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2021年08月24日06:26

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長編小説 角が有る者達 第240話

『2009年、イヴを知らないアダムが世界(リンゴ)を食べる』

 2008年11月、果心林檎は珍しく自分の心が踊っているのを感じていた。
 
果心(Gチップの開発は順調に進んでいる。
 遺伝子組み換えにより長寿になった動物も良好だし、その交配種にも変化は見られない。
 この計画が上手く進めば、動物だけでなく人類の長寿化も可能になるでしょう)

 果心林檎がこの研究を始めたのは、科学の力で人類が長生きして欲しいと願ったからだ。
 ここ百年は殺戮の時代が訪れていたが、その影で医療も確かに成長し、人々は簡単に病で死ぬ恐怖が薄れていた。
 ガンも手術すれば治療の可能性が出始め、事故が起きれば病院に運ばれて治療を施され、
 人々は理不尽な死に少しずつではあるが抵抗出来るようになっていたのだ。
 それは魔法の力で簡単に不老不死にされた果心林檎にとって、非常に魅力的な世界に見えた。
 
果心(父がそうだったように、人は皆死に怯えるだけじゃない。死に抗い、死に反発し、死に戦いを挑み続けていく。
 そうして、人々は誰もが夢見だった未来に踏み込めるまでに長命になった。
 私はそれを素晴らしい事だと思うし、同じ人としてその歴史に飛び込みたい気持ちでこの職業に入った)

 大学教授の立場に成った果心は、生徒達と共に研究を続けて、ようやく遺伝子改造チップの開発にまでこぎつけた。
 この研究グループの中ではトオルが一番に頑張り、まだ時間がかかると思っていた研究が一気に進む事が出来たのだ。
 このまま研究を続けていけば、果心の野望が叶う日も近いだろう。

果心(そうなれば、そうなってくれれば、皆が長生きしてくれれば、不老不死の私の苦しみを真に理解してくれる人が現れれば・・私の心には希望が生まれてくれる筈)

 果心はこれからの未来に心を踊らせながら、深夜の研究室の扉に手をかける。
 普段なら深夜にこの部屋を訪れる事はないが、今日は些細な忘れ物をしてしまった為に訪れたのだ。
 果心は扉に手をかけると、扉が簡単に開く事に気づいた。毎日この部屋は必ず鍵をかけるよう皆に伝えているのだが、今日は最後の人が忘れたのか、それともまだ帰ってないのか。
 そう考えた果心は特に警戒せずに扉を軽く開けると、扉が軋む音が室内に響く。
 それを聞いた室内の住人が、大声で叫んだ。

「誰だっ!!」
果心(・・・・なに?)

 その声に聞こえた果心は右手で魔術を行使し、その手に自らの愛刀を握らせる。
 そしてゆっくりと歩きながら怒声の主に声をかけた。

果心「驚かせてごめんなさいね、私よ。
 果心教授よ。
 貴方がこの学校の生徒なら顔を見せてくれると有り難いんだけど・・」

 もし、そうでなかった時の為に刀を鞘から抜き、鞘を魔術で隠す。
 緊張する果心の前に、声の主である男が姿を現した。

トオル「果心先生・・」
果心「トオル君?
 貴方、なぜこんな夜遅くに・・?」
トオル「先生こそ、なぜこんな時間に?
 右手に持ってるのは、一体・・」
果心「右手?私は何も持ってないわよ。
 ほら」

 そう言って果心が見せた右手には、魔術で刀を消した為に何も握られていなかった。
 それを見たトオルは一度何かを考えるように目を瞑った後、笑顔を果心に見せる。

トオル「す、すいません。
 実は忘れ物をしてしまって、こっそり取りにきたんですよ」
果心「あら、そうなの。
 忘れ物を取りに来ただけなのね」

 そう言いながら果心の視線は鋭くトオルの鞄の中身を見ていた。
 まだ研究中の資料が沢山ある。外に出してはいけない研究資料のレポートが、鞄の中に詰め込まれているのがハッキリ見えた。

