マット・デイモンとマーク・ウォルバーグは似ている。
下の階へ移動しまして、今度はシアター2。111席とややこぢんまりしてる。ここのF列は前が通路なので大変具合がよろしい。客はあんまり入ってない印象。20数人か。
本題に入る前に重箱隅太郎の登場です。
毎度おなじみ言語問題の一席。
アメリカ映画です。でも舞台は14世紀のフランス。で、基本みんな英語で喋ってます。いいのか?フランス語じゃなくて。
いいんです。なぜならこれは「吹き替え版」だから。本当はフランス語で話してるんだけど、アメリカの俳優が声を吹き替えてるの。
その上で観ると、いい加減ではなくてかなりちゃんとしてます。例えばアダム・ドライバー(=ジャック・ル・グリ)がベン・アフレック(=ピエール伯)の宴会でラテン語の本を朗読するところ、英語の字幕は出ません。なぜなら宴会に出てるオヤジどもはラテン語わかんないから。それに対し、アダム・ドライバーとジョディ・カマー(=マルグリット・ド・カルージュ)がラテン語で言葉を交わすシーンでは、ちゃんと英語の字幕が出ます。なぜなら互いにラテン語を解し、会話が成立してるから(教養あるのね、好いたらしいオ・カ・タ)。
そうじゃなくて、14世紀らしい言葉でしゃべってるかが問題だと思うがどうか。
私は英語ネイティブではないのでそのへんは残念ながらわかりませんでした。
ただここだけは引っかかった。明らかに「Charles VI」(チャールズ)と呼んでいるのに、字幕は「シャルル6世」なんですよ。固有名詞なんだから、ここは字幕のように「シャルル」と呼ぶべきなんでは? 他の人の名前も英語読みにしてたのか? 例えば「マルグリット」は英語名だと「マーガレット」にあたると思うけどそうは呼んでいない。地名なんかも(フランス語の発音でないにしろ)フランスの呼び方に準拠すべきだと思うが、果たしてどうだったか。よくわからない。
じゃあ字幕はともかく日本語吹き替えだとどうすべきだろう?
「そなたの申すは誠か」「かたじけない」「苦しゅうない、オモテをあげい」なんて吹き替えたほうがいいんでしょうか。まさか「領地ゲットー!」「うそっ、マジで?」「マジェマジェ」ではあるまい。でもなあ、ベン・アフレック、けっこう「fuckin’」連発してたからなあ。
以上、いつものよけいな考察でした。考え始めると止まらなくなっちゃってねえ。
さて本題。
最初に「ジャン・ド・カルージュの証言」と出た時、「ははーん「羅生門」ね」と思っちゃいました。
予告編で、マルグリットがジャックにやられちゃったみたい、で、マルグリットの夫、ジャン・ド・カルージュがキレてジャックと決闘、まあそういう話なんだろうとは思った。なので「羅生門」を連想した、と。どっちもレイプものだし。
案の定「ジャック・ル・グリの証言」「マルグリット・カルージュの証言」とつづくわけさ。マルグリットのなんか「The Truth」とテロップがつく。
すわっ、これが真実かと座り直して観たが、三者のパートは同じ期間について語っていて「羅生門」ほど「全然違うじゃん!」というふうではない。マルグリットのパートが「本当はこうだったのか!」とはまったくならず、いささか拍子抜けしました。
ただし、もちろん三様の視点であるのは間違いなく、それぞれが見たこと体験したことしか出てこない。
それでも主観の違いはちょっとだけあるのよ。例えば、帰ってきたジャンをマルグリットが出迎える時、えらく胸元の開いた服を着てるんです。マルグリットの証言パートではジャンが「なんだその服は!」って怒るんだけど、ジャンのパートでは別に怒ってない。
さあ問題のレイプ・シーンだ。とはいえさっき書いたようにジャックの証言とマルグリットの証言パートでは、基本的な違いはない。ふつうはジャックから見ると和姦だが、マルグリットの主観では強姦、みたいな描き方になりそうなもんだが、そうなってないんだなあ。ただ微妙な違いはあって、逃げる時のマルグリットの靴の脱げ方がちょっと違う。でもこれが何を意味するかはわかりませんでした、すいません。
映画はこの三幕もので終わるはずもなく、さらにつづく。はああ、2時間半。
まずマルグリットが「やられちゃった」告白を夫にします。わからん。なぜ言う。黙っててもデメリットないじゃん。もちろん周りの女たちは口を揃えて「私だったら言わない」。そうだよなあ。
これを「14世紀の#MeTooだ。偉い、立派」などと書いてる人もいたが、ちょっと違うんじゃないかなあ。だって現代のMeTooみたいにムーヴメントにならないもん。
すると、夫のジャンが「みんなでTwitterでつぶやこうぜ」と言い出します。違いますね、「この事件を言いふらすのだ」なんてことを言う。そうすればジャックの野郎もすっとぼけてられないだろう、と言うんです。
いやー、ひどくない? これ。奥さんかわいそうじゃない? セカンド・レイプじゃん。奥さんの、じゃなく自分の名誉のために、みたいなことでしたが、どうもこのジャンてのは頭があまりよろしくない。
#これを「女性が男性の所有物でしかなかった時代の悲劇を描いた」とする向きもあるが、んまあねえ。
さらに裁判だか審問だかに続く。このシーンがエグい。
かねがね私はリドリー・スコット翁の映画には悪趣味な面があると思ってきた(「悪の法則」を観よ)。ここにきて悪趣味全開である。
「それ、聞く?」「そこまで言わせる?」の連続。うわー、見てられんわ。マルグリットも覚悟の上とはいえ気丈よのう。
で、決闘になだれ込むんですが、これがねえ……。詳しくは語らんが、どうなっても釈然としないものが残るだろうよ。困っちゃうなあ。
あ、そうか、「事実に基づく」か。
#脚本はニコール・ホロフセナーという人に加え、マット・デイモンとベン・アフレックの2人が書いてる。このへんがけっこう重要なんじゃないかなあ。この2人が現場でも口出ししたんじゃないかなあ。
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