブラックユーモアが塗され、まさに不条理のストーリーだが、
私はとても好き。気に入るだろうとお勧めくださった方に感謝。

アダムがバスを傷つけたナイフ、それが再び使われるシーンに胸が熱くなる。
もう1つ、最後のアダムに注目してね!

ところで、アダムはもちろん聖書の創世記の最初の人類で、林檎は智慧の木の実。
アダムの肋骨から作られた女性イヴは、蛇の誘惑に負けて
禁断の木の実の林檎を食べてしまう。
アダムも食べ、2人は無花果の葉で陰部を隠し、神にそれと知られて楽園を追放される。

この映画と、その話のどこが共通するのだろうか?
牧師の、あまりにも無残な半生は、ヨブ記のようであるし、
その半生から目を背け続けた牧師は、林檎の木を目にしながら
智慧の木の実に手を出すことなく、欺瞞という楽園にいたのだろうか?

アップルケーキを作ると出まかせに宣言したアダムは、イヴァン(イヴ?)とともに、
真実という智慧の木の実を食べたのだろうか? 寓話性に満ちているのだと思うし、
聖書は隅から隅まで読んでいるのだけれど、このぶっ飛んでいる映画と、
ヨブ記の関係は分かったが、アダムの林檎の隠喩は分からなかった。
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