果心「それで、忘れ物はもう無いのかしら?」
トオル「え、あ、は、はい。
 も、もう何も無いです」
果心「そう、もう思い残す事は何も無いのね」
トオル「・・・・・・」
果心「・・・・・・」

 緊張した雰囲気。秘密資料の詰まった鞄。彼が泥棒を働いているのは完全に分かりきっていた。
 果心はそれら全てに気付き、トオルは果心が刀を何時でも取り出せる事すら知らない。
 果心はゆっくりと歩み始める。
 その一歩一歩に先ほどまでの軽快さはまるでなく、果心が一歩一歩進むごとにトオルの体が硬直し、全身が震え上がった。

トオル「あ、あの、その、俺、俺は・・」
果心「・・・・」
トオル「俺、俺は妹の為に、金が欲しくて、それで・・」
果心「・・・・」
トオル「この研究を、高く買ってくれる企業がいて・・資料を持ってきて欲しいと言われて、それで、それで・・!
 す、すいま」「あったわ、私の忘れ物」

 果心はトオルの直ぐ側に落ちている小さな財布を手にした。
 トオルは体を震わせながら、僅かに顔を果心の目線に合わせる。
 果心が財布を開けて中身を確認するが、紙幣もカードも朝見た時と全く変わりなかった。
 果心はその財布から一万円札を数枚取りだし、いまだに凍りつくトオルに見せる。

果心「貴方もこんな夜遅くまで頑張って大変でしたね。
 これをあげるから、好きなものでも食べて元気を出しなさい」
トオル「か、果心先生・・?」
果心「終子ちゃんが来なくなってから、貴方はこの研究で一番貢献したわ。 
 誰よりも必死に研究し、誰よりも必死に努力していた。
 だから貴方がそれを好きにすればいい。
 ただし・・」

 果心はトオルに背を向け、自分が先ほど入った扉に向かい歩き出す。
 歩きながら、果心は宣言した。

果心「明日からしばらくここには来ないでちょうだい。きっと、皆は貴方を許さないかもしれないから」
トオル「せっ・・先生っ!」
果心「またね、トオル君」

 そう言って、果心はトオルに一度も振り返らないまま、部屋を出ていく。
 トオルは紙幣を握りしめたまま、その拳をわなわなと震わせたまま、
 ただただ黙って涙を流し、膝をついた。
 月の無い真夜中に包まれたまま、トオルはただただ涙を流すしか無かった。
 
 翌日、果心は昨日の出来事を仲間達に話し、仲間は多少感情が揺れ動いたものの、彼を咎めようとはしなかった。
 
 この時果心はこう思っていた。

『私達が研究を進められなくとも、他の人達が研究をするならそれで構わない。
 あのチップが完成すれば皆の寿命が少しでも長くなり、病気に対する恐怖が薄れてくる。
 トオル君に金が入れば彼の望みも叶えられる。
 私達にはそれぞれが既に研究出来る実力がついている。
 これが一番、誰も傷つかない未来の筈だ』

 果心の心は高貴であった。
 数百年の時間を過ごして尚、人の正義を信じられる高潔さを持っていた。
 その彼女だからこそ、トオルの突然の裏切りですら許す事が出来た。
 だがしかし、世界は常に混沌で満ちている。
 善人だけで世界は回ってないし、悪人だけが蔓延る事も無い。
 彼女の願いには、沢山の善人が必要だが、現実にそんな沢山の善人は存在しないのだ。

 
 そして時は流れて2009年1月。
 ある企業が発表したチップ『Gチップ』は瞬く間に世界中に拡散され、世界中の人間が『天才』と『能力者』に別れた。
 輝かしい科学の発展、能力者と天才の様々な亀裂。
 世界が目まぐるしく動き続ける中、
 果心林檎達はある小さなニュースに目が釘付けになった。

