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2021年09月07日07:00

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中編小説 石鹸怪獣へドラ 結(ユイ)4

 
 早朝の海岸では大量の戦車を始めとした大量の兵器が、朝日が昇り始めた海に向けて狙いを向けていた。
 昨日の工場で繰り広げられたゴジラとヘドラの戦いを黙って見ていた彼等は、あの二体が海へ向かっていった事を追跡し、また二体の怪獣が出てこないよう最大限の警戒を続けていた。
 数ある戦車の中で、一人の自衛隊員が仲間に訊ねる。

『なあ、お前ヘドラの姿って見た事あるか?』
『いや、教科書で見た位だ。
 だがあの真っ赤な目に不定形な体はおっそろしいよなあ。まだ肉や骨が詰まったゴジラの方がまともだぜ』
『だよなあ。ヘドラなんてあんなんヘドロで出来たクラゲ・・』

 ダバアアアアアアン!!!

 不意に海から十階建てビルを遥かに越える程の大きな水柱が轟音と共に上がる。
 轟音と共に大きな物体が戦車隊の上空を通過していき、それはズシンと音を立てて地面を揺らしながら着地した。
 戦車を遥かに越える巨体なそれを見た隊員の一人が、見たままを報告する。

『報告!報告!
 ヘドラです!巨大なヘドラが、海から飛び上がって・・我らの後方で倒れています!何かが原因で吹き飛ばされた模様!』
『ヘドラが出現したのか!?
 なら急いで対ヘドラ武器を用・・』

 ズズン!!

 戦車隊全体に、振動が震え上がる。
 ハッとする隊員を、再度地響きが襲う。
 ヘドラに向けられそうになった砲頭が、海に向けられていく。
  
 ズズズン!

 海は朝日の光を反射させて、黄金色に輝いている。
 その黄金色の海をどす黒い山が突き破っていき、ギラリと黒い眼を煌めかせながら地面に倒れ伏すヘドラを睨み付ける。
 その狭間には、戦車隊が並んでいた。
 隊員の一人が叫ぶ。

『ゴジラだああああ!!』
『撃て!撃て撃て撃てエエエ!』

 大砲の砲頭が次々に火を噴き、黒い怪獣に向かっていく。
 だがしかし、ゴジラに向けられた攻撃は全てその黒い皮膚を貫けず、跳ね返されていく。
 そしてゴジラは格の違いを見せつけるかのように大きく咆哮した。

 ギャアオオオオオン!!

『ッ・・!』

 その咆哮を聞くには、戦車隊の距離は近すぎた。大砲の発射音すら書き消す程の轟音に、隊員は思わず耳を痛めてしまう。
 それでも気迫を失わず、キャタピラを駆動させ後退させようとするがそこで絶望的な事実に気づいてしまう。


『どうした!早く後退しろ!』
『駄目です!
 背後にはヘドラが倒れています!
 後退出来ません!』

 彼等は気付いた。
 何処から現れるか分からない怪獣に備える為に横一列に戦車隊を並べてしまったせいで、背後に突然落ちてきたヘドラの巨体が横たわっているせいで、彼等は後退も旋回も出来なくなっている事に、
 今ようやく気付いたのだ。
 そして気付いた頃には、ゴジラの背鰭は青く光り、同じように青く輝く口が開いた。

 ゴォオオオ!!

 ゴジラの熱線は海を抉り、砂浜を割り、ヘドラの直線上にいた戦車を纏めて破壊して尚止まらず、ヘドラの顔面に熱線を当てていく。
 倒れたヘドラも熱線を受けて顔半分が吹き飛ばされて、悲鳴を上げながらヘドロを振り撒いていく。
 そのヘドロは戦車から飛び降りて逃げようとした隊員達に当たり、悲鳴を上げる間も無くその隊員を骨以外全て溶かしていく。
 前門のゴジラ、後門のヘドラ。
 彼等に生きる希望はもはや無いに等しかった。

『わ、わああああああっ!!
 撃てエエエ!撃って撃って撃ちまくれエエエ!』

 隊員達は大砲から腰に下げた自動拳銃まであらゆる火器を使いゴジラに攻撃を仕掛けていくが、その攻撃を怪獣が気にする事なく、ゆっくりと前進していく。
 悲鳴を上げる隊員、倒れて動けないヘドラ、歩み続けるゴジラ。
 彼等は皆、目の前の事実に気を取られて上空の数ある雲の一つが降りてきている事に気付かなかった。
 空中から援護の為に駆けつけた戦闘機に乗る隊員さえ、その雲がすぐ近くまで降りた事に気付かなかった。

『なんだ・・雲が、降りてきている・・?』

 雲が不自然に千切れ始め、中身が露になる。消え行く雲の中にいたのは、小さなヘドラ・・『トモ』だった。
 青い目をした、透明な泡を背中にしたトモは全身の管から水蒸気を出して雲に擬態してゴジラの近くまで近づいていたのだ。
 そしてゴジラを見つけたトモは、水蒸気を出していた管からガスを噴射させ、一気にゴジラの頭部に向かって突進。
 いくら小型トラック程の大きさとは言え、そこは怪獣。
 不意を突いて直撃すればゴジラさえ倒れる程の強さは持っている。
 ゴジラもまた熱線を吐く途中で攻撃を受けた為に体が吹き飛ばされ、飛沫を上げて倒れてしまった。
 あまりに突然の事態に、隊員はみんな一瞬、戸惑ってしまう。
 だが彼等も気持ちを落ち着かせる術は心得ている。冷静さをいち早く取り戻した隊員の一人が通信機で報告した。

『ほ、報告!報告!
 交戦中に突然、雲の中から未知の怪獣が出現してゴジラに襲いかかりました!
 繰り返すっ!未知の怪獣がゴジラと交戦を始めた!』
『了解!
 急いで戦場から撤退せよ!そこはもう戦場だ!怪獣と怪獣の戦場だ!
 我ら人間は速やかに撤退せよ!』
『了解!』

 戦車達が旋回し、急いで逃げていく。
 トモはそれに目もくれず、倒れたヘドラにふわりと近づいてくる。
 ヘドラは倒れたまま動かず、先ほどの攻撃のせいで顔半分が失われている。
 皆が必死に逃げていく中、一人の隊員は見た。
 その隊員は今まで何度もゴジラ撃退作戦に参加したが、一度も見た事が無いものだった。
 瀕死のヘドラを見た青い目の怪獣が、悲しそうに涙を流している所を見たのだ。

『あいつ・・泣いてるのか・・?』

 小さな青い目の怪獣は、倒れたヘドラに覆い被さる。
 するとヘドラの姿は消えていき、青目の怪獣は大きくなる。
 涙を流しながら、青い右目が赤く染まりながら、その姿は大きくなっていく。
 倒れたゴジラが立ち上がった時には、
 青と赤のオッドアイの怪獣はゴジラと同程度の大きさにまで成長し、
 輝く両眼をゴジラに向け睨み付けていた。

結(ユイ)5へ続く


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