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2021年08月17日08:24

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中編小説 石鹸怪獣へドラ 結2


結(ユイ) 2

 マサルは夢を見ていた。
 夢の中は薄暗い海の中で、そこではゴジラがマサルの見たことがない怪物と戦っていた。
 赤い目がギラギラ光る、鈍い銀色のブヨブヨした体を海中で蠢かせながら、それはゴジラに向かい両手を広げて襲いかかってくる。対してゴジラが咆哮し、気合を見せた。
 ゴジラは熱線を吐いて対抗するが、なんと怪物は熱線に自ら当たり、更に体を貫通してもなお気にも止めずに進んでくる。
 それにゴジラはすぐに気づくが、攻撃を止める間もなく怪物は穴が空いた体で自身に覆い被さる。
 ただでさえ息苦しい海中で、更に怪物の体を覆い被さられてゴジラは海底に倒れてしまう。半分やけくそ気味にゴジラが熱線を吐くが、怪物はそれも貫通してしまう。
 だが貫通した熱線はすぐちかくの山に当たり、幾つもの岩が転げ落ちてくる。
 それに驚いた怪物はいそいでゴジラから避難し、距離を取る。
 幾つかの岩が体にぶつかりながらも立ち上がったゴジラの姿は痛々しいものだった。黒い肌のあちこちが焼け爛れ、血のようなものが流れている。
 ゴジラは咆哮して怪物にもう一度戦いを挑もうとする。
 だが、この時マサルの耳にはゴジラの他にももう一人の声が聞こえた。

『マサルっ!!
 お前、勉強ぐらいちゃんと出来ないのか!なんだこの点数は!』

 突然聞こえたそれは、確かにマサルの父の声だった。いきなり父の声が聞こえて困惑するマサルをよそに、怪物達は戦いを続ける。
 ゴジラは怪物に光線が通用しないとわかったのか、岩を何度も投げていく。
 だがその岩も怪物の体に触れると、じゅわじゃわ溶け始めてきた。
 しかしゴジラの反撃はここからで、溶け始めてきた岩目掛けて熱線を吐くと岩が爆発し、怪物の体が一部抉れてしまう。
 怪物は自身に起きた予想外の衝撃(ダメージ)に驚き、それを見たゴジラはまた咆哮を上げる。
 そしてマサルの耳に入ったのは、母の声だ。

『マサルっ!!
 家が汚いわよ!私達より家にいるんだからさっさと掃除しなさい!』
『ごめん、ごめんよ・・』

 謝る声はマサルの声だが、それはマサル本人が発したモノではなく、あの怪物から聞こえてきた声だった。
 名も知らぬ怪物は、マサルの声で喋る。

『ごめん、ごめんなさい・・』
『うるさいっ!謝る暇があるなら勉強しろ!お前は俺達の息子である自覚があるのか!天才科学者達の息子である自覚が無いからこんなひどい点数がとれるんだ!
 ひどい点数をとっても平気でいられるんだ!恥知らず!恥知らずだお前は!』
『お前、家にいれば親がなんでもやってくれるわけ無いでしょう!
 あんたの為を思って言ってるんだから、早く掃除しなさい!』
『ごめんなさい、ごめんなさい・・』

 マサルの声を発する怪物は、謝りながらゴジラから逃げようと海面へのぼっていく。それをゴジラが逃すわけがなく、今までより大きな岩を投げながらそれに熱線を当てて怪物目掛けて飛ばしていく。
 その光線と同時に、両親の恐ろしい怒声がマサルの耳に容赦なく入り込んでくる。

