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2021年06月18日06:29

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中編小説 石鹸怪獣へドラ 承2 後編

『育成室』

 工場の大量にあるカメラの一つが、異様な部屋を見せる。『育成室』とテレビの下には書かれているが、室内には大量の石油や薬液で満たされていて、その中心には銀色のブヨブヨした皮膚を持つ、縦に割けた赤い眼の怪物が壁に向かい体当たりしていた。
 それを見たハザマは震え上がり、叫ばずにはいられなかった。

『うわああああああ!!
 あ、あれは何なんですか!?』
『あれは我々が大切に育てているペット、『へドラ壱号』だ。
 どうも近くでゴジラが暴れてるせいで気が立っているみたいだな・・。
 電力を強化するのは出来ないのか?』
『ダメです、先ほどゴジラが熱線で電磁ネットを破壊した影響で電力が充分な程回っていません!』
『ち、不味いな・・』
『しょ、所長・・!』

 ハザマは声を震わせ、顔を真っ青にしながら所長に詰め寄る。そこに新入社員としての彼の顔は無かった。

『所長、な、なぜそんな事を・・!』
『・・そういえば君は、この前のニュースを見たよな。我が工場から零れる液体からオタマジャクシが出るニュース。
 あれはオタマジャクシではなく、へドラの幼体だ』
『え、え?ど、どういう、事です・・?』
『一応、表向きには『工場の廃液からへドラが産まれた』ようにしてるが、実際は『へドラから産まれた僅かな幼体が漏れ出ていた』程度の話なんだよ。
 だからうちの工場はいつまでも閉鎖しないし、ヘドリウムZは完成した』

『政府が、そんなの黙ってるわけかま・・!?』
『黙ってるもなにも、政府公認の研究だよ。俺達にいつも怪獣対策の兵器を開発依頼をする研究者共がこう言ったんだ。
 「へドラの産み出す毒は素晴らしい。この毒を利用すればゴジラを追い返すだけじゃなく退治する事も可能になるのではないか」とね、そして我等の手で産み育てたのがあのへドラ壱号というわけさ。
 昔、核の炎からゴジラが誕生した。
 そして今、我々の手で怪獣を誕生できたと言うわけさ、どうだ、素晴らしいだろう?』

 ハザマは、言葉が出なかった。
 無論感謝や感動で言葉が詰まったのではなく、憤怒と悲観の間に立ってしまった為に体が動かなくなってしまったのだ。
 憤怒とは、自分の家族が公害で死んだのにその公害の権化のような怪獣を自分達の手で育てていたという事実への怒り。
 悲観とは、それを平然と笑っているこの男と社会に対し、小さな自分が一人怒った所で何も出来ないという事実への悲しみ。
 その二つの感情により、ハザマは動けなくなってしまったのだ。
 動けないまま、ただただ所長の自慢話に小さく相槌を打つことしか出来なかった。
 しかし現実は、そんな呑気な状況ではなくなっていた。

 電流の壁が消えたへドラは、何度も壁を打ち続けていた。まるで今まで自分を抑え続けた忌々しいモノをはらうように、何度も体をぶつけて壁を破壊しようとしていた。
 だが壁は非常に固く、溶解液をかけても何の効果も無かった。
 それを見た所長は笑う。

『ははは、お前の毒の強さを考慮せずにそんな檻を作るわけないだろう、へドラ壱号』

 マイクを使ってない所長の声がへドラに届く筈が無い。それでもへドラは喚きながら壁を叩きつける。
 ハザマから見ればその様は公害の権化という怪物ではなく、まるで廃液まみれの赤子が一生懸命もがいているようで、それをはははと朗らかに楽しそうに笑う大人達の方が遥かにグロテスクな怪物に見えてしまって。
 彼は自分がそんな人間の一人である事に、非常に気持ち悪くなってしまった。
 
『うっ』
『はは、おやハザマ君どうかしたかね。
 まああの怪獣の姿は気持ち悪いから、吐きそうになるのも無理はないか・・今はへドラは後回しだ。自衛隊に連絡、そしてゴジラの拘束を強化するようアイツラに連絡しろ』
『分かりました』

 所長の指示通りに無表情に部下達が業務をこなしていき、誰一人としてへドラに目を向ける人も感情を向ける存在もいなかった。ただでさえぐちゃぐちゃに揺れていたハザマの心が更に揺れ動く事態が発生する。

『ゴジラ、立ち上がりました!』
『なに・・?』
『ヘドリウムZを受けた箇所を、自らの腕で引き裂きながら立ち上がってます!』

 彼等が驚きの表情を見せながらテレビに目を向けた時、ゴジラは確かに立ち上がっていた。喉から血を流し、肉を自らの爪で傷つけながら立ち上がっていた。

『な、なんだあいつ・・!?
 自分で自分の肉を抉ってやがる!な、なんだ、アイツはなにしてるんだ!?』
『拘束隊、到着!
 指示をください!』
『あ、く・・もう、もう一度だ!もう一度ワイヤーで貫け!』

 拘束隊が先ほどと同じようにゴジラに向けてバズーカを向けるが、その時ゴジラは喉を傷つけながらも背ビレを発光させていた。
 バズーカを発射し、ワイヤーがゴジラに向かって飛んでいく。
 そして先ほどと同じようにワイヤーの先端が体に刺さらず、跳ね返されて撃った者達の前に落ちてくる。
 拘束隊が見ると、先端がどろどろに溶けていた。

『な、なんだこれ、は!?
 なんで溶けているんだ、なんで刺さらないんだ!
 お、おい誰か、誰か説明しろ・・!』

 所長がうろたえる間にゴジラの口は青白く発光し、熱線となって放たれる。その向かう先は人のいる方向でも、工場地帯でもなく、一見すると何もない地面。
 しかしその下には、へドラが暴れている育成室があったのだ。
 その育成室めがけて、ゴジラは熱線を吐いた。

 ゴォオオオオオ!!

 映像の中のへドラが突然驚き、何度も叩いていた壁から突然離れたかと思うと、壁がいきなり破壊され熱線が部屋を貫いた。
 そしてそこまでで、へドラの部屋を映す映像は途切れてしまった。

『所長、へドラの育成室の連絡が切れました!』
『まずい、へドラが部屋から飛び出すぞ!総員、今すぐ地下に逃げろおおお!』

 所長が指示を出すや否やすぐに部屋から逃げ出し、他の人もそれに続いていく。
 だが、ハザマだけは地下とは別の方に向けて走り出した。
 彼が別の方へ走り出した時、ただの一度も同僚や上司に振り返ろうとはしなかった。

 そして、地上ではゴジラの前にへドラが姿を現していた。
 赤い両眼をギラギラと輝かせながら、ゴジラを睨み付けて・・。


転1に続く


 

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