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2016年07月07日08:40

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「ブルックリン」故郷を離れるということ

アイルランド移民というと、19世紀半ばのジャガイモ飢饉で、
その飢餓を逃れようと新大陸に渡った移民が有名だ。
ケネディ一家の先祖もこの飢餓を逃れて海を渡った農民。

「ブルックリン」
http://mixi.jp/view_item.pl?reviewer_id=10258677&id=3971792
http://www.foxmovies-jp.com/brooklyn-movie/

こちらは第二次大戦後の1952年。エイリシュ(シアーシャ・ローナン)は
不況で仕事もなく、意地悪な女性が経営する雑貨屋で働くしかない。

姉のローズは、米国ブルックリンに住む神父に手紙を書いて、
エイリシュを送り出し、自分は母親との2人暮しになる。

初めての船旅で不安そうなエイリシュ。アイリッシュカラーの
緑のコートが鮮やか。送り出す母と姉のくすんだ緑と対照的だ。
どんなに不安な旅立ちだったことだろうか。

ブルックリンには、アイルランド移民社会ができている。
アイリッシュの教会のクリスマス会のボランティアで、
もう故郷とも縁が切れただろう移民の老人たちの姿を見る。

船の中で会った女性、下宿先の厳しい婦人、移民の先輩女性たち、
デパートの上役、みな厳しいが根は親切なのが心を温かくする。

大学で簿記を習って資格を取り、ダンスに誘われて、
イタリア人のボーイフレンドもできた。このトニーの家庭が楽しい。
8歳の坊やの突っ込みが面白く、それをカバーする家族も温かい。

しかし、ローズの悲報が届いて、エイリシュは帰国。
一人になった母、親友から紹介された男性ジムは、
願ってもない結婚相手だと、周りの皆が認める。

でも、え?いいの? トニーのことは? 
アメリカに帰る気なら、ジムにそんなに気を持たせていいの?
迷う気持ちは分からないでもないけれど、どちらにも不誠実…。
迷うエイリシュを動かしたきっかけは、なんとも皮肉なこと 。

トニー兄弟の建設会社の夢は、いかにもアメリカン・ドリーム。
成功をつかんだり、失敗して教会の食事を当てにする人生もまた現実。

素朴で無口なエイリシュが、アメリカ社会になじみ、
そこで美しく洗練され、職能をつけていく様子が描かれる。
学び、力を得ていい暮らしをする。これもアメリカン・ドリーム。 
いつも穏やかなエイリシュの表情がいい。


移民船に乗るエイリシュほどではないけれど、
私も中学で家を離れた。あのころはまだ新幹線がなく、
夜行寝台列車。休暇の終わりには半ば泣きべそで乗った。

寮に戻れば友人と楽しく過ごしていたが、親と離れるのはつらい。
今思うと、毎学期、送り出す親もつらかったのだろうな。
そこで教育を受けることが、娘のためだと思っていたとしても。

そう言えば東京の人とデートをしながら、田舎の素封家の息子さんと、
お見合いをしたことがある。穏やかな良い方だった。
たぶん、彼と結婚をしたら親も安心しただろうと思う。

エイリシュは迷ったのだろうな…ほんとに迷うだろうな。そう思うと
トニーに不誠実であろうと、ジムと付き合ってしまう気持ちも分かる。
母親はアイルランドを離れるなんて考えもしないだろうし。

そして日本でも、田舎の老いた親と、離れて働く子供とその家族。  
夫婦でいる間はまだいいけれど、1人になった親をどうするか。
遠距離介護の問題は、日本の多くの家庭で起きていることだろう。
共同体のない都市のほうがもしかすると深刻なのかもしれないが。
エイリシュの人生って、高度成長期の日本の中でも起きていたのかも。

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