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2017年06月12日23:48

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「残像」ワイダが描く全体主義国家の愚かさ・怖さ

昨秋10月に90歳で急逝したアンジェイ・ワイダ監督が、
初夏に世に送った遺作で描いたのは、芸術を追求し
国家に抵抗して押し潰されたポーランドの抽象画家、
ヴワディスワフ・ストゥシェミンスキ(1893-1952)。

「残像」
http://mixi.jp/view_item.pl?reviewer_id=10258677&id=4232145
http://zanzou-movie.com/

時代背景は第二次世界大戦後、ソ連の圧力のもと、
社会主義国家となったポーランド。

自分の思想に基づいて、近代絵画を自由に描く。
それが、政権の意に沿わないだけで、弾圧される姿を描く。

ストゥシェミンスキ(ボグスワフ・リンダ)は戦争で片手片足を失いながら、
名声を得て、自分が設立したウッチ造形大学で教えている。
妻に離婚され、1人で暮らす。教授とは言え生活は厳しい。

妻が無くなり、娘のハンナ(ゾフィア・ヴィフチワ)は、
たった1人で、喪服もなく赤いコートで母の葬儀を終え、
父親の部屋に転がり込んで、父の世話を始める。

政府は芸術に社会主義リアリズムを持ち込み、
彼の自由主義的な芸術を、徐々に締め付けてきた。

政府の言うリアリズムの絵を描かず、学生にも教えない、
彼の授業は学生たちに人気で、学生たちはノートを取り、
それをもとに本に仕上げようと、自主的に取り組むほど。

このあたり、教師と弟子たちの関係は羨ましいくらいだ。
彼の思想を芸術を学びたいという、熱い思いが伝わる。

しかし、ストゥシェミンスキは、徐々に追い詰められ、
大学を追放され、看板などを書いて糊口をしのぐ。
その絵が、社会主義リアリズムそのものなのが痛々しい。

倒れて入院した父を見舞うハンナ。父親を心配させまいと、
「新しい靴よ」と見せるが、友人から借りたものだった。

全体主義思想の愚かさ、画一的な思想を強いる国家の怖さ、
それによって失われる素晴らしいものを、
ワイダ監督はこの父娘を追うことでさらけ出す。


ところで日本人にとっては、ストゥシェミンスキって誰? 
だろうが、Wladyslaw Strzeminski で画像検索してみて。

この作品にも彼の絵の他に、デザインした大学の展示室が出てくるが、
日本にも影響を与えたドイツのバウハウス(1919-1933)の流れ。

わが家にある家具職人のリートフェルトの
レッド&ブルー・チェアにも似た色彩のデザインの部屋だ。
その美しい部屋を塗りつぶすという政府の暴挙に驚かされる。

彼を理解する教授たちも徐々に口をつぐむ。
訴えられると怖い、仕事を失いたくない…。
今も残る全体主義国家の愚かさ、怖さが滲み出ている。

「意識したものしか見ていない」という彼の言葉があったが、
芸術に関わらず、私たちは半ば見ていないのかもしれない。

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