『マサルっ!お前はダメな奴だ!!
 お前みたいなダメな奴はいらない!』
『ホント、あんたは最低の子だわ!
 あんたみたいな役立たず、邪魔なのよ!』

 その熱線を受けた怪物は上へ上へと飛ばされていく。
 ゴジラの姿は見えなくなっていき、マサルは無我夢中で叫び続けていた。

『ウワアアアアアアッ!!
 ごめん、ごめんなさい!ちゃんと良い子にするから!ごめんなさい!捨てないで!見捨てないで!ワアアアアアアッ!!』

△ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △

『お父さん!お母さん!』

 マサルが目を覚ました時、そこは知らない部屋の真ん中にいた。
 古びた土壁に囲まれ、畳の感触を感じながらマサルは辺りを見渡した。
 トモの姿は見えないがすぐそこに『洋服が汚れていたので、お古の洋服を用意しました』と書かれた手紙と洋服一式が置かれていた。
 それを見て、マサルは少しずつ落ち着きを取り戻していく。
 そして事態を把握する。
 自分はゴジラや大人から逃げた事。
 老人を助けた事。
 その老人に銭湯に入る事を勧められ、孫に無理やり体を洗わされた事。
 そして、トモが風呂をとても気にいっていた事。

『そうだ、トモ・・。
 トモは、今どこにいるんだ!?』
 
 着替え終えた後に部屋を出るとユイに出会ったので自分の服はどうなったか聞いた所、凄く呆れた口調で、

『あなたの服はあんんまりにもバッチいから、お兄ちゃんのお古を着させたわよ。
 今は洗濯機で洗い中。
 あんな汚い服、よく今まで平気な顔で着れたわね』

 と返された。
 マサルは苛立った様子で『トモはどこにいるの』と聞いた時、それに答えたのはユイではなく、杖をついたゴヘイだった。

『オオ、目を覚ましたようで安心したよ、マサルくん』

 マサルはゴヘイに掴みかかりそうな勢いで歩み寄りながら訊ねる。

『おい、トモは何処にいるんだ!
 トモに会わせて!』
『トモ?ああ、あの・・。
 あいつなら、今は倉庫に連れているよ』
『倉庫・・?』
『ちょうど良かった。
 お前も見るといいさ』

 ゴヘイはそう言って背を向ける。
 マサルはまた彼についていくしか出来なくて、それが悔しかったが、
 トモが今どうしてるのかどうしても気になって、その気持ちを抑えた。

 数分歩いて辿り着いた場所は、とても大きな倉庫だった。マサルが先ほどまで入っていた銭湯より二回りは大きな倉庫で、厳重な扉の先には幾つかの南京錠が着いていたが、全て外れていた。
 ゴヘイが大きな扉をゆっくりと開けると、
 そこには大量の箱が置かれていた。
 その全てに『ヤノ石鹸』と赤い文字で書かれている。
 幾つも積み込まれた箱の上に、それはいた。
 2メートルはあるブヨブヨした体の、鈍い銀色の体をした青い目の怪物が箱の中を漁っていた。
 それを見たマサルは息を飲み、ゴヘイは静かに話し始める。

『やっぱ、トモの正体はヘドラだったんだな。そしてあいつにとって、
 この箱の中身は美味しい食事だったんだな』

 呑気な声色で喋るゴヘイの後ろで、感情を無くしたユイが黙ってトモを見つめていた。

『・・・・トモは、怪獣なのかな』
『いや、ワシはそうは思わん。
 少なくとも半世紀前にこの国に現れたヘドラとは別もんだ』
『ヘドラ・・?
 ヘドラって、何・・?』

 そこからか、と小さく呟いたゴヘイはマサルに向き直る。

『今から半世紀前にこの国を襲った・・ワシの知る限りでは最もおぞましい怪獣の名前が、ヘドラだ。
 そしてトモも、ヘドラの一種なんだよ』
『え・・』

 マサルは言葉が詰まってしまう。
 時は夕方で空は暗くなり始め、太陽は赤と黄色に染まっていた。
 その色はゴヘイの記憶にとって、最も忌まわしい色である。
 公害怪獣ヘドラのギラギラと輝く赤目と同じ色だからだ。

結(ユイ)3へ続く


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