『昨夜、エドガー大学の大学生であるゴルゾネス・トオル氏が自宅で亡くなってるのを近隣の住民が発見しました。
 検察の解剖によると、餓死だと判明しました。警察は自殺の線で捜査をすすめており・・』


△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ 


〜現在、アタゴリアン港〜

メル「ガアアアアアアッ!!」

 メルはエイジィに殴られて切断された右腕の切断面を左手で必死に抑えながら悲鳴をあげ続けている。
 そのすぐ傍にはメルの右腕が硬化状態のまま転がっていた。

アイ「メル・・!」
ルトー「え、何・・?
 メル、君は分裂能力があるだろ?それで腕と本体が離れただけなんだろ?
 何を騒いでるんだよ・・さ、さっさと立ち上がって腕を取れよ!」
スス「違うわ、ルトー」

 声を荒げながらデッキから落ちそうになるほど体を前に詰めるルトーの肩を、ススはそっと押し戻しながら諭していく。

ルトー「す、スス・・」
スス「メルの能力は『一度に一つしか発動出来ない』。そして今、『硬化状態』の能力を使って攻撃を防ごうとして、防げなかった・・」
ルトー「・・じゃあ、あの腕は能力で取れた腕じゃない?
 奴の攻撃で、硬化状態のまま腕が強引にぶちきれたせいで転がっているって言うの?
 そんな訳あるか・・!
 そんな訳があってたまるかよ!」

 ルトーは再びメルに向き直り、激を飛ばしていく。

ルトー「メル、立ち上がれ!
 立ち上がってあのデカブツを倒せェ!
 お前負けたらぶっ飛ばすぞコノヤロー!」
「黙れ、外野(ギャラリー)ごときが」

 ルトーの声援を遮断したのは誰でもないエイジィだった。
 やせ細った女の子の姿はそこにはなく、左腕同様の漲った筋肉が全身を覆った大男にしか見えない姿がそこには立っていた。

フォト



エイジィ「カスキュアから体の支配権を一時的に預かったからな。
 お陰で全身に筋肉を漲らせる事が出来たぜ。服が破けそうなのが少し嫌だが、まあ良いだろう」
カスキュア(嫌あーーっ!!下乳が丸見えーーっ!!)
ユー「うるさい、そんなに嫌なら自分の体に帰れば良いじゃん。
 大体、あんたの貧相な乳袋が豊満に育って良かったじゃん」
カスキュア(うるせえあんな筋肉だらけの豊満ボディいらねえんだよおおお!!)
ユー「自分の体なのに文句うるさいなあ・・でも、このままだとメル君が危険だし、手を出さない訳にはいかないね」

 ユーはナイフを取り出しながらメルに止めを刺そうとしているエイジィに向かって走りだした。
 ユーはナイフを投げようとした瞬間、手が急に強くナイフを握りしめ投げられなくなってしまう。

ユー「!?」
カスキュア(ケケケーッ!
 あんたの筋肉を硬直させたわ!
 アタシがとりついてる以上、簡単にあんたの思い通りにはさせないわよ!)
ユー「・・いや、簡単に思い通りにさせてもらうけど」

 ユーはナイフの柄を握りしめたまま、足に力を入れ、更に背中から緑の葉で作った翼を作り上げる。

カスキュア(え?何それ?)
ユー「何って、葉っぱで作った翼よ。
 『葉翼(リーフ・ウィング)』!」

  ユーが背中の葉を羽ばたかせ、空を飛ぶ。ユーは握りしめたナイフを構えたまま一直線に飛んでいき、エイジィがメルの頭目掛けて振り下ろそうとする右腕にナイフを刺した。

エイジィ「ガッギャアアアアアっ!?」
ユー「メル君!
 うずくまってる場合じゃない!早く離れて!」
メル「う、あ・・!」
ユー「早く!」

 メルは何かを言いたそうに口をぱくぱくと動かした後、すぐに落ちた右腕を拾い少し離れていく。
 それを見た後にユーが振り返ると、エイジィが腕に刺さったナイフを引き抜き、放り投げた後に傷口に左腕で触れる。
 すると傷は消えていき、血はでなくなった。

エイジィ「てめえよくも俺の体に傷つけやがったなあ!」
カスキュア(アタシの体でもあるけどね)
ユー「あんただってメル君を傷つけたじゃん。自業自得よ」
エイジィ「だったら俺を傷つけたてめえがお前を殴り殺そうが自業自得だよなぁ!」

 エイジィが豪、と右腕を振り下ろし、ユーの頭を砕こうとするが、
 ユーは僅かに屈めて拳をかわしながら右腕の手首を掴み、左手で僅かに残ったシャツを掴みながら肩でエイジィの巨体を持ち上げようとする。
 少女の体躯で巨男の体躯は持ち上がらない筈だが、背中の両翼がエイジィの体を、持ち上げた。

エイジィ「は?何、を・・」
ユー「ハアァァァアアアア!!」

 エイジィの体が浮き上がり、自由が奪われてしまう。ユーは気合いを込めて腕を引っ張り、エイジィの体は一回転。

 昨日、果心がアイにやったように、ユーがエイジィ相手に一本背負いを決めたのだ。エイジィは受け身が取れないまま頭から叩きつけられ、全身を衝撃が襲う。

エイジィ「ぐはぁ!」
アイ「ええええええっ!?
 い、一本背負いを決めたアアっ!?」

果心(あの子・・!
 昨日、一度見ただけでその技を習得したと言うの!?)
アイ「す、すげえなユー!
 昨日見ただけの技をすぐ使えるなんて!流石俺の娘だ!」
ユウキ『あんたがやられた技だけどね・・』

 アイと果心が同じように驚いてる間、ユーは息を切らせ、体が動けなくなっていた。
 筋肉の詰まった巨体を持ち上げるには、少女の体は弱すぎたのだ。
 投げ飛ばしただけで体中の筋肉が悲鳴を上げ、息が乱れていく。『葉翼』が茶色く枯れていき、ポトリと体から抜け落ちた。
 
ユー(な、なんて重さなの・・!?
 力一杯、『葉翼(リーフ・ウィング)』の力も合わせてなければ、途中で潰されていた!
 パパと果心さんはこんな激しい戦いを、いや、それ以外にもずっと戦い続けていたなんて・・!で、でも!)
「あんたみたいな弱い奴には絶対に、負けてたまるもんか・・私は勝つんだ・・」
「弱い奴だって?」

 声は、背後から聞こえてきた。
 ユーが振り返るより先に背中に拳が刺さり、軽い体が吹き飛ばされてしまう。
 そして10mほど吹き飛ばされた所で地面に叩きつけられた。

エイジィ「まさかてめえ、
 俺が弱い奴だと思ってる訳じゃねえよなあ」
ユー「ぐは、が・・!」
エイジィ「俺は最強の存在、時代(エイジィ)様だぞ!
 てめえみたいなヒョロ細メスガキの分際で、俺に叶うわけがねえだろうが!」

 そう言いながらエイジィは走りだしてくる。ユーが素早く立ち上がろうとするが、体が動かない。

ユー「また、体が勝手に!」
カスキュア(キヒヒッ!
 アンタ、ダメージ受けてるんだからぐっすり休みなよぉー!死ぬまでずっと休みなよぉぉぉ!!)
ユー「体を動かすのは無理・・なら!
 『葉煙(リーフ・スモッグ)』!」

 ユーが手をエイジィ向けて伸ばした瞬間、ユーの手の隙間から大量の葉がエイジィの顔面目掛けて飛んでいく。
 葉は全て僅かに湿っており、葉は全てエイジィの顔面に縛り付き、離れなくなった。

エイジィ「うぐ、目が見えない・・息も・・畜生、小細工ばかりしやがって・・!
 カスキュア!てめえこのクソガキをちゃんと黙らせろよ!」
カスキュア(ダメだ、こいつの葉を使った技・・未知の系統を使ってる!
 魔術の一種なのか、元から葉を自由に出せるのか分からないが、こいつの動きを完全に止められねえ!)
ユー「ハァーッ、ハァーッ!
 あんたの声は、あいつに筒抜けって、訳・・!?」
カスキュア(あ?あ、ああ、そうさ・・!
 あんたの動きは大体、アタシを通じてあいつに筒抜け!だからあいつにカウンターなんて無駄なんだよ!)
ユー「その割に結構、反撃を受けてる気がするけどね・・それに私は」

 言いながら、ユーは立ち上がりいまだに顔に付いた葉を取ろうと足掻くエイジィに向かい走り出した。

カスキュア(げ、こいつまたアタシの『精神拘束(スピリット・ロック)』を抜け出して・・!?
 ヤバい、エイジィ!早く逃げるんだ!)
エイジィ「むぐぐ、奴が向かって来てるなら足で蹴り返してやるぜ!うらぁ!」
 
 エイジィが足を振り上げるが、その先にユーはいない。ユーは既にエイジィの背後に立っていたからだ。
 そしてユーが拳を作ると同時に葉が大量に拳に集まり、硬い緑のグローブが完成していく。

ユー「やられたら、やり返す・・!
 喰らえっ、『葉拳(リーフ・パンチ)』!!」

 がら空きの背中にユーの拳が炸裂し、今度はエイジィが4メートル程吹き飛ばされる。
 だが今度はエイジィがすぐに立ち上がった。先ほど殴られた衝撃で顔に付いた葉が全部取れている。

エイジィ「テメエエエエッ!!
 よくもこの俺を殴りやがったなあああ!!」
ユー「あいつ、雑魚の癖に結構タフね」
カスキュア(さっきから気になってたけどこの状況でなんであんたさっきからエイジィ様を雑魚呼ばわりするのさ!?
 馬鹿なの!?)
ユー「え、だってあいつ・・」
エイジィ「百倍にして返してやるぜこのアマがアアアア!!」
ユー「ち、『葉盾(リーフ・シールド)』!」

 エイジィが走り出し、ユーは葉盾を出して防御しようとする。
 だがエイジィは自分の右手を左手で触り、呟いた。

エイジィ「ふん、『改造(ボディ・キット)』」

 エイジィが呟いた瞬間、右腕がぶくぶくと膨らみ始めた。
 ユーが目を丸くし、カスキュアはニヤリと笑みを浮かべる。

エイジィ「俺の能力は『一を壱に、壱を壹に変える力』!だから傷を無くす事も力を増幅する事も可能だアアアア!!」
ユー「不味い、このままじゃ『葉盾』ごと・・!」
エイジィ「おぉぉわりだああああ!!」

 エイジィが葉盾の背後に隠れてるユー目掛けて拳を振り下ろす。ぎちぎちに握りしめられた拳を受ければ、先ほどのメルと同じように引きちぎられる。
 ユーがそう思った瞬間、『葉盾』の前に誰かが躍り出る。
 大きな背中が見えた時、ユーは思わずその人物の名前を言いそうになる。

ユー「パ・・!」
メル「ハアアアアアアッ!!」

 背中の主・・メルは裂かれた腕を切断面に当てながらもエイジィとユーの間に滑り込み、切断面をエイジィの拳に向けた。

エイジィ「何!?」
ユー「メル!?」
カスキュア(あいつ、何する気だ!?)

 三者が驚き、その中心地点にいるメルは強力な拳を受け吹き飛ばされ、『葉盾』に激突してメルはうめき声を上げながら地面に落ちていく。
 葉盾の背後から、ユーが急いで顔を出してメルの安否を確認した。

ユー「メル君、メル君!
 あいつの攻撃をまともに受けて・・大丈夫なの!?」
メル「・・・・ち、違うよ、ユー、ちゃん・・。
 僕は、あいつの攻撃を受けなきゃいけなかったんだ・・・・」
ユー「え・・?」

 ふらふらと立ち上がるメル。
 だが、その右腕は、先ほど切断されたばかりの右腕は、繋がっていた。
 生まれたばかりの頃から当然に繋がっていたように、傷一つなく右腕が繋がっている。

エイジィ「何!?俺の渾身の一撃を受けて、ダメージを受けるどころか回復するだと!?」
メル「・・・・君のお陰だよ、エイジィ。
 君の能力は『一を壱に変える能力』。簡単に言えば触れるもの全てを癒す力だ。
 だからその力を込めた拳に触れれば、君に破壊されたこの腕も治る訳さ・・」
エイジィ「ぎ!き、貴様・・!」

 メルは右腕をぎゅっと握りしめる。
 その腕は切断される前と同じ、硬化されている。
 メルは左手に持っていた小さな粒をエイジィに向けて投げた。
 あまりに咄嗟に投げたため、エイジィの左手に小さな粒が当たった。

エイジィ「なんだ、今お前、何を投げた!」
メル「僕は考えてたんだ」
エイジィ「あ?」
メル「考えてたんだよ、君の『一を壱に、壱を壹に変える能力』を僕なりに分析してみたんだ。
 で、思ったんだよ。
 君の再生能力、使えるなって・・」

 左手に触れた粒は、どんどん大きくなる。それは石に、岩に、大きく大きく成長していく。

エイジィ「な、な、な・・!?」
メル「ここは『港』だ。
 海に面した場所である以上、様々な物質が時間と共に小さな小粒となって崩れていく。
 僕はその崩れた物質の一つを君にぶつけたんだ。
 体積8メートル、重さ20トンのテトラポットの欠片をね!」
エイジィ「な、何ィィィっ!?」

 左手に付いた岩が大きく、重くのしかかってくる。エイジィは急いで強化した右腕で振り払おうとするが、重すぎて出来なかった。
 ずしりずしりと重くのしかかる消波ブロックに潰されないよう、エイジィは両腕で支えるのが精一杯だ。
 
エイジィ「がああああっ!!
 お、重いイイイイイイイイ!!」
メル「僕はあらゆる能力を使う事が可能だ。だがその為にはあらゆる能力を『理解』しなければいけない。
 だから僕は、人一倍『能力』を分析する力があるんだ!」

 メルの叫びを聞いて、アイの背中が震え上がった。

アイ「メル、あいつ・・!
 最後に会った時から成長してるじゃないか。
 ユーもどんどん成長している!
 おいおい、俺もうかうかしてたら容易く抜かされるか!?未来が楽しくなってきたじゃあねえか!」

 そして、震えたのは果心も同じだった。

果心「なんて事・・!?
 メルヘン・メロディ・ゴートは本来なら私達の未来だった。
 そしてユーはゴブリンズの未来。
 あの二人は、正しく私達の未来の象徴!
 そして、カスキュアは私達の過去であり、エイジィはゴブリンズの過去。
 あの二人もまた、正しく私達の過去の象徴。
 これは、未来と過去の戦い!」

アイ「・・なら、俺達はやはりこの戦いには手は出せない。現在(いま)を生きる俺達には、この戦いを邪魔する事は出来ないんだ!」
 

メル「ユーちゃん!
 エイジィの体ががら空きだ!いまなら・・」
ユー「分かった!『葉刃(リーフ・ナイフ)』!」

 ユーは葉で出来たナイフを構え、エイジィの足元を狙う。
 そして素早く投てきするとナイフは真っ直ぐ飛んでいく。
 そしてエイジィの足に刺さり、その痛みから驚いて手の力が抜けてしまう。
 そうすれば当然、頑張って支えていた20トンのテトラポットは落ちてくる。

エイジィ「ぐっ!しまっ・・!
 ギャアアアアアアアアア!!」

 結果として、エイジィの体はテトラポットに下半身を挟まれ動けなくなってしまった。
 その横ではメルとユーが拳を合わせてグータッチし互いに勝利を喜んでいた。
 その中で、カスキュアもまた喜んでる事に気づかずに・・。


続く

 

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